電気自動車(EV)メーカー世界最大手のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)。他社との合併を否定しない発言が飛び出した。
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- テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が競合する自動車メーカーとの経営統合を否定する気はないと発言して話題になっている。
- 専門家たちにBusiness Insiderが取材したところ、合併候補となる可能性が最も高いのは、フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、上海蔚来汽車(NIO)、ルノー日産三菱アライアンスの4社だという。
- 4社が候補とされた理由は、製造に関する技術、グローバル展開する上でのより広範な地盤、中国におけるより強固なポジションをテスラにもたらすことだ。
テスラCEOのイーロン・マスクはこれまでフォードやGMのような競合を臆することなく批判してきたが、それは競合と手を組む可能性を否定するものではなかったようだ。
マスクは12月初頭の独メディア大手、アクセルシュプリンガー(Business Insiderの親会社)のインタビューに応じた際、他の自動車メーカーとの経営統合を議論する用意があるとの考えを示した。
「もしどこかが『やあ、テスラと合併するっていう名案があるんだけど、どうだい?』と声をかけてきたら、それを拒む気はまったくない。話し合うよ」(イーロン・マスク)
そこでBusiness Insiderは、テスラや自動車産業をウォッチするふたりの専門家に、合併候補として最も可能性が高い自動車メーカーを挙げてもらった。
【可能性1】フォード
フォードの最新EV「マスタング・マッハE」。
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テクノロジー専門の独立系調査会社ループ・ベンチャーズのマネージングパートナー、ジーン・ミュンスターによれば、フォードはテスラに製造工程に関する高度な専門技術をもたらしてくれるという。2020年に入って改善が見えてきたものの、テスラは長年、製造面で悪戦苦闘してきた経緯がある。
【可能性2】ゼネラル・モーターズ(GM)
ゼネラル・モーターズ(GM)のEVピックアップトラック「ハマーEV」。市場投入は2022年予定ながら、ファーストエディションはすでに予約完売。
GMC
GMもフォード同様、テスラに製造工程に関する専門技術をもたらす。電気自動車(EV)の技術開発をより進展させるという意味では、フォードとの合併以上の効果が期待できると(前出の)ミュンスターは分析する。
GMは自動車産業のなかでも最も意欲的なEV戦略を打ち出しており、技術開発に総額270億ドル(約2兆8000億円)を当時、2025年までに30車種のEVを市場投入する計画。
ただし、テスラと(レガシー自動車メーカーである)デトロイト「ビッグスリー」の一角の合併は、フィロソフィークラッシュ(企業文化の衝突)を引き起こしかねない、そうミュンスターは指摘する。
マスクは「垂直統合」と「第一原理思考」にプライオリティを置いている(第一原理思考とは、デフォルトでのやり方ではない型破りな手法だとしても、ある問題を解決するのに最良の手段を探すことにフォーカスする考え方)。
一方、伝統的な自動車メーカーはサプライヤーとの取引関係に深く依存し、型にはまった思考に長年どっぷり浸かってきたため、テスラが重視する第一原理に切り替えるのは簡単ではないというわけだ。
「100年も続いてきた自動車メーカーを買えば、いろいろと傷や汚れがついているのは当然ではないか」
【可能性3】上海蔚来汽車(NIO)
上海蔚来汽車(NIO)のEVコンパクトSUV「ES6」。
NIO
2020年前半に深刻な財務危機に見舞われた上海蔚来汽車(NIO)だが、政府系ファンドから14億ドル(約1500億円)の資金調達を果たして復活、ここ最近は月間販売台数の記録更新が続いている。
NIOと手を組むことは、世界最大のEV市場である中国におけるテスラのポジションを強化するとミュンスターは見る。しかし、足もとの緊迫した中米関係を考えると、NIOを吸収合併するのは政治的に簡単ではないかもしれない。
ミュンスターの考えでは、テスラが他の自動車メーカーと合併する可能性は「きわめて低い」ようだ。
【可能性4】ルノー日産三菱アライアンス
元会長の資金流用問題から厳しい財務状況、アライアンス内の不和まで、話題の絶えない日産ルノー三菱アライアンス。写真は人気EVの「リーフ」。
Hollis Johnson/Business Insider
自動車情報サイトを運営するアイシーカーズ(iSeeCars)のアナリスト、カール・ブラウアーは、他の自動車メーカーとの合併を否定しないというマスクのコメントを、競合との合従連衡なしでは(テスラが)グローバル大手として存在感や影響力を発揮していくのに時間がかかりすぎると考えている証左と見る。
トヨタ、独フォルクスワーゲン、ルノー日産三菱アライアンスは、2019年の世界自動車メーカー大手3社だが、上位2社はテスラとの合併を持ちかけても冷笑されるだけ、というのがブラウアーの見方。
ただし、第3位のルノー日産三菱アライアンスは、近年厳しい財務状況が続いており、また早い段階でEV投資を行ってきたことからも、テスラとの合併話を持ちかけた場合、魅力的に映る可能性がある。テスラ側にとっても、グローバル展開の地盤を広げるメリットがある。
「もし合併があるとして、一番想像しやすいのは、ルノー日産三菱アライアンスだ」(カール・ブラウアー)
(翻訳・編集:川村力)