最強スタートアップの明暗分ける「たった一つの重要なこと」。グッドパッチとWED提携

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WEDのCEO、山内奏人氏(左)とグッドパッチ社長の土屋尚史氏。2人がタッグを組んだきっかけは。

撮影:今村拓馬

デザイン会社として初の上場を2020年6月に果たしたグッドパッチが、レシート買い取りアプリONEで話題を巻き起こした WEDに出資、両社は資本業務提携する ——。2020年冬、こんな知らせが飛び込んできた。

強烈な個性が会社の魅力になっている2人の起業家、土屋尚史氏(グッドパッチ社長)、山内奏人氏(WED)の組み合わせは、意外なようでデザインとテックを軸に連なり、絶妙だ。

世界が新型コロナに見舞われ、誰もが否応なしに大きな変化を経験した2020年。今何を考え、ここからどこへ向かうのか。提携のニュースをきっかけに、2人の頭の中を聞いた(以下、文中敬称略)。

きっかけは家が近所、手土産はタピオカ

「きっかけは家が近所なことです。スーパーに併設されたイートインコーナーみたいなところで、週末の朝の8時とか9時から、経営の相談に乗っていました」(土屋)

デザイン×テック領域のスタートアップとして、時代の先頭をひた走るグッドパッチ土屋は、この分野で日本市場を牽引している。

15歳での起業と億単位の資金調達、サービスが大いにバズるなど注目を集め続けてきた19歳の山内は、史上最年少上場の期待がかかる。

そんなスタートアップ界隈の注目人物である2人の接点は、意外にも「ご近所」だという。

交通の便がよく、ファミリー層に人気の東京近郊の街。土屋も山内も偶然、そこに住んでいた。1年半ほど前に共通の友人を通じて知ったのは、お互いの住まいが目と鼻の先であるということだ。

山内から見てグッドパッチは「すごく尖っているけど、着実にやることをやっていく会社」。

「初めて会った時は、小さなお子さん連れて土屋さんが僕の家に来てくれたんですよ。タピオカミルクティー持って。思ったより優しい方なんだな、と思いました。いい意味で」(山内)

一方、土屋の山内に対する印象はこうだ。

「メディアで見て、ものすごいキレ者だなという印象は当然、あったんですが。もっと高校生っぽい感じが残っているのかと思いきや、実際に会ってみると人生何周目やねん、という」

知識量の多さと幅の広さ、そして山内のその落ち着きっぷりに、そこから年齢を意識することはなくなったという。

「年齢を気にするカルチャーをなくした方がいい」

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19歳にしてすでに起業5年のキャリアをもつ。山内が、土屋に相談したことは何だったのか。

10代にしてすでに起業家5年目のキャリアを持つ山内が、土屋に相談したこととは何だったのか。

「悩んでいました。コロナもあって体制も大きく変更した時期でもあり。役職を全部なくしたんですよ。CなんとかO(といった肩書き)を全部外して。役職というよりは役割を渡して行きたいなと思っていて。組織をどうするかとか」(山内)

「わりとこう、あるあるのパターンにハマっていた」と、土屋は振り返る。

「(WEDは)トップが10代なので、ジョインしているのは大人が多い。その大人たちに対しても、マネジメントっていう部分で苦労しているな、と。山内くんは19歳なのに無茶苦茶、空気が読めるわけですよ。でも、そもそも年齢を気にするカルチャーをなくしたほうがいい」(土屋)

創業時は山内含めて3人だったWEDも、資金調達や採用、人の入れ替わりを繰り返し、今では20人規模の組織になっている。

2011年、サンフランシスコ帰りの土屋が創業したグッドパッチも、管理職メンバーがほぼ辞める、評価制度が猛反発を食らうなど、組織崩壊の危機を歯を食いしばって乗り越えてきた経緯がある。

組織の崩壊と再生の顛末を描いた土屋のnoteはスタートアップ界隈で大きな注目を集めた。

「WEDっていう素晴らしい会社を持っているけれども、おそらくそうした(組織の困難の)フェーズを通ってきた人たちが、アドバイザーとして脇にいてあげたほうがいい。僕自身、それが必要だったので」(土屋)

山内が年齢を気にせず、経営者として組織を率いること。そしてそのサポートをする「大人」が今後必要になるだろうことを、土屋は直観した。

「『そういう人はいないの?』と聞いたら『いませんね』と返ってきて、沈黙が流れてですね。『では(僕が)やろうか?』と」

それが11月、両社の資本業務提携に結実した。

スタートアップの目利きをやる理由

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創業以来、グッドパッチのデザイン支援先のうち、8社が上場を果たしている。

資本提携は、スタートアップへの出資からデザイン支援までを行う「Goodpatch Design Fund 」を通じて、グッドパッチがWEDに出資。UI/UXデザインや開発、組織作りやブランディングに関してもバックアップしていくことになる。

デザイナー200人を抱え、デザインカンパニーとしての存在感を示してきたグッドパッチだが、このファンドこそが「創業時からずっとやりたかったこと」と土屋は言う。

大阪で働く一会社員だった土屋が創業前、ツテもなく渡ったシリコンバレーで衝撃を受けたのが「デザイン中心」のものづくり。

その体験をスタートアップにインストールすること、その支援先が飛躍することで成長してきた会社が、グッドパッチと言える。

「成長するスタートアップを見極めながら、デザイン支援をしてきました」

そう土屋が自負する通り、グッドパッチのこれまでのデザイン支援先は錚々(そうそう)たる顔ぶれが居並ぶ。

創業メンバーがシリコンバレー時代の知り合いだったグノシーに始まり、支援先ではアカツキ、フリンジ81、マネーフォワード、PR TIMES、ランサーズ、カイゼンプラットフォーム、ヤプリの8社が上場。

土屋自身が、成長スタートアップの目利きと言っても過言ではない。ただし

「(自分の会社が)『上場するまでは本業に集中しよう』と(投資家から)言われていたので」

6月の自社の上場後、グッドパッチが真っ先にGoodpatch Design Fundを立ち上げたのも、満を持してのことだった。

出資先1号は金融サービスの400F、それに続いたのが山内のWED。

一番大事なのは、辛い時に逃げないかどうか

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「意思にブレがないか。それが一番重要なんです。逆にそれくらいしかない」(土屋氏)。

土屋はスタートアップの何を見て支援を決めるのだろう。その答えはシンプルだ。

一番重要なのが(経営者の)覚悟。辛い時に逃げないやつかどうか

まだ10代で飄々(ひょうひょう)とした山内については、こう言う。

「山内くんはすでに起業5年目。まあ辛い思いもして、起業家として超えるべき壁を超えてきて、逃げずにやってきている。意思にブレがないか。それが一番重要なんです。逆にそれくらいしかない

受けて立つ山内が、起業から5年を経て見据えるのが「消費の未来」だ。

「ONEを作ったのもクライアントとする話も、結局そこです。消費の未来ってなんだろうという、その市場が今、めちゃくちゃ面白い。やりたいことが極まってきた」

すでに100万ダウンロードに達したONEにしても、買い取ったレシートから見えてくるのは、現代の消費行動の変遷だ。

その膨大なデータと分析をベースに企業と協業。マルイとのシステム共同開発や、マーケティングのインテージとの業務提携など、 山内率いるWEDは、着実に歩を進めている。

「デザインを盲目的には信じていない」

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「デザインの力を証明するという強い主張の一方で、デザインだけでの成長はありえないという迷路に堕ちながら、経営してきた」(土屋氏)。

「(レシート買い取りアプリの)ONEを見たとき、15歳が作るプロダクトなのになんでこんなにデザインいけてるんだろうというのは思っていた」

土屋が話す通り、両者をつなぐ概念として「デザイン」の話は欠かせない。

デザインがほぼ全てだ、と僕は思っていて。ONEはちょっと間違えば、ふつうのお小遣い稼ぎアプリみたいになってしまっていた。できるだけそうでないデザイン、そうでない言葉を選んで作ってきました」(山内)

できるだけシンプルに、ファクトが伝わるように。「それもあってバズったんじゃないかと思っている」(山内)。

これを受けた土屋の言葉は、両社の関係を、そしてデザインとビジネスの関係を象徴しているかもしれない。

「プロダクトをやっている会社が、デザインが全てと言ってくれるのは素晴らしいことだし、デザインが低く見積もられていることが、社会課題だと思っている。けれど、デザインだけではデザインの力を証明できないんです」(土屋)

つまりこうだ。

デザインの力を信じているが(それだけで完結できるものとして)、盲目的には信じていない」(土屋)

だからこそ、土屋はWEDのようなスタートアップに対し、支援を続けている。

デザインで支援したスタートアップが飛躍していくことでこそ「デザインの力を証明」できるからだ

ものごとがくっきりした1年、やりやすくなった

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「2020年は、この1年間がもしかしたら5年間くらいだったのかもしれないなと感じます。世の中の流れが速かった」(山内氏)。

社会が大きな変化を否応なしに迫られた2020年も、まもなく暮れようとしている。

かつてない変化を誰もが体験し、その変化は不可逆だと実感された2020年。そこに連なる2021年をどう見据えるかを最後に尋ねると、両者の視界は明瞭だった。

山内の捉え方は至って、前向きだ。

2020年は、この1年間がもしかしたら5年間くらいだったのかもしれないなと感じます。世の中の流れが速かった。ものごとがすごくくっきりした1年だったなと。どういう会社が生き残って、どういう会社が死んでいくのか。どういうモノが売れて、どういうモノが売れなくなっていくのかがはっきりした」

壊滅的なダメージを受けた業界の一方、EC分野、オンライン会議ツール、デジタルコンテンツなど爆発的に需要を伸ばした分野も当然ある。

「これから何にかけるべきで、何にかけるべきじゃないのかが明確になった。すごくやりやすくなったなと、個人的には思います。そんな中で、ONEというプロダクトを通じて企業に対して僕らができることはたくさんある」(山内)

土屋の答えも端的だった。

日本の中で大きく変わろうとしている分野が、一つあるなと思っていて、それは行政です。今までのように、ただインターネットを使うなどとは全く違うデジタル改革が来年以降、目に見えて起こっていく実感があります」

政府が急展開で掲げ出したデジタル・トランスフォーメーション(DX)。国民の関心がかつてなく高まっているのも事実だ。

「日本がこの後の数十年で、効率化を進め、国民に対してのユーザー体験、UXを考えられるような行政サービスを作っていけるか。デジタル庁設立以降、国にとって重要な節目になると思っています。そこに当然、関わっていきたい」(土屋)

山内が生まれ、土屋が高校生だった約20年前。

インターネットビジネス界隈と既存の大企業や行政は、時に対立構造にすら陥り、抜本的な構造変革はなかなか起きなかった。

新型コロナを経た2020年を境に、年代も業界も企業規模も越境した前進が、一気に進むのか。「当たり前」だったことが一気にひっくり返った今だからこその、最後のチャンスが到来していることは間違いない。

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬、取材協力・戸田彩香)

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