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【小国士朗1】注文をまちがえる料理店、おすそわけしマスク…「三方良し」を仕掛け続ける元NHKディレクター

小国士朗

2020年の春、全国的にマスクが買い占められ、街じゅうからマスクが消え去った映像が、テレビを通して何度も報道されていたことを覚えているだろうか。

この時期、マスクは法外な値段で取引されていた。

それを売る人、買う人を取材するテレビカメラは、当の本人たちの顔を写さない。声も変換器を通して放送され、マスクを高値で売る方も買う方も、まるで犯罪を犯しているかのような絵面(えづら)の報道がされていた。

その映像を、強烈な違和感とともに記憶していた男がいる。

小国士朗(41)。NHKのディレクターとして、「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」「プロフェッショナル 仕事の流儀」などの看板番組を制作してきた。

しかし彼の名前は、NHKの肩書きよりもむしろ、そのプロジェクトの名で記憶されている。

「プロフェッショナル 仕事の流儀」の登場人物になり切るアプリは、150万ダウンロードを突破し、番組の知名度を一気に10代、20代の若者にまで広げた。

この仕事を記憶する人は、小国を「プロフェッショナルアプリの小国さん」と呼ぶ。

「注文をまちがえる料理店の小国さん」と言う人もいる。認知症の人たちをホールスタッフとして、期間限定で営業したレストランだ。

認知症であるゆえに、ときに注文を取り間違えることがあっても、客が間違いを受け入れることで一緒に楽しめる。そんなあたたかい空間は、日本だけではなく世界各国のメディアで取り上げられた。

注文をまちがえる料理店

注文をまちがえる料理店の第1回は、2017年に六本木のレストランで開催。資金はクラウドファンディングで募った。

撮影:森嶋夕貴(D-CORD)

「僕自身、やりたいことがあるわけじゃない」

炭酸飲料の「CCレモン」から、Cを消す。コクヨのノート「Campas」からCを消す。その画像をSNSで拡散したら、がん(Cancer)を消すための研究費用として寄付されるプロジェクト、「deleteC」。2020年、この活動は3000万人に情報が届けられた。この活動を企画した小国のことを「deleteCの小国さん」と呼ぶ人もいる。

他にも2019年のラグビーW杯の際に東京・丸の内にできたラグビー神社の仕掛け人としての顔を知る人は「丸の内15丁目の小国さん」と呼ぶし、3つの種類の混浴でLGBTQを考えるきっかけを作った「レインボー風呂の小国さん」と呼ぶ人もいる。

いったいいくつの顔を持つのか。本業は何なのか。

現在、独立してフリーランスで活動している小国に問うと、彼はこう答える。

「僕自身は、やりたいことがあるわけじゃないんです。人の話を聞いているうちに、これは楽しそう! 面白いことを思いついた、と思ったらやってみる。やり始めたら、それが自分ごとになっていく」

小国の仕事への関わり方は、いつもこのスタンスだ。

誰かが何かを小国に持ちかける。最初は興味を持てなくても、そこに秘められた熱量や可能性に小国がわくわくしはじめたら、仕事がすべりだす。

「だから、きっと、自分が関わるプロジェクトは自分自身がお客さんなんだと思います。認知症もがんもラグビーも、僕自身、よく知らなかった。でも、よく知らない自分が興味を持ってわくわくできるんだとしたら、他の人たちとも、一緒にわくわくできるんじゃないかなって」

買う方も売る方も笑顔になる「おすそわけ」

おすそわけしマスク

提供:小国士朗

コロナ禍で話題になった「おすそわけしマスク」。これもやはり、最初はどうにも乗り気になれない相談ごとから始まった。

小国が別のプロジェクトで世話になっている社長が、マスクを大量に調達できるようになったといって、小国に売り方を相談してきたのだ。2020年4月末のことだった。

話を聞いた小国は最初、「マスクかあ。興味ないなあ」と思っていたそうだ。

でも、その社長の「高く売りさばいて儲けることには興味ない。せっかくうちのような中規模の会社でやるからには、何か社会に意味のある売り方をしたい」という言葉を聞いたとき、ピンときた。そういえば、別の友人が、福祉現場にマスクを届けたいって言っていたな、と思い出したのだ。

同時に思い浮かんだのが、冒頭のテレビ報道のシーンだった。

売る方にも買う方にも事情があるだろうに。それを、「大量に買い占めやがって」という描き方をする報道を、気持ち悪いと感じていた。ずっと心に引っかかっていた映像だった。

だったら、あの2人を笑顔にできないだろうか。売る方も買う方も嬉しくなるような、そんなコンセプトはないだろうか。

「それで思いついたのが、『おすそわけ』だったんです。自分が買ったマスクの一部を福祉の現場に『おすそわけ』する。買う人も、全部寄付することは難しいだろうけれど、ちょっとだけなら、おすそわけできるだろうし、マスクを買うことが嬉しい買い物になる。もらう人はもちろん嬉しいし、売る方も、そうであれば売りやすい」

まさに、三方良しのコンセプト。

社長の話を聞いているうちに思いついてしまった小国は、一転して、「社長! これ、いいですよ! やりましょうよ」と、社長を説得する立場に回ってしまっていた。

一事が万事、この調子だ。

そして、決めたからには、仕事は速い。

翌々日にはパッケージのデザインができた。10日後には予約販売を開始した。

パッケージには「おすそわけしマスク」、50/55と書かれている。55枚のマスクを買うと、自動的に、5枚のマスクが福祉現場に寄付される仕組みだ。50/55。この印刷があるだけで、普通のマスクが特別なマスクに変わる。

結果、40万枚近いマスクが福祉現場におすそわけされた。

なぜ多くの人を巻き込めるのか?

小国士朗

取材の最中、小国は何度も「僕自身には、やりたいことはないんです」と、口にした。

NHKのディレクターだった彼が単身独立し、1人の「小国士朗」として活動するようになった経緯。そして、「個」である彼が、多くの人たちを巻き込み、次々と大規模プロジェクトを成功に導いている、その理由とは何か。

全5回、小国の素顔に迫った。

(敬称略・第2回に続く)

(文・佐藤友美、写真・伊藤圭、デザイン・星野美緒)


佐藤友美(さとう・ゆみ): 書籍ライター。コラムニスト。年間10冊ほど担当する書籍ライターとして活動。ビジネス書から実用書、自己啓発書からノンフィクションまで、幅広いジャンルの著者の著書の執筆を行う。また、書評・ライフスタイル分野のコラムも多数執筆。 自著に『女の運命は髪で変わる』のほか、ビジネスノンフィクション『道を継ぐ』など。

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