2019年4月に米NASDAQに上場、コロナショックによるリモートワークシフトを背景に急成長を果たしたズーム(Zoom)。エリック・ユアン最高経営責任者(CEO、中央)がインタビューに答えた。
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- ズーム(Zoom)創業者のエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)がテクノロジーカンファレンス「ウェブサミット(Web Summit)」でBusiness Insider編集長のアリソン・ションテルと対談。パンデミック中の急成長と今後の展望について話した。
- ユアンによると、コロナショックの初期に個人ユーザーが殺到し、急場の対応に追われたという。「(当時は)とにかく可能な限り急いで事業規模を拡大する必要があった」。
- そうした厳しい時期が続くなか、ユアンはじめズームの従業員全員が指針として大切にし、毎日問い続けたことがある。「いまより良いサービスを目指すために、もっとほかに何かできないか?」。
- ユアンはコロナ収束に合わせてズームの人気が下火になるとは考えていない。今回のパンデミックによって、リアル出張なしでもビデオ会議で仕事はできることが明らかになり、日常を回復したらもうビデオ会議は必要なくなるとは誰も思っていない、ユアンはそう語った。
ビデオ会議ツール「Zoom」を提供するズーム・ビデオコミュニケーションズにとって、コロナショック一色だった2020年は信じがたいほど素晴らしい1年になった。ズームを知らない人はいまやほとんどいない。
新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい、オフィスは閉鎖され人々が家に閉じこもるなか、ズームはリモートワークや社内会議にとどまらず、結婚式や飲み会、ヨガレッスンなど、人と人がつながるあらゆる場で人気のプラットフォームになった。
こうした急激な需要増がズームの急成長を後押しし、いまや昼夜を問わず世界で数億人が同社のプラットフォームからビデオ会議に参加している状況だ。直近(8〜10月期)の売上高は前年同期比4.7倍(367%増)、株価は年初(73ドル)のおよそ6倍(413ドル)に達している。
その間、セキュリティとプライバシーの問題が相次ぎ、批判を受けて仕様の一部を変更したり、フェイスブックの元最高セキュリティ責任者(CSO)をコンサルとして招へいしたりといった事態も経験した。
ズーム創業者でCEOのエリック・ユアンは、Business Insiderのアリソン・ションテルと世界規模のテクノロジーカンファレンス「ウェブサミット」で対談し、この1年は新たに得た顧客基盤への緊急対応に追われ続けたことを明らかにした。
「ズームは当初、大企業の顧客を相手にビジネスを始めたわけですが、いま個人ユーザーを受け入れるべきときを迎えています。ただし、それはこれまでとまったく別のビジネスであって、適応するためになるたけ早く学び、行動に移さなくてはならないと思っています」
ユアンがどうやってビジネスに乗り出し、なぜ他社からの買収提案に興味を示してこなかったのか、コロナ危機が収束してもズームの人気が衰えないと考える理由は何か、対談の話題は多岐にわたった。
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Business Insider(以下BI):まずは度肝を抜かれるようないくつかの数字についてお聞きすることから始めましょうか。1年前の12月、ズームの1日のビデオ会議利用者は1000万人でした。それが4月には3億人へと急増です。こんなスケールアップをいまだかつて見たことがありません。
この1年間で実に「3兆分(500億時間)」のビデオ会議が行われました。また、直近の四半期(8〜10月)だけでも2019年通期の売上高を上回る金額を叩き出しています。昨年より間違いなく素晴らしい状況にある、それがズームの現在地です。
ただ、少し戻って今年1月を振り返れば、ズームはおそらくこの1年の成長計画を練っていたころですよね。当時どんなことを考えていたのですか。
エリック・ユアン(以下、ユアン):パンデミック前の時点ではもちろんこんな成長は予想していませんでした。2020年の目標は、18年も19年も同じでしたが、新たな顧客を開拓し、事業を成長させる方法を考えること。本当の意味での実力をつけるため、エンジニアの採用を強化し、過去数年と同水準の成長率を維持していこう……そんな具合で、これほどの急成長は端的に予想外でした。
BI:現実はごらんの通りです。すごいこと、驚くべきことですよね。
ユアン:もちろんです。また、(幸運というだけでなく)長い間折れずにここまで一生懸命やってこれた、その事実にも驚いています。いま夢が現実のものになろうとしている、そうですよね? ズームが人々の力になり、つながり続ける世界の後押しをしている。従業員もものすごく興奮しています。
あなたの会社が突然30倍以上成長したら、うまく回せると思いますか? 従業員は滅茶苦茶働かなくてはいけなくなるし、改善するところもいくつも出てくる。それは大変なことです。同時に、何をするにも絶好の機会とも言えますが。
中国からの渡米時にビザ発給を8回拒否された
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BI:そうですね、パンデミック後の需要増を背景に会社を成長軌道にのせたその手法については聞きたいことがたくさんあるのですが、その前に、話はさらにさかのぼって、あなたが起業した時期のことをお聞きします。20代のときに中国から渡米し、その前に8回ビザ発行を拒否されたと聞きました。
ビデオ会議ツール「ウェブエックス(WebEx)」の黎明期にスタッフとして加わり、その後同社を買収(2007年)したシスコで力をつけ、退社を決めたときには約800人のチームを率いていたとか。40代になり、それでも(ウェブエックスとは)別のツールが必要だと考えたわけですね。
あなたが起業を考えたときのことを教えてください。それより前から会社設立を考えていたのですか? キャリアという意味では、シスコですでに十分な成功をおさめていたはずです。それを捨ててまで起業した理由を聞かせてください。
ユアン:いまご紹介いただいた通り、私は27歳でアメリカンドリームを追い求めてシリコンバレーに移り、幸運にも1990年代のインターネット革命の波にのることができました。ちなみに、私はすべてのイノベーションはスタートアップエコシステムから生まれると考えています。
1997年にアメリカに移住したときから、いつか起業したいと考えていました。いつ、どうやって、という具体的なことは何も考えていませんでしたが、起業は夢だったのです。常に準備はしていましたし、だからこそシスコをやめて起業することもできました。
起業したもうひとつの理由が、ウェブエックスのチームにいたことです。シスコをやめる前の年、私は毎日会社に行くのが嫌になっていました。ウェブエックスを使っているユーザーが誰一人として楽しそうに見えなかったのです。それがやめるきっかけになりました。
シリコンバレーで働いている人たちはみんな夢を持っていると思います。何かを始めたいとか、スタートアップエコシステムの中に飛び込みたいとか。
BI:プロダクトの重要性を強く感じていたわけですね。いまおっしゃったように、ウェブエックスの不幸なユーザーをたくさん見てきたから。
ただ、そうやって起業しようとしたにもかかわらず、資金調達に苦しみ、起業アイデアそのものもくり返し却下されたと聞きました。「こんなアイデアは他ですでにやられている」「アップルのフェイスタイムみたいな競合に対抗できると思っているのか」という具合に。
シスコや(傘下の)ウェブエックスにいたあなたには、その問題点がよくわかっていた。でも、別のソリューションが必要だということに当時あまり気づく人はいなかったわけですね。起業するまで何度くらい却下されたんですか?
ユアン:ありがたいことに、何度却下されたか覚えてないんです。あまりに多すぎて。そして思い返せば、投資家の方々は間違っていなかった。ものすごいレッドオーシャンでしたから。大手ベンダーがたくさんいて、無料サービスまである。これ以上にソリューションが必要だなんて誰も考えていませんでした。
それでも、私には長年たくさんの顧客と対話を続けてきた自負がありました。市場をよく知っていたのです。市場のポテンシャルは大きい、けれども既存のプロダクトはどれもこれもユーザーに受け入れられていない。だから、より良いソリューションを生み出せるチャンスは少なくともあると思っていました。
その結果は先ほどあなたが言った通りで、出資してくれるベンチャーキャピタル(VC)はありませんでした。まあ、もし自分がVCを経営する側だったとしても、出資していたかどうかわかりませんが。
BI:そう考えると、最後に出資を決めた方々はいまごろ「してやったり」といった感じでしょうね。
さて、ズームはこの1年、あなたの夢見ていたものを上回る指数関数的な成長を果たしたと思いますが、それはその前にしっかり利益を生み出す堅実な成長期があったからこそですよね。
成長のスイッチが入る瞬間はどのあたりだったのでしょう。新規株式公開(IPO)前のズームはどんな感じで、どうやってスケールアップを果たしたのでしょうか。
ユアン:上場前のズームの成長は、他のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)企業と似たような感じです。はじめの数年間は倍々で成長し、ソフトウェア開発に本腰を入れると多少成長が鈍化する、それ以外にやり方はありません。ステップバイステップで、オーガニックグロース(=社内に蓄積される資源を活用して売り上げを伸ばしていく)を続けることです。
言ってみれば、マネジメント(管理)可能な成長こそ私たちの目指す姿なんです。それでいいと思っている。今回のような急成長は期待していなかったし、実際こうなると大変なことばかりですから。
BI:IPOはあなたの目指していたゴールだったのでしょうか。「買収されるのもひとつの方法では?」とか「これから買収されるのもひとつの方法」と考えたりしたことはありませんか。現時点でも十分な成功だと思いますが、競争はまだ続きます。ズームが今後歩むべき道をどのように考えていますか。
ユアン:1997年の記憶を思い起こせば、インターネット革命で本当にたくさんの企業が上場を果たしました。私自身も種をまいていて、いつか会社をつくろうと考えていました。ニューヨーク証券取引所で鐘を鳴らしてNASDAQ上場を祝う日がくることを心から待ち望んでいたのです。そのために起業したのだから、会社を売り渡すなんて考えたこともありません。どんな条件を提示されても同じです。
大企業向けサービスを個人向けに対応させる難しさ
2019年4月18日、上場を果たしたときの様子。ニューヨークのNASDAQ取引所にて。
REUTERS/Carlo Allegri
BI:素晴らしい。ズームの投資家があなたにこう言ったことがあるそうですね。「高校卒業がキャリアのピークだなどと考える人がいないように、IPOもピークだと考えてはいけない。その先もずっと物語は続くのだから」。実際その通りでした。
ここからはこの半年間のことを聞きたいと思います。すでに触れたように、ズームのビデオ会議利用者数は爆増を果たしました。指数関数的なこの成長にどうやって対応したのですか。外にいるユーザーからは見えないこともたくさんあるのでは?
ユアン:最初に言いたいのは、私たちは上場企業コミュニティの新参者として、いま得られる新鮮な経験を楽しんでいるということです。
社内について言えば、とにかく感謝しかありません。従業員は一生懸命働き、素晴らしい結果を残してくれている。ユーザーの視点に立って、どうしたらもっとプロダクトを良くできるか、毎日できるだけのことに取り組んでいます。
次に、外から見ればこの成長ぶりは確かにすごい。ただ、社内的にはまた違う感覚があります。パンデミックの間に、初めて使う個人ユーザーが大量に流入しました。また、私たちは目下、12万5000校以上の学校に無償でサービスを提供しています。
ズームは大企業向けに設計したサービスなので、個人ユーザーの使い勝手はまた異なります。したがって、プライバシーやセキュリティの機能について、個人ユーザーと大企業ユーザーのそれぞれどういった機能を優先するかを考えた上で、改善せねばなりませんでした。なるたけ早くビジネスを進化させる必要に迫られたのです。
まずは個人ユーザーから始めて、大企業を受け入れていくのが普通のビジネス。私たちの場合はその逆。まったく違うんです。予想もしないこの事態に適応するため、急いで学び、急いで実行に移す必要がありました。
BI:大企業向けから個人ユーザー向けへの方向転換はどうやって実現させたのですか。いま話のあったセキュリティ面での課題を、世間が注目するなかリアルタイムで解決していったわけですが、どうしたらそんな迅速な対応が可能に?
ユアン:最初に、私たちのカルチャーは「幸せを届ける」というひと言で表現されます。すべてを消費者(個人ユーザー)の視点に立って考え、できる最大限のことをする、という意味です。そうしたカルチャーがあったからこそ、突然の事態にも対応できたのだと思っています。
また、私たちは新たなユースケースや新たなユーザーとめぐり会ったときは、一歩引いてそれまでと何が違うのか把握するようにしてきました。エンドユーザーの視点からは私たちのサービスがどう見えているのか? いまとは別の形で何かできないか? というように。
例えばプライバシーの問題。セキュリティ機能を改善しなくてはならないとしたら、大企業ならIT部門のチームと私たちが一緒になって機能を改善したり、公開したりできるでしょう。
ところが、個人ユーザーには専属のITチームがいないので、何をどうするか決めるところまで私たちがやらないといけない。社内の(大企業向けの)慣行やプロセスを切り替え、新たなユースケースや個人ユーザーを受け入れるために私たちがやっているのは、とにかく急いで学ぶことです。
BI:そうした急場の対応にあたって、あなたのCEOとしてのルーチンは何か変わりましたか。チームについてはどうでしょう。おそらく皆さん、不眠不休でPCに張りつき、1日中キーボードを叩く毎日だとは思いますが。
ユアン:実は毎日のルーチンはそれほど変わっていないんです。パンデミック前に比べてちょっと働く時間が長くなったくらいでしょうか。相変わらず、毎日起きたら考えることも、「さて、今日は(昨日までと違う)何ができるだろうか?」です。
夕方にも同じような時間を15分間とります。「思考瞑想」と呼んでいるのですが、「もし今日をもう一度やり直せるとしたら、ほかにどんなふうに過ごせただろうか?」と自分に問いかける時間です。
ミーティングも増えましたが、楽しんでいます。1日に19回ビデオ会議という日もありました。それでもルーチンはほとんど変わっていません。
BI:規模の面でもだいぶ大きくなりました。年初に2400人超だった従業員がいまや3400人、1年で1000人ほど増えています。どうやってそれほどの急拡大に成功したのか、またそうした状況のなかでどうやって企業カルチャーを維持しているのか。長時間の激しい勤務が続くなかで、たくさんの新たな仲間を受け入れるのは相当大変だと思います。
ユアン:良い質問をありがとうございます。私が夜遅くまで起きていないといけないのは、実際、本当に大変だからです。従業員が1000人に満たなかった時代は、会社のかじ取りはさほど難しくはありませんでした。それが、いまや数千人を超え、四半期ごとに数百人の新しいスタッフを迎え入れる状況ですからね。
とくに現在は全員が在宅勤務なので、採用後のオンボーディング(受け入れ)プロセスも以前とは異なります。外出自粛で相互の交流もないので、きわめて厄介です。
どうしたら新規採用した従業員たちに既存の従業員と打ち解け、しっかり組んで仕事をしてもらえるのか。社内のビデオ会議時に新たに加わった従業員をどうやって覚えてもらうか。カルチャーやバリューとは何か。毎日議論は尽きません。くり返しですが、私たちは学びの最中です。簡単ではありません。
「辛抱強くやれ」「ビジネスの確立には時間がかかる」
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BI:急成長を遂げるあらゆる企業において、従業員にとっても経営者にとっても、急な変化についていくことは難題のひとつですよね。あなたはウェブエックスの初期スタッフとしてそれを経験し、いまおそらくズームでも同じ状況に直面しているのではないでしょうか。
ある企業があるフェーズに順応できたからといって、その次のフェーズでも同じことができるとは限りません。あなたやあなたのチームはどんなふうにして成功をおさめてきたのですか。
また、最近ズームは経営陣に新たな顔ぶれをたくさん引き込んでいるようですが、パンデミック前から会社にいた人のみならず、後から入ってきた人も会社に適応できるように、どんなことをしているのでしょうか?
ユアン:ズームには私を含めた全従業員が日ごろから常に大事にしているフィロソフィーがあり、それは「より良い私たちになるために、いま以上に何ができるだろうか?」と問い続けることです。
パンデミックの前から毎日、常にこのことを問い続けてきました。企業カルチャーとして、幸せを届けることを掲げているからです。私はいつも従業員の前で、より良い自分になろう、絶えず向上の努力を続けようと語りかけています。だからこそここまで続けてこられたのでしょう。
ご指摘の経営幹部については、そもそも他の会社で結果を残したとか賞をとったとかを基準に採用をしていません。最も重要なのはポテンシャルの大きさです。それがあれば、会社の目指すゴールに向かってともに成長していくことができます。
社内の昇進についても、とくに候補者を定めていないケースが多く、スケジュールだけ決めてそこに向かってみなが努力し、到達した人が昇進の権利を得られる。そうすることで全員が新たな何かを学び、成長していくことができるのです。
BI:最後のまとめに入る前にもうひとつ質問です。あなたがいままさにそうしているように、起業家と呼ばれる人たちは、解決すべき問題をいち早く見つけ、スピード感をもってたくさんの顧客を集め、爆発的な成長フェーズにたどり着きますよね。
若い起業家たちにアドバイスをもらえますか。パンデミック前の自分が知っていたら役に立つと思えることは何かありませんか。
ユアン:そうですね、ふたつあります。ひとつは、昨日の成功をふり返らず、いまやっていること、しかりやれることを辛抱強くやり続けろ、ということですね。企業カルチャーとして言うなら、忍耐強くあれ。いつか良い日は必ずやって来るから。
もうひとつは、サステナブル(持続可能)なビジネスを確立するには時間がかかるということ。良いときも悪いときもあり、顧客を失うこともあれば得ることもある。いろんなことがあります。上向きのときも下向きのときも、あらゆる瞬間を楽しみましょう。
常にそういう自分を維持できるかどうかが、起業家にとって最も重要なことだと私は考えています。
「世界はハイブリッドになる」
BI:最後に、仕事、旅行、そしてズームの近未来について、あなたの考えを聞かせてください。まずはズームの未来から。パンデミックはどこかで収束しそうです。最近ファイザーが高い有効性の認められるワクチンの開発に成功し、ズームの株価にも影響が出ました。パンデミック後はどんな展開を想像していますか。
ユアン:まずは、ズームのビジネスうんぬん以前に、誰かができるだけ早く有効なワクチンを見つけ出してくれることを、全従業員が望んでいます。3月から在宅勤務を続けていますが、これは非常に苦痛なので。
それを前提に言うと、私たちの働き方、暮らし方、学び方、遊び方はすっかり変わってしまいました。コロナショックが収束してオフィスに復帰する日が来ても、すべての従業員が毎日通勤することはもはやないでしょう。
一番可能性が高いのはハイブリッド。つまり、今日明日は全従業員がオフィスで仕事をし、翌週は全員が在宅勤務とか、月水金と在宅勤務で、火木はオフィスに出社といった働き方です。
世界はハイブリッドになります。それは気候変動対策としても、生産性の向上にも、良い効果をもたらします。それこそが私たちの受け入れるべき世界なのです。
そう考えると、ズームのようなツールは生き残ります。コロナショックが去ったから誰もビデオ会議を使わなくなる、といったことにはなりません。ビジネスツールとしてだけでなく、家庭でもさまざまな用途でズームは使われ続けるでしょう。
BI:では、出張の未来はどうなるとお考えですか。ズームは最初からあまり出張しない会社ですよね。IPOに伴うロードショー(=機関投資家向け訪問説明会)もほとんどリモートでやったとか。出張はズームに置き換わると思いますか?
パンデミック以前は、仕事で出張するとしてもせいぜい年2回がやっとでした。ズームを使えば、出張するよりはるかに多くの会議に出席できますからね。もっと言えば、出張には時間がかかりすぎだし、気候変動に対する悪影響もあります。
私の基本的な認識としては、コロナショック後は世界中でビジネス出張が減っていくと考えています。ただし、旅行そのものが減っていくとは思いません。家族と過ごす時間が増え、家族と一緒に旅行する機会はこれからもあるはずです。
問題はあくまで出張。ズームのようなツールがあれば、より多くの従業員や顧客、将来顧客になってくれる人たちと会えるということがもうよくわかったはず。みな問題なく仕事できています。出張は減っていくと私が考えるのは、こうした現状があればこそです。
BI:ビデオの将来はどうなるでしょう。ビデオとその未来形との戦いはまだ始まったばかりという感じがします。5Gの導入はどんな影響を及ぼすでしょうか?バーチャルリアリティ(仮想現実)は?
ユアン:ズームのビデオ会議は将来にわたって(今日皆さんが感じているのと同様に)良い経験をもたらしてくれると信じています。
将来は物理的な会議で私たちが握手するように、ビデオ会議でも握手の感覚を得られるようになるでしょう。ハグも同様です。あなたがコーヒーを持ち込んだら、私もその香りを感じられるようになります。私が別の言語で話しても、人工知能(AI)が適切に翻訳してくれるようになるでしょう。拡張現実(AR)デバイスを使えば、同じスターバックスの席に座っているかのようにビデオ会議ができるようになるはずです。
これが私の想像する未来の世界の姿です。どこにいる人も、どんな言語を話す人も、同じ場所にいるかのような感覚で、お互いを理解し合えるようになるのです。
BI:ビデオ会議で握手を感じたり、コーヒーの香りを嗅いだりできるようになるのはいつごろのことだとお考えですか。
ユアン:10〜15年後でしょうか。クリックひとつでコーヒーの香りをデジタル再現できるようになります。必ずそうなる。私が保証します。
BI:本当ですね、約束しましょう。10年後にまたこうやって話しましょう。
成功をおさめたCEO、次なるゴール設定は
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BI:最後に質問をあといくつか。ズームだけではなく、あなた自身も信じられないほど大きな成功をおさめました。保有資産は5倍、あるいはそれ以上になったと思います。それはあなたの人生観、仕事観、あるいは家族観にどんな影響をもたらしたのでしょうか。すでに十分やるべきことを成し遂げ、十分な資産を抱え、次のゴールをどう設定するおつもりですか。
ユアン:自分自身、家族、自分の仕事や遊び方、いずれも何も変わっていません。みな在宅勤務を続けており、ズームはズームのまま、私も私のまま。変わったことと言えば、以前より楽しみ、長い時間働いていることくらいです。
以前より楽しいのは、より責任が増し、パンデミックのさなかでも人々がつながり続けるこの状態を支えている責任があるから。もっとできないか、顧客のためにいまとは違う何かができないか。毎日それだけを考え続けていて、変わりようがありません。
BI:成功すればするほど、働きたくなるわけですね。
ユアン:その通り。本当に楽しいからです。
BI:素晴らしい。あなたが成功できた理由はまずそれなんだと思います。楽しくやっている人は、見ればわかるものだから。
最後に、この記事を読む起業家の方々にアドバイスを。いつかズームのような企業を生み出し、成功をおさめたいと大志を抱く人たちに、何か伝えるとしたら。
ユアン:ふたつ言いましょう。まずは、アイデアがあるならためらうな、実行せよ。思い返せば、会社を始めるまでそれがいかに面白いことか、わかっていませんでした。だから言いたい。ナイキじゃないけれども、「Just do it」と。
もうひとつ、企業カルチャーにフォーカスせよ。これは非常に重要です。いまはわからないかもしれませんが、実際に起業して創業者となり、ビジネスをスケールアップさせようとしたとき、良いカルチャーがなかったら、何をやっても厳しいと思います。それはもう取り返しがつかないかもしれません。企業カルチャーを大事に!
(翻訳・編集:川村力)