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セールスフォースとSlackが「対マイクロソフト」で連合する必然。コロナ禍で激変するビジネスチャット市場

SalesforceとSlack

セールスフォースは、Slackを277億ドルで買収すると正式に発表した。

撮影:小林優多郎

顧客関係管理サービスの巨人・セールスフォース(Salesforce)が、ビジネスチャットアプリの代名詞とも言える「Slack」を買収した。買収額は277億ドル(約2兆8900億円)と巨額だ。

Slackはサービス面での評価が高いサービスで、277億ドルという買収額もそれに見合った大きなものと言えるだろう。

11月末に買収の観測が出てから短期間での発表に驚く人もいるだろうが、一方、「この組み合わせは納得」というIT業界関係者が多いのも事実だ。

なぜ、セールスフォースはSlackを買ったのか? それは、ある意味で「コロナ禍であるから」に他ならない。

全方位にライバルを生み出すマイクロソフトの「Teams」

コロナ禍

新型コロナウイルス感染症拡大で、日常生活や働き方は大きく変わった。

撮影:今村拓馬

コロナ禍で、我々の働き方は変わりつつある。すべての職種がそうなったわけではないが、テレワークやリモートワークに代表される「対面や集合を必須としない働き方」は、仮にこのパンデミックが終息したとしても定着するのは間違いない。

その中で、仕事のためのコミュニケーションシステムとして「ビジネスチャット」が重要なのは間違いない。

Slackは市場で強力な支持を集めているビジネスチャットツールであり、決して「不調」ではない。10月には年次イベント「Slack Frontiers 2020」を開催、企業間連携や組織内のつながりを強化する機能などを発表し、積極的な技術開発をアピールしていた。

スチュワート・バターフィールドCEP

Slackの共同創業者であるスチュワート・バターフィールド氏(10月実施の Slack Frontiers 2020より)。

出典:Slack

セールスフォースは、クラウドベースのCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)事業者として、業界最大手だ。デジタルマーケティングツールやサイト構築、データ可視化など、多数の企業を買収して機能を拡充し、企業のためのサービスインフラを一手に担う企業へと成長してきた。

一方で、セールスフォースにはマイクロソフトという巨大なライバルもいる。CRM事業では、セールスフォースとマイクロソフトの「Dynamics」が競合している状況だ。

そこに、マイクロソフトが新たな武器として拡充し続けているのが「Microsoft Teams」である。

サティア ナデラCEO

マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏(9月に実施された Microsoft Ignite 2020より)。

出典:マイクロソフト

Teamsはビジネスチャットツールであり、ビデオ会議ツールであり、データ整理のツールでもある。複雑でわかりにくい、という評価もあるが、機能的にはとにかく貪欲だ。

Dynamicsと連携し、営業支援や顧客サポート、グループウェア的なアポイントやファイルの管理まで、あらゆる作業のフロントエンドとして活躍できる。

コロナ禍になって、Teamsには「ビデオ会議」という追い風が吹いた。Zoomとの競合を意識し、機能追加もさらに加速した。

今までTeamsを使っていなかった企業も、ビデオ会議を主な目的としてTeamsを導入し、そこからビジネスチャットもTeamsに……という例は少なくない。

一般法人向けMicrosoft 365

日本で展開されている一般法人向けのMicrosoft 356に含まれるサービスの一部。

出典:マイクロソフト

Teamsは万能選手であるがゆえに、セールスフォースにとってもZoomにとっても、そしてSlackにとっても仮想敵となっている。

10月27日には、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが、「Teamsの日間アクティブユーザーが1億1500万人を超えた」と発表した。半年前の4月末には7500万人だったものが、驚くほどの伸びだ。

理由は積極的な機能追加だけではない。Teamsが法人向けの「Microsoft 365(旧Office 365)」のライセンスにバンドルされてくるからだ。Microsoft 365を導入している企業は追加コストなしで導入できるため、ハードルが非常に低い。

このことは、Slackなどのライバルにとって非常に不利な状況だ。実際に同社は「マイクロソフトの手法は不公正である」とも批判している。

「コロナ禍株」として伸び悩んだから合併できた事情も

Microsoft Teams

機能強化を続けているMicrosoft Teams。

出典:マイクロソフト

ビジネスチャットやビデオ会議は今後の基本ツールであり、さらに、そこから生まれる大量のテキストや音声は、AIによる解析を通して、企業にとって重要なデータベースともなり得る。

セールスフォースも社内SNSツール「Chatter」を提供しているが、基盤として使うには弱い印象もあった。マイクロソフトが全力でTeamsを推すのであれば、セールスフォースにも武器が必要だ。

そして、ビジネスチャットからプラットフォームを目指すSlackとしても、TeamsやZoomなどの「ビデオ会議勢」に遅れている印象を持たれるのは困る。実際、Slackもビデオ会議連携は積極的にやっていたからだ。マイクロソフトの営業力への対策も必要だ。

アイコン

セールスフォースとSlackは互いに補完関係にある。

撮影:小林優多郎

そうすると、自ずと答えは出る。

強いビジネスチャットを求めるセールスフォースと、プラットフォームとしての強化・販売促進力の強化を求めるSlackは、お互いに補い合う立場なのだ。

テレワーク下で重要になるサービスということから、Slackを「コロナ関連株」とみなす人もいるだろう。だが、実際にはそうではない。そうでなかったことが、現在のSlackの苦悩でもある。

以下は、この1年のZoomとSlackの株価を比較したものだ。Zoomの伸びが圧倒的だ。どちらもテレワークに必要なサービスだが、少々過熱しすぎとも思えるZoomなどのビデオチャット系銘柄に対し、Slackの株価の動きは鈍い。

比較表

Zoomは8月に300ドルを超えて、最近は400ドル超で推移。一方のSlackは、買収報道後こそ急騰しているものの、コロナ禍では30ドル前後で推移しており比較的おとなしめ。

Markets Insiderのデータとグラフをもとに、Business Insider Japanが作成

これ以上株価が高くてはSlackの買収は難しく、一方のSlackも単独戦略でいけるか、悩みどころだったはずだ。

マイクロソフトという共通のライバルと戦う上で、「一緒になる条件が揃っていた」というのが、今回の大型買収を成立させた最後のピースなのである。

(文・西田宗千佳


西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

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