ThinkPadシリーズ史上最軽量となる約907グラムの軽さを実現したThinkPad X1 Nano。
撮影:平澤寿康
レノボは12月8日、新型の軽量ノートPC「ThinkPad X1 Nano」を発売した。予想実売価格は26万円(税別)から。後述する「5Gモデル」は後日発売となる。
ThinkPad X1 Nanoは、同シリーズ史上最軽量となる907グラムという軽さを実現したモデルで、インテルの最新CPU、コードネーム「Tiger Lake」の採用や5G通信対応など、装備面も最新仕様など、テレワーク時代に見どころの多いモバイルノートだ。
9月29日に米国で発表されて以降、満を持しての国内発売。さっそく、ファーストインプレッションをお届けする。
「軽さを追求」しても、ThinkPad水準の堅牢性を確保
外観はThinkPadらしいつや消しブラックの弁当箱スタイル。フットプリントは292.8×207.7ミリとA4よりも小さい。
撮影:平澤寿康
ThinkPad X1 Nanoの見た目は、これまでのThinkPadシリーズと全く変わらないという印象。カラーはおなじみのブラックで、“弁当箱スタイル”と呼ばれる直線的なデザインの、ひと目でThinkPadシリーズとわかる重厚なボディー。そのデザインからは、「軽さ」の印象は意外や伝わってこない。
仕様によって重量はことなるため、展示機は実測で908.45グラムだったが、最軽量モデルは約907グラムとなる。
撮影:平澤寿康
しかし、実際にX1 Nanoを手にすると、思わず「軽い」という言葉が口から漏れ出てしまう。
重さは、ThinkPad史上最軽量となる約907グラム。もちろん、13インチクラスのモバイルノートPCでは、700グラムを切る軽さの製品もあり、X1 Nanoが突出して軽量なわけではない。
ただ、ThinkPadシリーズはこれまでノート型(クラムシェル型)モデルで1キロを切る製品はない。モバイルノートといえども、堅牢性重視でやや重いという印象が強い。だからこそ、約907グラムでもかなり軽いという印象を強く受ける。
キーボード面はアルミニウム合金を採用し、極限まで軽量化。
撮影:平澤寿康
この軽さを実現するためにX1 Nanoでは、天板にカーボン素材を採用。キーボード面には従来よりも軽く強度も申し分ないアルミニウム合金を採用するとともに、極限まで「肉抜き」して軽量化したという。
基板の大幅な小型化など、内部も軽量化が突き詰められている。
撮影:平澤寿康
その他、内部基板はスマートフォンに使われる設計を採用するなどして、ThinkPad X1 Carbonと比べて面積、質量ともに50%の小型軽量化を実現。内蔵基板も含めた、さまざまな部分で「軽さの追求」している。
左は13.3インチディスプレイ搭載のThinkPad X13。X1 Nanoはそれよりひとまわり小さいことがわかる。
撮影:平澤寿康
その上で、ThinkPadシリーズならではの堅牢性も確保した。カーボンの天板は全体を緩やかにカーブさせたドーム形状を採用することで、軽さと優れた強度を両立。実際に他のThinkPadシリーズ同様に“拷問テスト”と呼ばれる、レノボ独自の厳しい堅牢性試験をパスしている。
実際、実機を両手で持って捻るなどの力を加えても頑丈さはしっかり手に伝わってくる。
縦に長い「縦横比16対10」の13インチ液晶を搭載
2160×1350ドット解像度の13インチ液晶を採用。縦横比が16対10となっている点が大きな特徴。
撮影:平澤寿康
X1 Nanoのディスプレイにも特徴がある。一般的なノートPCは縦横比16対9のディスプレイだが、X1 Nanoは16対10とやや縦長のディスプレイを採用している。表示解像度は2K(2160×1350ドット)だ。
キーボードはThinkPadシリーズおなじみの6列仕様で、スティック型のTrack Pointとタッチパッドの同時搭載もしっかり受け継がれている。
撮影:平澤寿康
ThinkPadシリーズでは優れた操作性のキーボードとポインティングデバイスの搭載も魅力のひとつ。
しかし、16対9のディスプレイを採用してボディーを極限まで小型化すると、奥行きが短くなってしまう。そうなると、タッチパッドを小さくするか、ディスプレイ下部に広い空間を確保するかなど、難しい選択が必要になる。
X1 Nanoの縦横比16対10のディスプレイは、この点でもメリットがある。縦方向にディスプレイが大きいおかげで、ボディーを極限まで小さくしつつ、13.3インチの「ThinkPad X13」とほぼ同サイズのキーボードとタッチパッドを搭載できるわけだ。
左のThinkPad X13と比べてもキーボードやタッチパッドのサイズはほとんど変わっていない。加えてディスプレイ下部のベゼル幅も狭められている。
撮影:平澤寿康
X1 Nanoでは、ボディーの薄型化の影響から、キーストロークはやや浅めとなっているが、それに合わせたクリック感の調整が行われており、操作性もほとんど犠牲になっていないと感じた。
タッチパッド横の指紋認証センサーに加え、物理シャッター付きの顔認証IRカメラも搭載。
撮影:平澤寿康
もちろん、スティック型の「Track Point」とタッチパッドを組み合わせたポインティングデバイスの操作性も申し分ない。こういった部分からも、軽さを実現しつつ、妥協なくThinkPadの魅力を詰め込むという開発者の意地とこだわりが伝わってくる。
5G対応など十分な性能、一方気になるのは「拡張性」
天板に3層構造のカーボンを採用して軽さを追求した本体。
撮影:平澤寿康
X1 Nanoでは、CPUに「Tiger Lake」ことインテル製の第11世代Coreプロセッサーを採用する。
ただし、Tiger Lakeには汎用的な薄型ノートPC向けの「UP3」と、より薄く小さなノートPC向けで発熱を抑えた「UP4」という2つのラインがあり、X1 NanoはUP4を採用する。そのため、性能的にはUP3搭載製品に負ける可能性が高い。
大口径の薄型ファンを採用しCPUを強力に冷却することで、Tiger Lake UP4搭載ながら優れた性能を安定して発揮する。
撮影:平澤寿康
ただ、レノボ担当者は「優れた冷却能力を備えるCPUクーラーを搭載することで、UP4ながらUP3に匹敵するパワーを安定して発揮できる」と話す。
レノボによると、第10世代Coreプロセッサー搭載の「ThinkPad X1 Carbon」とベンチマークテストで比較しても、ベンチマークアプリ「PCMark 8」のWorkテストで1.2倍、3DMarkのSky Diverで2.7倍のスコアーが出るという。
また、オプションで5G対応のデータ通信機能を搭載できる点や、最大22.8時間駆動可能な大容量バッテリーを選択できる点、レーダー方式の広視野角人感センサーを活用したセキュリティー性など、モバイルPCとしての機能面も申し分ないレベルだ。
ポートはオーディオジャックとThunderbolt 4対応USB Type-C×2のみ。
撮影:平澤寿康
ただ、少し残念なのがインターフェイス(入出力端子)だ。
X1 Nanoでは、オーディオジャックとThunderbolt 4対応のUSB Type-Cが2つしか用意されない。ボディーの小型化と薄型化を突き詰めたことで、HDMIやUSB Type-A(いわゆる、フルサイズのUSB)などのポートが省かれているのだ。
小型軽量のUSB Type-Cポートリプリケーターがオプションで用意されるが、周辺機器の利用はやや妥協が必要だ。
撮影:平澤寿康
そして、電源もUSB Type-Cから取るため、ACアダプターを接続すると、USB Type-Cは1つしか使えない。代わりに、超小型のUSB Type-Cポートリプリケーター(拡張アダプター)がオプションとして用意されるが、周辺機器の利便性については少々妥協が必要そうだ。
軽さは正義、だが軽さだけが正義ではない
「軽さは正義、だが軽さだけが正義ではない」と話すレノボ・ジャパン 第2先進ノートブック開発マネージャーの中村佳央氏。
撮影:平澤寿康
筆者は、これまでほとんどThinkPadシリーズを使ってこなかった。それは軽さは正義と考えて、持ち歩く荷物を可能な限り軽くしたいことから、ほぼ同じ性能なら軽い製品を積極的に選んできたからだ。
ただ、X1 Nanoの圧倒的な堅牢性や扱いやすいキーボード、長時間駆動、なにより5G対応(後日発売)など、トータルの仕様では輝かしい光を放つ存在になるだろう。
(文、撮影・平澤寿康)