撮影:三ツ村崇志
2014年12月3日に種子島から打ち上げられた、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」。
6年の時を経た12月5日、小惑星「リュウグウ」で採取した試料の入ったカプセルを地球へと届けるミッションに挑んでいる。14時30分には、予定通りカプセルの分離が確認された。
この後、はやぶさ2は地球圏を離脱するための運用を実施。分離されたカプセルは、6日午前3時前にオーストラリア・ウーメラ砂漠に着陸する予定だ。
健康状態は良好。「正しいことをやる訓練は整っている」
はやぶさ2の現状を語る、津田プロジェクトマネージャ。
撮影:三ツ村崇志
運命の日を翌日に控えた12月4日、JAXA相模原宇宙センターでは記者会見が開催されていた。
はやぶさ2プロジェクトの責任者である、JAXAの津田雄一プロジェクトマネージャによると、12月4日段階でのはやぶさ2の「健康状態」は良好。
今のところ、予定通り再突入カプセルの分離運用を行うとしている。
「明日に向けて準備は万端に整っています。
カプセルの動作確認も行っています。(探査機から)切り離すところは火薬を使いますので、もちろん今まで一回も動かしたことはありません。こういうものが動くかどうかは、これまでの信頼性や打ち上げ前の開発状態によります。私たちは、結果を見ながらアクションしていくことになると思います。
正しく動く、正しいことをやるための訓練は整っていますので、明日は万端の準備で向かいたいと思います」
と、津田プロジェクトマネージャは緊張と自信を語る。
ミッションスタートは5日(土)10時半。流星は深夜2時半頃に観測か
はやぶさ2、カプセル分離運用のスケジュール。
出典:JAXA
はやぶさ2からカプセルを分離させる運用は、12月5日の午前10時半からスタート。
12時59分までに、はやぶさ2は姿勢を大きく変え、カプセルの分離に備える段階に入る。
その後、14時13分に10度程度の小さな姿勢制御を行うことで、カプセルを分離する最終姿勢へと移行。地球からの距離が22万3000kmになる14時30分頃に、実際に探査機からカプセルを分離させる予定だ。
これまでのはやぶさ2の運用は、はやぶさでの経験があるものが多かった。一方、はやぶさ2のカプセル分離後に、探査機本体が大気圏へ突入する軌道から離脱する運用をするのは今回が初めて。ここも一つ大きなチャレンジとなる。
なお、分離されたカプセルには、姿勢や速度を変えるための装置は備わっていない。
そのため、分離された後になって、カプセルの軌道が大きく変わることはないと考えられる。
12月6日のタイムライン。
出典:JAXA
分離されたカプセルは、日本時間12月6日午前2時28分27秒に大気圏に突入。このときの速度は、音速を超えた秒速11.6km程度になるとみられる。
その後、午前2時28分49秒〜29分25秒には、高度80km〜40kmまで落下し、大気との摩擦で発熱・発光した「流星」となる(日本からは観測することはできない)。この段階で、秒速100m程まで減速する。
そして、最終的に2時47分〜57分頃には、オーストラリア・ウーメラ砂漠のどこかに着陸することになる。
当日の運用のプロセスが前後すれば、当然それぞれのタイミングはずれる。現時点で、秒単位での計画を発表できているのは、これまでの緻密な軌道制御によって、はやぶさ2の位置を非常に精度良く把握できた賜物だ。
なお、はやぶさ2のこれまでの運用によって、カプセルの着陸地点は、オーストラリア・ウーメラ砂漠内の縦100km、横150kmの楕円の領域にまで絞られている。実際に落下する地点は、当日の周囲の天候などの兼ね合いで大きく変わってくる。
カプセルの着陸後、現地に赴いているJAXAの探索班が、カプセルからの信号をもとに落下地点を確認。日が昇ってから、回収部隊がカプセルの回収に向かうことになる。
12月1日に行われた軌道制御によって、カプセルの着陸地点は100km×150kmの範囲にまで絞られた。
出典:JAXA
なお、カプセルが分離された後、はやぶさ2は直ぐに180度近く姿勢を変えて、地球から離脱する運用(TCM-5)を実施。3回に分けて実施される軌道修正がうまく行けば、はやぶさ2は大気圏に突入して燃え尽きてしまう危険から脱することになる。
地球から離脱する軌道に突入したはやぶさ2は、大気圏へと突入するカプセルの撮影に挑み、その後、追加ミッションへと向かうことになる。
「深宇宙探査ができることを証明できた」
左から津田プロジェクトマネージャ、國中所長、吉川ミッションマネージャ。
撮影:三ツ村崇志
記者会見冒頭では、JAXA宇宙科学研究所の國中均所長から、これまでの日本の宇宙開発にかけてきた想いがあふれる言葉が述べられた。
「深宇宙探査、惑星探査は非常に難しく、これまでもたくさんの失敗を重ねてまいりました。
火星探査機『のぞみ』は、火星に到達させることができませんでした。
『はやぶさ』についても、予定通りに地球に帰ってこれたわけではありません。
金星探査機『あかつき』も、5年も時間を多くかけてようやく金星にたどり着くという、難易度の高いものでした。
はやぶさ2は、我々が思い描いた通りのタイムラインで、今まさに、地球帰還を目指しています。予定していた2020年12月にはやぶさ2を地球に届ける。これが、あと2日でできるというところです。
我々も深宇宙探査ができる、ということをようやく胸を張って証明できたと思っています。先代たちに、胸を張って我々の成果をお示しすることができるというところまできたと思います」
記者会見場には、はやぶさ2の模型があった。
撮影:三ツ村崇志
はやぶさ2は、2014年に打ち上げられると、2018年に小惑星リュウグウに到着。
その後、着陸して小惑星表面の試料を採取する「タッチダウン」を2度実施した。また、世界で初めて小惑星に人工クレーターを生成することにも成功するなど、数多くの偉業を成し遂げてきた。
2010年、6月に地球に帰還した「はやぶさ」が、その工程の中で数々のトラブルを経験したことを考えると、ここまでほぼ「無傷」と言っていい状態で地球まで帰還できたことは、驚くべきことだ。
「私(津田プロジェクトマネージャ)は、はやぶさ1号機の打ち上げの直前に宇宙科学研究所に入り、運用に携わっていました。そこで行われていた、即断即決ですごいことが決まり、トラブルに対処していく運用や、それでも悪いことが起きるということを現場で経験して、次はどうしなきゃいけないということを色々吸収させていただきました。
はやぶさ2のプロジェクトが立ち上がって、それを実践する場を与えていただいたことは、私にとって幸運でした。
はやぶさ1号機は満身創痍で(カプセルの分離を)こなして、精度よく着陸しました。我々は、はやぶさ1号機を超える探査機を作ろうと思ってずっとやってきました。最後、はやぶさ1号機ではできなかった拡張ミッションに進んでいきたいと思っています。
そういう風に未来にバトンをつないでいければと思います」
歴代の科学者・技術者たちが少しずつバトンをつなぐことで、日本の宇宙開発はここまでたどり着いた。
はやぶさ2のバトンもまた、未来の宇宙開発への礎として、つながれていくのだろう。
(文・三ツ村崇志)
※編集部より:14時30分に予定通りカプセルの分離が確認されたことを受けて、一部追記しました。