感染者が増えてきた中でも会社へと向かう人は多い(撮影:11月19日)。
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「感染した人と濃厚接触したわけではないのですが、突然、発症しました。結構、衝撃でした」
11月後半、Business Insider Japanの取材にこう答えたのは、大阪府在住の会社員・ヨウスケさん(仮名・20代)。
ヨウスケさんは、いわゆる第3波が来る前段階の10月末に発熱し、大阪市内の病院を受診。PCR検査で「陽性」となり、大阪市内のホテルで約1週間の療養生活を送ることとなった。
アルコール消毒はもちろん、手洗いにもかなり気をつけるなど、日頃から感染対策の意識は高い方だった。接触歴通知アプリ「COCOA」からも通知はなく、感染リスクが高いとされる飲み会にもほとんど出席していない状況での感染に、驚きを隠せなかった。
大阪の感染状況の経緯。ヨウスケさんの感染が発覚した10月末は、大阪で感染者が増加しはじめたタイミングだ。
出典:大阪府 新型コロナウイルス感染症対策サイト
ヨウスケさんの症状は、20代という年齢もあってか、そこまで重くはない。
「仕事をしているときにちょっと熱っぽい感覚や、倦怠感があったのが最初です。翌日になっても熱が下がらなかったので、かかりつけの病院に行きました。
すると、『PCR検査をやっている大きな病院に行ってください』と案内されました。紹介された病院では外にテントがあって、そこが発熱外来になっていました。その中で、PCR検査を受けました」
検査結果が判明するのは翌日。会社の上司と相談の上、仕事は休みにして自宅待機することになった。
そして翌日の夜、病院から「陽性」と連絡があったという。
従業員が感染した時のフローはあるか?
従業員が陽性と判明して入院やホテル療養になった際、社内の濃厚接触者の有無や復帰までのプロセスの確認など、企業がやるべきことは多い(写真はイメージです)。
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ヨウスケさんの勤務先では、過去に新型コロナウイルスに感染した人がいたかどうかは、個人情報の観点から非公開とされている。
「ただ、対応を見ると、恐らく自分が1人目だったんだろうなと感じられるフローでした」(ヨウスケさん)
PCR検査で陽性であることが分かると、勤務先からは社内の濃厚接触者の有無や、復帰までのプロセスをどう考えるべきか議論するための情報を確認するために、何度も電話がかかってきたという。
また、PCR検査で陽性となると、自分が住んでいる地域の保健所からも連絡が届く。そこで、濃厚接触者に関するヒアリングや、ホテル療養に関する説明などがなされた。
これに加えて、濃厚接触者の住んでいる地域にある保健所からも、似たような問い合わせが続いた。
ヨウスケさん自身、濃厚接触者を辿る必要性などは理解しているというが、
「 自分の住む地域の保健所と、濃厚接触者にあたる方の住む複数の保健所の間で、情報が共有されていないようでした。熱が出ている中、同じような話を何度も聞かれるのは正直しんどかったです」(ヨウスケさん)
扱い上「軽症」とされているとはいえ、38度を超える発熱の中で対応が続いたことに疲弊したという。
ヨウスケさんは、最終的に陽性と診断された5日後にホテルでの宿泊療養となった。持病である軽度の喘息や、咳や味覚異常といった症状は残っていたとはいうが、この段階では既に発熱はおさまっていた。
その後、発症から10日以上経過した11月半ば頃には、症状も軽くなった。厚生労働省の指針に則り、ホテルでの療養期間は終了することになった(※)。
※:厚生労働省の指針で、発症から10日間経過し、症状が軽快してから72時間以上経過していれば、PCR検査なしにホテルや自宅での療養を解除することができる。
ただし、ヨウスケさんの会社では通常勤務に戻るために、「PCR検査で陰性」となるか、「症状がなくなってから3日以上経過すること」が条件とされていた。
ヨウスケさんはホテル療養が終わる直前に、保健所に依頼してPCR検査を受け直した。
しかし、そこで再度「陽性」と診断されしまった。11月末に実施した取材段階では、「ホテルからは出られるのに、会社には行けない」という状況で、自宅療養する日々を続けていた(12月現在、既に回復して仕事に復帰している)。
感染者がバッシングされない環境づくりを
会社などの特定のコミュニティ内では、「最初に感染した人」に対して差別的な目が向きやすい(写真はイメージです)。
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ヨウスケさんは、感染が発覚してからこれまでの勤務先の対応について、
「かなり丁寧に対応してくれたと思います。仕事はほかに回して対応できるようにして、まずは気にせず休めるようにしてくれました」
と、感染したことを責めることなく、安心して休める環境を作ろうとしてくれた姿勢に感謝していると語る。
濃厚接触者にあたる同僚に対しても、感染が分かった翌日、すぐに会社負担で全員にPCR検査を受診するよう通達された。このとき、ヨウスケさんを含めた濃厚接触者全員を同時に休み扱いにすることで、その時点でヨウスケさんが最初に感染したことが分からないようにされていたという。
特定のコミュニティ内では、「最初に感染した人」に対して差別的な目が向きやすい。会社の対応の中で、個人が特定されないような配慮が見えたことに、ヨウスケさんも安心感を覚えた。
一方で、疑問に思ったこともある。
「会社から何度も電話があったのは、感染者が出たときにどうするか、フローが決まりきっていなかった結果だと思います。もちろん、ある程度は対応方針が決まっていたとは思うのですが、それでも私とのすり合わせすることがたくさんありました。
『陽性になったらこうしてください』ということが最初から分かっていれば、もっとスムーズだったのかなと思います。国の指針に則って対応することはなんとなく分かってはいましたが、実際に勤務を元に戻す時の対応などは曖昧だったので」
と、事前の準備について、少し甘かった部分もあったと話す。
全国では、連日にわたり1000人、2000人規模で新型コロナウイルスの感染者が確認されている。とはいえ、自社の従業員が感染したという事業者は、まだ少数派だろう。
感染者が出たあとの具体的なフローについて、大雑把にしか検討できていない企業も多いのではないか。他の従業員への周知、対外的な広報の必要性、感染した従業員の復帰プロセスなど、検討しなければならないことは多い。
もし、陽性者が出たら、企業はどう対応すべきか
オフィスの従業員の感染が確認された場合、事業所の消毒などの対応も考えられる。
撮影:竹井俊晴
東京商工会議所では、会員企業向けに「職場で新型コロナウイルスの感染が疑われたら読むガイド」を公開している。
その中で指摘されている最も基本的なことは、社内で発熱者が出た場合は、無理をさせずにすぐに「自宅待機」とすることだ。
なお、現状の仕組みでは、PCR検査で陽性となりホテルや病院で療養することになった場合に、事業者は休業手当を支給する義務は生じない。一方で、まだ検査を受けていない「感染が疑われる」段階で企業側から自粛を要請した場合は、休業手当を支払う必要がある(参照)。
企業によっては、コロナウイルスに関連して業務ができなくなった場合に、有給休暇とは別の休暇枠を設けたり、給与を減額しないようにしたりといった手厚い配慮をしているところもある。
また、実際に感染者が確認された場合には、対外的な広報や保健所との連携など、やることは多い。「どのような情報をどこまで開示するか」という部分はもちろん、その過程で、感染した従業員の個人情報やプライバシーをしっかりと保護するためのフローや窓口の一元化などがポイントであるとしている。
撮影:今村拓馬
日本渡航医学会、日本産業衛生学会が制作した「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」では、実際に職場で感染者や濃厚接触者が確認された場合には、基本的には保健所に指示を仰ぐこととしているものの、実際には保健所自体も対応に追われている状況が考えられる。
そのため、
「状況によっては具体的な指示が得られ難くなることが懸念される。その様な事態に備え、事業者は独自に対応手順を定めておくことが重要となる。その際には感染者のプライバシーへの配慮が求められる。
なお感染者が確認された場合は、診断した医師から医療機関を管轄する保健所に届け出が行われるが、実際には、感染者本人から事業者に連絡をする方が早い。情報を得た事業者は(保健所からの指示を待たずに)事業所を管轄する保健所に連絡して、事前に指示を受けておくことが望ましい」
と、指示を待つだけではなく、あらかじめ必要な情報について事業者側で把握しておくことが望ましいとしている。
新型コロナウイルスの感染者が出た時に、企業として考えなければいけないことは多い。
各種資料を参考に、編集部が作成。
感染者への対応は、どうしても医療機関に頼らざるを得ない。一方、ある程度経済・社会活動を活性化させれば、感染者が増えることは自明だ。その最終的な受け皿は、医療機関や保健所などの最前線。
感染者数がなかなか減らない今、いかに最前線への負荷を下げられるのかがポイントとなってくることは間違いない。
企業での対応を整備しておくことは、まわりまわって医療機関などを助けることにもつながることだろう。
※本記事では、企業における「従業員のコロナ感染対策」の実態を調査するべく、文末でアンケートを用意しています。ぜひ回答にご協力ください
・東京商工会議所「職場で新型コロナウイルスの感染が疑われたら読むガイド」
・日本渡航医学会・日本産業衛生学会「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」
(文・三ツ村崇志)