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サントリー生命科学財団、10人の若手研究者に5年総額5億円の支援。基礎研究軽視の風潮に一石投じる

サンライン図

サントリーホールで記者会見と採択者発表・授与式が執り行われた。

撮影:三ツ村崇志

サントリー生命科学財団は12月7日、今年1月に設立した生命科学研究者支援プログラム「サントリーSunRiSE」の採択者を発表した。

SunRiSEは、若手研究者が志の大きい挑戦的なテーマに取り組める環境づくりを支援するために考案されたプログラム。生命科学系の45歳以下の「若手」研究者10人に対して、1人あたり総額5000万円(1000万円×5年)、総額5億円の支援を行うとしている。

また、従来の科学研究費(科研費)のような、資金の使途や使用期間の制限を可能な限り排除することで、研究資金としてより柔軟な使い方が期待できるとしている。

女性研究者の活躍も意識

採択者

10人の採択者。45歳以下の教授・准教授クラスの若手研究者が選ばれている。

撮影:三ツ村崇志

サントリーSunRiSEは、2020年1月に設立されると、5〜6月の間に支援プログラムの採択を希望する生命科学系の若手研究者を募集。合計で487人の応募があった。その後、選考委員による4カ月にわたる審査を経て、12月7日、10人の採択者が発表された。

運営委員長の中西重忠・京都大学名誉教授は、選考のポイントについて、

5年、10年後に新たな分野をつくることにつながるか、という観点で絞られました。夢がありなおかつ、これまでの準備の状況から考えて、(研究が)展開する可能性があるものを重視しました」

としている。

また、採択された10人中、3人は女性。

2019年に発表された男女共同参画白書によると、日本の研究現場における女性研究者の割合は16.2%にとどまっている(2018年3月31日時点)。生命科学系の分野における女性研究者比率は、物理系や工学系と比べて高いとはいえ、世界的に見るとまだまだ低い。

今回の選考に際して、中西委員長は

「運営委員会では、支援分野を9領域に区分して、研究支援の対象になりにくいような領域を含めて、多様な研究領域から優れた提案を採択すること。また、女性研究者の活躍が今後の日本の研究の発展に不可欠であるとの認識のもと、選考を進めるように提言しました」

と、日本の研究現場におけるジェンダーの偏りも意識しているとした。

「純粋な基礎研究がないがしろにされている」

試験管

Africa Studio/Shutterstock.com

2000年代に入ってから、日本人研究者のノーベル賞受賞が続いている。

しかし、ノーベル賞受賞者が出るたびに、「基礎研究」を軽視しているともとられかねない日本の科学技術関連予算の配分傾向に対し、危機感を募らせる発言が目立ってきた。

中には、ノーベル賞の賞金を原資に、研究者支援の基金を設立する例もある。

文部科学省の科学研究費は、ここ4年間で微増を続けているものの、多くの研究者から「役に立つ」研究に積極的に研究費を配分する傾向が強まっていると指摘される。

また、通常科研費の助成は3年程度。その間にある程度の研究成果が出なければ、それ以降の支援が続かなくなる可能性があることから、短期間で成果が見えやすい研究テーマに取り組まざるをえない状況が生じている。

結果的に日本の研究現場は、科学技術の裾野を育む基礎研究や、成果が見えにくい挑戦的な研究課題に取り組みにくい土壌となってしまっている。

運営委員の一人である、大阪大学の審良(あきら)静男特任教授は、今回のサントリーSunRiSEの採択者を見て、以下のように評価する。

「これまで見てきた研究助成とは少し異なるなと思いました。(一般的な)研究助成では、医学研究や『役に立つ研究』が多いのですが、今回採択された研究は、まさに基礎生物学といっていいものばかり。

昨今は役に立つ研究が望まれ、研究費がそちらに流れる傾向があり、純粋な基礎研究が蔑ろにされています。基礎研究の国際的レベルの低下が問題にされる中で、選考委員の先生方は本当に良いテーマを採択されたと思います」

また、採択者の一人で、食虫植物である「ハエトリグサ」など、植物が何かに触れた際に反応するメカニズムについて研究している埼玉大学大学院理工学研究科の豊田正嗣准教授は、サントリーSunRiSEの「5年」という支援期間について次のように話す。

「(ハエトリグサなどのような)非モデル植物で、遺伝子組み換え植物を作るのには、およそ1年くらいかかります。

最近の研究費は、短期決戦が求められるケースが多いなとつくづく感じていました。一個一個の実験が長くかかるものは、なかなかマッチしないということで、私自身苦労していました。そういった意味で、5年非常に長期的にサポートしていただけることは非常にありがたい」

現時点では、来年度以降の同プログラムの実施については不確定だというが、会見に同席したサントリーHD鳥井信吾代表取締役副会長からは、「状況によっては、3年後、5年後に(また)お声がけして続けていければ。会社が続く限りはやっていきたいと思っています」との発言があった。

科学の源泉は「知的好奇心」

大隅先生

オンラインで会見に出席する大隅教授。

撮影:三ツ村崇志

企業活動において、役に立つ研究や利益になりそうな研究に対して支援を行うことは、必要不可欠だ。一方で、いつどこで、どんな研究が役に立つのか予想ができないというのもまた事実。

そういった意味で、今回のサントリーの取り組みは、長期的な視点で見れば「将来に向けた種まき」とも言えるのかもしれない。

記者会見の中で、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学科学技術創成研究院栄誉教授から、採択者に対して次のようなエールが送られた。

「科学の原点は知的な好奇心だと思います。若い人が研究が楽しいとなかなか言えなくなっている状況に対して、みなさんが『新しいことを発見するということはこんなに楽しいんだ』と語れるような成果を上げてほしいなと思います」

科学の源泉は、知的好奇心だ。持続可能な社会を目指す上でも、研究者たちの自由な発想、好奇心を育める社会とならなければ、科学技術立国としての日本の立ち位置は危ぶまれるばかりだ。


なお、採択された10人の研究者と研究テーマは以下の通り。

植田美那子・東北大学大学院生命科学研究科教授
研究テーマ「たった一つの受精卵から、何がどうなって植物の形ができるの?」


後藤彩子・甲南大学理工学部准教授
研究テーマ「女王アリによる長期間の精子貯蔵メカニズムとその進化の解明」


金尚宏・東京大学大学院理学系研究科特任助教
研究テーマ「カルシウムクロック:全生命共通時計の追究」


砂川玄志郎・理化学研究所生命機能科学研究センター上級研究
研究テーマ「生と死の間:哺乳類の休眠から迫る生命の必要最小限分子機構」


田尻怜子・東京大学大学院新領域創成科学研究科日本学術振興会特別研究員(RPD)
研究テーマ「昆虫クチクラに nm~μm スケールの多彩な 3D 構造をつくりだす分子機構」


谷口 雄一・京都大学高等研究院物質ー細胞統合システム拠点教授
研究テーマ「ゲノムを対象とした新規の構造生物学分野の創生」


豊田正嗣・埼玉大学大学院理工学研究科准教授
研究テーマ「植物の高速運動および記憶形成機構の解明」


豊福雅典・筑波大学生命環境系准教授
研究テーマ「細胞壁の分解によって駆動される細菌の細胞質間分子輸送」


藤井壮太・東京大学大学院農学生命科学研究科准教授
研究テーマ「植物の有性生殖における雌雄相互作用分子の探索」


山本玲・京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点特定拠点准教授
研究テーマ「造血幹細胞の対称性・非対称性分裂の分子機構の解明」

(文・三ツ村崇志

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