SlackのCEOスチュワート・バターフィールド。
Drew Angerer/Getty Images
スチュワート・バターフィールド(Stewart Butterfield)が絶好調だ。
2000年代初め、バターフィールドは写真共有サービス「Flickr(フリッカー)」を作り、ヤフーに2000万ドル超で売却した。そして今、成長著しいビジネスアプリ「Slack(スラック)」をセールスフォースが277億ドル(約2兆9000億円)で買収することで合意した。
企業におけるコミュニケーション・テクノロジーがこれまでになく必要不可欠になる中、セールスフォースにとってSlackは最大のライバルであるマイクロソフトとの戦いの助けになるだろう。
47歳のバターフィールドのこれまでを振り返ってみよう。
(敬称略)
スチュワート・バターフィールドは1973年、ランドというカナダのブリティッシュコロンビア州にある小さな漁村で生まれた。一家が暮らしていた丸太小屋には、スチュワートが3歳になるまで水道が引かれていなかった。BBCによると、一家はスチュワートが5歳の時にブリティッシュコロンビア州の州都ビクトリアに引っ越したため、彼は学校に通うことができたという。
ブリティッシュコロンビア州ニューデンバーを流れるカーペンター・クリーク。
Citizen of the Planet/Education Images/Universal Images Group via Getty Images
Source: BBC
スチュワートの父デビッドは米陸軍の軍曹で、ベトナム戦争に対して道徳的呵責を感じていた。ある晩、デビッドは脱走すると決め、海外に派遣されるのを避けるために車でカナダへと向かった。Wiredによると、デビッドはカナダでスチュワートの母ノーマと出会った。
アメリカとカナダの国境を越えるドライバー。
Associated Press/Elaine Thompson
Source: Wired
スチュワートは、両親は「間違いなくヒッピー」で「その土地のものを食べて暮らしたいと考えていた」とBBCに語っている。両親はもともと彼を「ダーマ(Dharma)」と名付けたが、12歳になった時に「スチュワート」に変えた。本人はこれを残念に思っているという。「スチュワートという名前の良いキャラクターなんていない」とWiredに語っている。
Mike Blake/Reuters
7歳の時、スチュワート・バターフィールドは初めてのコンピューター「Apple II」を手に入れた。コーディングは独学で習得し、大学に入ると小遣い稼ぎにウェブサイトのデザインをした。「ぼくは子どもの頃からコンピューターとともに育った最初の世代の1人だ」とバターフィールドはBusiness Insiderに語っている。
「Apple II」は1977年に登場した。
Jaap Arriens/NurPhoto via Getty Images
Source: Business Insider, BBC
バターフィールドは1996年、カナダのビクトリア大学を卒業し、哲学の学士号を得た。その後、イギリスのケンブリッジ大学で哲学の修士号を取得している。
ケンブリッジ大学。
Shutterstock
Source: Wired
2000年、バターフィールドは友人ジェイソン・クラッソン(Jason Classon)のスタートアップ「Gradfinder.com」に加わった。インターネットバブルがはじけたものの、2人は会社を立ち上げてから半年後に、バターフィールドが「かなりの利益」と語った条件でHighwiredにどうにか売却した。クラッソンはHighwiredで働くようになり、バターフィールドはウェブ・デザインのフリーランスに戻った。
Charles Platiau/Reuters
Source: Business Insider
バターフィールドは「5K competition」と呼ばれる、5キロバイト以下のウェブサイトをデザインするコンテストを作った。これがうまくいった。「思いのほか大きくなって、世界中に広がった」とバターフィールドはBusiness Insiderに語った。
「5K competition」のウェブサイト。
5K contest
Source: Business Insider
2000年、バターフィールドは当時ブロガーだったカテリーナ・フェイク(Caterina Fake)と出会う。2人は2年後に結婚し、2007年には娘が生まれた。だが、その半年後には離婚した。
Andrew Toth/Getty Images for Vanity Fair
Source: Wired
新婚旅行の直後、バターフィールドとフェイクは、クラッソンとともにオンライン・マルチプレーヤー・ゲーミング・スタートアップ「Ludicorp(ルディコープ)」を立ち上げた。ただ、この時はタイミングが思うようにいかなかった。9.11同時多発テロとITバブル崩壊の影響で、会社は資金を調達できなかった。
Drew Angerer, Getty images
Source: Business Insider
バターフィールドが次のベンチャー「Flickr」の着想を得たのは、ニューヨークのホテルで食中毒を起こして嘔吐していた時だった。バターフィールドのチームは写真共有プラットフォームを作っていたが、両方のユーザーが同時にオンラインにいなければならないとなると、うまくいかないだろうと気付いた。チームが一部変更を加えると、Flickrはうまくいき始めた。
Flickrを立ち上げた頃のカル・ヘンダーソン、スチュワート・バターフィールド、エリック・コステロ。
Stewart Butterfield (Used by permission)
Source: Business Insider
Flickrは当時、いくつかの理由で革命的だった。クラウドで写真を共有するというコンセプト自体が新しかったし、タグ付けやユーザー認証、写真の閲覧範囲の設定といった機能でもFlickrは先駆的だった。2005年、ヤフーは2200万~2500万ドルでFlickrを買収した。
ヤフーの元CEOマリッサ・メイヤー。
Mario Tama, Getty Images
Source: Wired
買収の一環として、バターフィールドとフェイクはベイエリアに引っ越し、ヤフーに加わった。だが、3年後にはバターフィールドはヤフーでの仕事にうんざりし、会社を辞めようとした。Wiredによると、ヤフーは体裁を保つために(フェイクも辞めたばかりだった)もう数カ月会社にとどまるようバターフィールドに頼んだため、彼は何もせず、オフィスに姿を見せることすらしないまま、数カ月を過ごしたという。
Kimberly White / Stringer / Getty Images
Source: Wired
2008年6月、バターフィールドはようやく会社を辞めることができた。ヤフーをブリキ職人の作業に例え、自分の「小さくても成長するアルパカの群れ」の世話をするために会社を辞めるという有名な辞表を出した。
Brendan McDermid/Reuters
Source: Wired
ヤフーとFlickrを去ったバターフィールドは、Ludicorpと取り組み始めていたマルチプレーヤー・ゲームを作りたいと考えた。バターフィールドはカル・ヘンダーソン(Cal Henderson)を含むFlickrやLudicorpのかつての同僚を集め、「Tiny Speck(タイニー・スペック)」というスタートアップを立ち上げた。そして「Glitch(グリッチ)」というゲームを作り始めた。
2018年12月、Business Insiderのイベント「IGNITION」で話をするカル・ヘンダーソン。
Jin S. Lee
Source: Business Insider
「Glitch」には「カルト的な人気」があったものの、1700万ドルのベンチャー投資を正当化するのは難しかったと、バターフィールドはBusiness Insiderに語った。「ほとんどの人にとって、このゲームは風変り過ぎた」という。
「Glitch」より。
Glitch
Source: Business Insider
Tiny Speckは、ゲーム内でリアルタイムでチャットをするためにバターフィールドとそのチームが作ったコミュニケーションツールを完璧な形で方向転換させた。これがSlackと呼ばれるインスタント・メッセージ・プラットフォームして知られるようになる。Slackは2013年に正式にローンチした。
Beck Diefenbach/Reuters
Source: Business Insider
Slackの成長は、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)やクライナー・パーキンス(Kleiner Perkins)といったシリコンバレーの著名ベンチャー・キャピタルを感心させた。正式なローンチから1年も経たないうちに、Slackは評価額が10億ドルに達した、これまでで最も急速に成長した企業の1つになった。
アンドリーセン・ホロウィッツはSlackに投資している。
REUTERS/Brendan McDermid
Source: Fortune, TechCrunch
2018年の夏までに、Slackのデイリー・アクティブ・ユーザーは800万人を超え、アマゾンが買収の可能性を検討しているとの噂も飛び交った。Slackは合計12億ドル以上の資金を調達し、最後の資金調達ラウンドでその評価額は71億ドルに達した。
バターフィールドと俳優ジャレッド・レト。
(Photo by Dimitrios Kambouris/Getty Images for WSJ. Magazine 2015 Innovator Awards)
Source: Business Insider
2019年6月、Slackはニューヨーク証券取引所(NYSE)に直接上場を果たした。取引初日、その株価は50%近く上昇した。
スチュワート・バターフィールド。
Richard / Drew Associated Press
Source: Markets Insider
Slackが上場したのとほぼ同じ頃、バターフィールドはもう1つの節目を迎えていた。スーツケースなどが人気のブランド「Away(アウェイ)」の共同創業者ジェニファー・ルビオ(Jennifer Rubio)と、カナダのバンクーバーの近くのトフィーノという町で婚約したのだ。ルビオのインスタグラムによると、2人はペルーで結婚式を挙げる計画だったが、新型コロナウイルスのパンデミックを受け、キャンセルすることにしたという。
Awayの共同創業者ジェニファー・ルビオ。
Michael Kovac/Getty Images
Source: Jennifer Rubio/Instagram
2020年12月、顧客管理ソフト大手のセールスフォースはSlackを277億ドルで買収すると発表した。同社にとって、これまでで最も大規模な買収だ。CEOのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)は「これは天国で引き合わされた最高の組み合わせだ」とプレスリリースで述べた。
Drew Angerer/Getty Images
Source: Business Insider
(翻訳、編集:山口佳美)