セールスフォース(Salesforce)がスラック(Slack)買収を発表。いずれも人気サービスを提供する上場企業だが、気になる「格差」も存在する。
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- セールスフォース(Salesforce)がスラック(Slack)を277億ドルで買収する。同社史上最大の取り引きだ。
- 両社の役員報酬には大きな隔たりがある。セールスフォースの役員報酬はスラックの実に4倍以上。
- セールスフォースの報酬には大量のオプション報奨(=自社株の購入権)が含まれる一方、スラックの報酬には大量のストック報奨(=現物株式の付与)が含まれる。
セールスフォースがビジネスチャットアプリのスラックを277億ドル(約2兆9000億円)で買収する。同社にとっては史上最大の買収案件だ。
オンラインコラボレーションツールがかつてないほど重要性を増しているこの時代に、顧客関係管理(CRM)ソフトウェア最大手のセールスフォースと、ユーザーから高い評価を受けるビジネスチャットアプリのスラックがひとつになる意味は大きい。
間もなく統合されるセールスフォースとスラックだが、両社は(当然のことながら)まったく異なる企業で、とくに役員報酬には大きな隔たりがある。詳しく見ておこう。
セールスフォースの役員報酬は「最高27億、最低13億」
セールスフォースのマーク・ベニオフ会長兼最高経営責任者(CEO)。2019年の役員報酬は2600万ドル。
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セールスフォースは21年前の1999年2月に設立され、以来いくつかの大型買収を経て、近年ではソフトウェア業界の巨人として君臨している。
2019年にデータ分析企業のタブロー(Tableau)、その前年にはデータ統合プラットフォームのミュールソフト(Mulesoft)を買収し、時価総額はいまや2190億ドル(約23兆円)にのぼる。
2019年の役員報酬は最低1200万ドル(約12億6000万円)、最高で2600万ドル(約27億3000万円)、平均すると1570万ドル(約16億5000万円)だった。平均で比較すると、スラックの4倍以上に相当する。
スラックの時価総額は240億ドル(約2兆5000万円)、役員報酬は最低340万ドル(約3億6000万円)、最高で420万ドル(約4億4000万円)。平均400万ドル(約4億2000万円)だった。
下の【図表1】【図表2】は、最新のプロキシ・ステートメント(=株主総会招集通知、新規役員や報酬などが記載される)にもとづき、セールスフォースとスラックの役員報酬とその内訳を示したものだ。
図表から間違いなく読み取れるのは、セールスフォースのほうがより多くオプション報奨(=新株予約権)を出していて、スラックはストック報奨(=現物株式支給)の占める割合が圧倒的に大きいことだ。
【図表1】セールスフォース(Salesforce)の役員報酬。共同CEOを置いているため、開示義務の対象が上位6人分になっている。
Maddy Simpson/Business Insider
【図表2】スラック(Slack)の役員報酬。新興企業の開示義務軽減措置により、上位3名のみの開示。
Maddy Simpson/Business Insider
(図表中の用語解説)
「給与(Salary)」…役員が1年に受け取る現金報酬
「ストック報奨(Stock awards)」「オプション報奨(Option awards)」…株式報酬は各企業の中長期インセンティブプランの達成度に応じて支給される。中長期インセンティブは変動リスクのある報奨と見なせる。ストック報奨とオプション報奨はいずれも株式報酬の一種で、前者は「現物株式」を直接付与するもの、後者はあらかじめ定められた価格で「自社株を購入できる権利」を付与するもの。
「ボーナス(Bonus)」「NEIP」…短期的なパフォーマンスに対する現金報奨が一般的。ここで言うボーナスは一時金、NEIP(Non-Equity Incentive Plan)は短期インセンティブプランの一環としての現金報奨を指す。短期インセンティブも変動リスクのある報奨で、あらかじめ定められた目標あるいはベンチマークをクリアしないと受け取れない。
なお、スラックのみ役員報酬が3人分しか図表に含まれていないのは、以下のような理由による。
米証券取引委員会(SEC)は上場企業に対し、最高経営責任者(CEO)と最高財務責任者(CFO)、およびそれに続く上位3名の役員報酬を開示することを義務づけているが、いくつか例外がある。
スラックのケースがそれで、同社は2012年の「Jumpstart Our Business Startups(JOBS)法」で定められた「新興企業(Emerging Growth Company、EGC)」、すなわち「直近の会計年度で売上総額が10億ドル以下」に該当するため、開示義務について軽減措置を受けている。
(翻訳・編集:川村力)