「桃太郎電鉄」シリーズの最新作「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」(ニンテンドーSwitch版)が11月19日の発売以来、破竹の勢いで売り上げを伸ばしている。
撮影:吉川慧 ©さくまあきら©Konami Digital Entertainment
ボードゲームの金字塔「桃太郎電鉄」シリーズの最新作「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」(ニンテンドーSwitch版)が11月19日の発売以来、破竹の勢いで売り上げを伸ばしている。公式Twitterは12月1日、累計発売本数が75万本を突破したと報告した。
1988年に第1作目が登場して以来、30年以上にわたって親しまれてきた「桃鉄」シリーズ。プレイヤーは鉄道会社の“社長”として、すごろくの要領で日本全国を移動。目的地を目指しつつ、各地で物件を買い集め、国土開発で収益を増やし、資産を増やしていく。
そのルールは極めてシンプル。だからこそ、真髄は奥深い。その魅力はエンターテインメント性にとどまらない。作中に登場する東京都心の「物件」からは、発売当時のブームや経済トレンドを学ぶことができる。
「桃鉄」の都心物件からみる“時代のトレンド”
山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」も「高輪G」駅として登場。同じく新登場の「千駄ヶ谷」には将棋ブームを反映してか将棋会館を連想させる「将棋館」がある。
出典:YouTube/Nintendo公式チャンネル/©さくまあきら©Konami Digital Entertainment
「桃鉄」ではシリーズを重ねるごとに物件が購入できる駅が増加。シリーズ初期は物件駅は70駅ほどだったが、最新作では339駅に。物件数にして2000件以上のボリュームだ。
駅の物件からは時代性も感じる。例えば1994年の桃鉄IIIの東京駅では、1970年代〜90年代にかけて流行した「ディスコ」が登場。
また、初期にはなかった銀座、浅草、原宿などが後のシリーズで物件駅として加わっている。こうした駅の物件には、地元産業の歴史や話題の業種・トレンドが反映されている。
本稿ではその一部を紹介しよう(※各駅の表示金額は物件の購入金額、%は収益率)。
銀座:消えた「老舗デパート」の意味。「極上天ぷら」はミシュラン常連のあの店?
「銀座駅」の物件、桃鉄20周年と最新作の比較
作成:Business Insider Japan
最新作にある「地方アンテナ店」は地方自治体のアンテナショップと推測される。
銀座におけるアンテナショップの歴史は、1994年に銀座1丁目にオープンした沖縄県物産公社の「銀座わしたショップ」が端緒だとされる。
後を追うように銀座熊本館や、かごしま遊楽館、いわて銀河プラザ、北海道どさんこプラザなどが次々に出店。バブル崩壊後の地価低下も呼び水となり、銀座・有楽町周辺はアンテナショップのメッカとなった。
銀座わしたショップ本店(左)と銀座熊本館。
出典:沖縄県物産公社わしたショップ公式Facebook/銀座熊本館公式Facebook
一方で、桃鉄20周年や桃鉄2017などにあった「老舗デパート」は銀座の物件から消えた。
デパート激戦区として知られる銀座周辺は、かつて8つの百貨店が覇を競っていた。
メインストリートの中央通り(銀座通り)沿いの松坂屋、三越、松屋を中心に少し離れて数寄屋橋阪急、有楽町側にプランタン銀座、そごう、有楽町阪急、西武という顔ぶれだった。
昭和後期のバブル景気の頃はカルチャーの発信地として栄えた百貨店だったが、バブル崩壊後は苦戦。生き残りを賭けてテナント業態に変更したりリニューアルに踏み切ったところもあれば、撤退を余儀なくされた店もあった。
まず、2010年に撤退したのが有楽町マリオン内に店舗を構えていた西武有楽町店だった。
同じくマリオン内にあった有楽町阪急は2007年、近隣にマルイがオープンし、競争が激化。リーマンショック後にさらに業績が落ち込んだことを受け、テコ入れとしてメンズ向け店舗へと改装。2011年に阪急メンズ東京としてリニューアルした。
阪急メンズ東京が入居する有楽町マリオン。かつては西武有楽町店もあった。西武撤退後はLUMINEが入居している。
Getty Images/7maru
数寄屋橋阪急は2004年にモザイク銀座阪急と改め、テナントビルへと業態を変更。
その後、老朽化で立ち退きを提案したビル所有者の東急不動産との訴訟の末に和解。2012年に営業を終了した。跡地は複合商業施設・東急プラザ銀座となった。
数寄屋橋阪急の跡地には複合商業施設「東急プラザ銀座」が立つ。北海道の人気回転寿司店「根室花まる」などが入居する。
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関東大震災後の翌年(1924年)に開業し、銀座の震災復興の象徴的存在だった松坂屋銀座店は再開発で2013年に閉店。88年の歴史に幕を下ろした。跡地には商業施設GINZA SIXが2017年にオープンした。
有楽町側にあったプランタン銀座も2017年に閉店し、現在同じビルにはユニクロやニトリなどが店を構える。
松坂屋銀座店(2007年)と跡地にできたGINZA SIX。
REUTERS/TOSHIYUKI AIZAWA, Getty Images/Museimage
銀座4丁目のシンボルの一つ銀座三越も、2010年に晴海通り沿いに13階建ての新館をオープン。地下食料品売場を充実させるなど売り場面積は1.5倍になった。その後もインバウンド向けの免税フロアやラウンジを設けるなどテコ入れを図ってきた。
松屋銀座も2009〜2013年にかけて全館をリニューアル。各百貨店とも試行錯誤を続けている。
銀座・中央通り沿いには、三越と松屋がある。
撮影:吉川慧
グルメ物件もおさえておきたい。「極上天ぷら屋」は、天ぷらの名店・近藤がモデルだ。
店主の近藤文夫さんは、日本の天ぷら店の代表的存在の一つで、作家・池波正太郎も通った山の上(千代田区・駿河台にある山の上ホテル内)で20年以上も店長を務めた天ぷら職人。2007年から発行されているミシュランガイド東京版の常連でもある。
他のご当地物件としては「製紙会社」は銀座に本社を置く王子製紙を、「フルーツパーラー」は老舗の資生堂パーラー(1902年創業)や銀座千疋屋(1894年創業)を、「おもちゃ屋」は新橋寄りの銀座8丁目にある玩具小売老舗・博品館を連想させる。
浅草:老舗グルメが盛りだくさん?「東京セカイツリー」も登場
「浅草駅」の物件、桃鉄20周年と最新作の比較
作成:Business Insider Japan
東京の代表的な観光地として知られる浅草は、古くから浅草寺を中心に発展した街だ。物件にも名物がラインナップされ、その由縁を知れば浅草のグルメの歴史の一端が見えてくる。
「イモようかん屋」は、芋ようかんで知られる舟和が想起される。舟和は1902年創業の老舗で、開業翌年に“みつ豆ホール”をオープン。カフェ型式の店で角寒天にあんずのシロップ漬け、赤えんどうなどをあしらったみつ豆を提供した。
こうした経緯から舟和はみつ豆の元祖とも言われる(※なお、あんみつの元祖は銀座若松と言われる)。
舟和の「芋ようかん」と「あんこ玉」。
出典:舟和公式サイト
物件に「すき焼き屋」があるように、浅草はすき焼き店が多い街だ。
1872年1月、明治天皇が初めて牛肉を食べたと報じられると、維新後の西洋化を進めていた明治期の日本では牛肉食が“文明開化”の象徴となっていった。
1880年から営む料理屋をルーツとするすき焼き専門店“ちんや”の公式サイトは「西洋料理店が日本橋、京橋、神田界隈に限られていたのに対して牛鍋屋は浅草を中心に下町中に広まり、明治10年には東京府下に488軒もの牛鍋屋がありました」と伝える。
浅草には全国的に知名度の高い今半本店をはじめ、入り口で今も下足番がいる“ちんや”、こちらも老舗で牛鍋を提供する米久が今も味を守っている。
「まるごとJAPAN」は、2015年に六区にオープンした物産館“まるごとにっぽん”を連想させる。運営は阪急阪神東宝グループで錦糸町を本拠地とする東京楽天地。
まるごとにっぽん(2018年7月)
撮影:吉川慧
日本各地の名産品を販売したり、地元の人気ベーカリー「ペリカン」のパンを用いたサンドイッチを提供したりするカフェなどがあったが、コロナ禍でインバウンド需要が蒸発した2020年11月に閉店。2021年には1階部分がリニューアルオープン予定だ。
「東京セカイツリー」は東京の新名所となった東京スカイツリーが元ネタだろう。
物件価格は超高額の6340億円。スカイツリーの実際の高さ634メートルが由来か。なお、東京スカイツリーの事業費は約650億円。
新宿:かつては「ドーナッツ屋」ブーム。最新作では老舗がラインナップ
「新宿駅」の物件、桃鉄20周年と最新作の比較
作成:Business Insider Japan
東京都庁のお膝元、“副都心”新宿の物件の変遷も、時代を感じさせる。
物件駅の新宿は1995年発売のスーパー桃鉄DXで登場。「ゲームセンター」や「映画館」などの物件があった。
桃鉄20周年にある「ドーナッツ屋」は、2006年に新宿サザンテラスで開店した米国発のドーナッツ店クリスピー・クリーム・ドーナツの日本1号店が連想される。
1号店は長蛇の列ができる人気店だったが2017年に閉店。現在、関東を中心に国内で40店舗ほど展開中だ。
クリスピー・クリーム・ドーナツの店舗。
REUTERS/TOSHIYUKI AIZAWA
過去シリーズから登場する「デパート」にも触れておきたい。
新宿も都内有数のデパート激戦区として知られ、小田急、京王、高島屋、伊勢丹、丸井などがしのぎを削っている。
最新作にもある「新南口デパート」は新宿高島屋を、「呉服店デパート」は明治期の呉服店をルーツとする伊勢丹新宿店を彷彿とさせる。
伊勢丹新宿店
撮影:吉川慧
桃鉄20周年が発売された2008年は、三越と伊勢丹が経営統合した年でもあった。
かつては三越も新宿店が存在したが、業態変更を経て、2012年に閉店。現在、同じ建物にはビックカメラとユニクロとの共同出店による商業施設ビックロが入居する。
「蜜柑国書店」は老舗の書店「紀伊國屋書店」、「フルーツパーラー」は新宿駅東口にある高野フルーツパーラーがモデルか。「バスターミナル」は2016年に新宿駅南口で開業した巨大交通ターミナル、バスタ新宿を連想させる。
原宿:平成〜令和のブーム「タピオカティー」「パンケーキ」が登場。「駅前家具屋」はIKEA原宿?
「銀座駅」の物件、桃鉄20周年と最新作の比較
作成:Business Insider Japan
原宿が物件として登場したのは1990年代後期のシリーズ。過去シリーズでは「プリクラ屋」「スニーカー屋」「タレントショップ」「クレープ屋」など竹下通りを中心に人気が広がった店舗が入った。
最新作では、令和でブームとなった「タピオカティー屋」「パンケーキ屋」が登場。2020年10月、菅義偉首相と報道各社の記者懇談会がEggs 'n Things(エッグスンシングス)原宿店であったことは記憶に新しい。
撮影:今村拓馬
Eggs 'n Thingsはハワイ発のパンケーキ店。日本法人のEGGS 'N THINGS JAPAN(エッグスンシングスジャパン)は全国21店舗を展開する(2020年5月現在)。社長はカフェチェーン店タリーズジャパンの創業者として知られる松田公太氏だ。
2001年発売の桃鉄Xでは当時の“カリスマ美容師”ブームを反映してか、「美容室」が3件ラインナップされた。ブームの火付け役となったと言われるのが木村拓哉さん・常盤貴子さん主演のドラマ「ビューティフル・ライフ」(2000年1〜3月放送)だ。
最新作に登場した「駅前家具屋」は原宿駅前にオープンしたIKEA初の都心型店舗・IKEA原宿店を想起させる。同店のオープンは桃鉄最新作が発売される5カ月前の2020年6月だった。
いずれの駅の物件も、話題の業種やカルチャーを積極的に取り入れる、「桃鉄」制作スタッフ陣のアンテナの高さを感じさせる。
(文・吉川慧)
<参考文献>
- 「桃太郎電鉄」(1988/12/2、ハドソン)
- BESTゲーム攻略SERIES「スーパー桃太郎電鉄3究極本」(1994/12/1、KKベストセラーズ)
- デンゲキニンテンドーDS編集部「桃太郎電鉄20周年 ザ・コンプリートガイド」(2008/12/22)
- 「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番! 〜!」(2020/11/19、コナミデジタルエンタテインメント)
- 電ファミニコゲーマー編集部「ゲームの企画書(1)どんな子供でも遊べなければならない」(2019/3/9、角川新書)