2020年、人事界隈で「ジョブ型雇用」はバズワードと言っても過言ではない。
撮影:今村拓馬
人事界隈ではバズワード、といっても過言ではないほど2020年は「ジョブ型雇用」が注目を集めた。ジョブ型は職務記述書(ジョブディスクリプション)を明示して、仕事に対して人を割り当てる雇用形態で、欧米で一般的だ。
リクルートキャリアの調べによると、ジョブ型雇用は、従業員5000人以上の大企業では2割が導入。しかもそのうち7割は、この1年以内でジョブ型を導入していたことが明らかになった。
コロナによる先行き不安やテレワーク急拡大ともあいまって、新卒一括採用・終身雇用を前提とする日本固有の「メンバーシップ型雇用」が大きく揺らいでいる。そんな中、グローバルで一般的なジョブ型雇用がメディアを賑わせたというわけだ。日立製作所、富士通、KDDIなど大企業が導入していることも話題を呼んだ。
しかし、調査を行ったリクルートキャリアの担当者は「ジョブ型は全ての組織に合っているわけではない。ジョブ型、メンバーシップ型の二元論ではない」と、にわかに巻き起こった「ジョブ型狂想曲」には警鐘を鳴らしている。
大企業ほど認知されている
調査は、全国の企業人事担当者1224人を対象に実施(2020年9月)。そもそも「ジョブ型雇用」という言葉はどのくらい浸透しているのか。
全体では「知っている」が54%、「知らなかった」が45%でほぼ半々だった(小数点以下切り捨て)。
5000人以上の企業では6割以上が「知っている」と答えており、調査では「従業員規模が大きいほど認知度は高い傾向がある」としている。
出典:リクルートキャリア
実際の導入率でいくと、全体では12%と一部にとどまる。
しかしこれが、従業員5000人以上では2割に達し、全体平均より7.5ポイントも高い結果となった。従業員数の多い企業ほど、導入に積極的という傾向がはっきりしている。
もっとも多い理由「労働時間削減のため」
撮影:今村拓馬
では、その目的はなんだろう。
ジョブ型雇用を「導入済みまたは導入経験あり」の企業に対して、取り入れたり検討したり理由を聞いたところ、もっとも多いのは「特定領域の人材(デジタル人材など)を雇用するため」で54%。
そのあとは以下が続く。新型コロナが背中を押した企業も少なくない。
- 労働時間削減のため(51%)
- 新型コロナウイルスの影響により、テレワークなどに対応して業務内容の明確化が必要となったため(46%)
- 専門職としてキャリアを積みたい人材を採用するため(37%)
とはいえ、こうした「ジョブ型雇用」の知名度や浸透度を踏まえて、リクルートキャリアHR統括編集長の藤井薫氏は「加熱した2020年のメディア報道ほどは、企業には浸透していないのが見て取れる」と分析する。
メンバーシップ型は「育成に時間かかる」イメージ
出典:リクルートキャリア
終身雇用、年功序列といった日本固有の雇用である「メンバーシップ型雇用」は、ジョブ型雇用と対比して語られやすい。
調査ではこのメンバーシップ型雇用で、人事担当者が「課題に感じるもの」を聞いている。
もっとも多いのは「育成に時間がかかる」(35%)。そこへ「専門性がつきにくい」(33%)、「勤務地を変えてもらうときに退職リスクがある」(31%)などが多く上がった。
勤務地や職種を固定しないのがメンバーシップ型の特徴ではあるが、いわゆる転勤で退職してしまうリスクは一定量、感じられているようだ。
キャリアの選択権奪いつつ専門性嘆く、企業の矛盾
出典:リクルートキャリア
調査では、メンバーシップ型雇用のメリットも聞いている。
もっとも多いのは「職種を限定しないため、柔軟に配置ができる」(45%)。「ジョブローテーションが可能で本人の特性に合わせて育成ができる」(39%)など。
「年功序列などにより、長く勤めてもらえる可能性が高まる」(29%)という、人材確保面での企業側のメリットも上がっていた。
リクルートキャリアHR統括編集長の藤井氏は、調査では、メリットについて「職種を限定しないために柔軟に配置ができる」などがある一方で、課題として「育成に時間がかかる」「専門性がつきにくい」が上位になっている点に注目。
「これでは、企業は個人から働き方やキャリア形成の選択権を奪う一方で、専門性の課題を嘆くという自縄自縛の構造に見える」と、企業側の矛盾を突く。
どっちが優れているという話ではない
撮影:竹井俊晴
ジョブ型、メンバーシップ型のそれぞれに対する企業人事の回答から2020年を振り返り、リクルートキャリアHR統括編集長の藤井氏は、投げかける。
「新型コロナ禍を機に、ジョブ型雇用という言葉はインフレ状態になりました。『ジョブ型雇用が不可避』といった言説が広がりつつありますが、本当にそうでしょうか」
藤井氏は「中には一刻も早く古い日本型雇用を捨て去り、全ての日本企業はジョブ型に転換すべきという乱暴な指摘もある」と指摘した上で、2020年のジョブ型雇用をめぐる動きをこう評する。
「これではもはやジョブ型狂想曲です」
藤井編集長は「人事戦略は本来、経営戦略と切り離せない。ジョブ型かメンバーシップ型かはどちらが優れているという話ではなありません。
短期戦なのか、長期戦なのか。タレントで勝つのか組織で勝つのか——。ゲームのルールと経営戦略によって、企業ごとに設計するべきもの」と指摘する。
2020年ににわかに注目を集めたジョブ型雇用。
「日本型雇用はもう古い」と飛びつくのではなく、組織や事業との整合性をよく掘り下げる本質的な議論へと、シフトする時期が来ているようだ。
(文・滝川麻衣子)