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ニトリも大塚家具も、家具業界を勝ち抜く本命とは言えない?ビジネスモデル比較で見えた真の実力

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スウェーデン・ストックホルム郊外にある大規模なイケアの店舗。

REUTERS/Anna Ringstrom

新型コロナウイルスの大流行により、世界経済はすっかり姿を変えてしまった。

回復困難なほどの打撃を受けた企業がある一方で、予期せぬ急成長を遂げた企業もある。企業や業界により異なるビジネスモデルのあり方に焦点を当て、金沢工業大学大学院の上野善信教授がポストコロナ経済の先行きを読み解く。

家具・インテリア業界の勢力図

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取材に応じる大塚家具の大塚久美子氏。2015年5月撮影。

REUTERS/Yuya Shino

昨今、劇的な変化を遂げつつある業界のひとつが家具業界だ。

家電量販大手ヤマダホールディングスの傘下に入った大塚家具は、2020年12月に大塚久美子社長が退任。

業績好調な家具・インテリア業界最大手のニトリホールディングスは、ホームセンター大手の島忠に株式公開買い付け(TOB)を行い、先に買収合意していた(同じホームセンター大手の)DCMホールディングスから奪い取る形で子会社化した。

派手な買収劇に注目が集まりがちだが、家具業界がこの先どんなふうに変わっていくのか、その行き先は各社のいくつかの経営指標に注目すると、一目瞭然と言える状況だ。

大塚家具とニトリのビジネスモデルの根本的違い

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東京・世田谷区のニトリ。都内の大型店舗の1つで、週末ともなると多くの家族連れがクルマでつめかける。ニトリやイケアに比べ、輸入家具を扱う大塚家具は在庫が多くなる。

撮影:伊藤有

ただし、企業のどんな指標に注目して比較するかについては、細心の注意が必要だ。

例えば、大塚家具とニトリのビジネスモデルを同じ指標で比較することはできない。それは、自動車メーカーとMaaS(※)プロバイダーを同じ土俵に乗せるようなものだ。

あらためて整理しておくと、大塚家具は「輸入販売業」であり、ニトリやイケアは「製造物流小売業(SPA)」だ。

海外などから商品を買いつけ、幅広く在庫することに価値がある「百貨店型」ビジネスを展開する大塚家具は、在庫が相対的に多くなる。一方、自社で製品企画をして販促活動に直結させるニトリやイケアなどSPAは、在庫が相対的に少なくなる。どちらもビジネスモデルの特性から考えて、自然のなりゆきだ。

※MaaS……Mobility As A Serviceの略。自動車や電動モビリティなどを所有せず、必要なときだけ料金を払ってサービスとして利用する仕組み。月額あるいは年額課金(サブスクリプション)を組み合わせたビジネスモデルを構想するケースが多い。複数の交通機関を組み合わせた統合型移動サービスとして提供する取り組みも増えている

小手先の対策は通じない

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2020年12月にイケアが渋谷に出店した小型店舗。

撮影:小林優多郎

さて、それでは大塚家具のような百貨店型ビジネスに勝機はあるのか。

家具業界に限らず、消費者がインスタグラムなどSNSでトレンドを把握し、必要なものをピンポイントで検索してECで購入する流れは、すでにすっかり定着している。このコロナ禍でECシフトが進み、その傾向はより顕著になっていくだろう。

そうした消費者の購買行動の変化により、ターゲットをしぼり込んでストーリー性を前面に出し、売れ筋だけをそろえる小規模輸入業者(セレクトショップ)や、はじめから店舗を持たないECの勝機は格段に増した。収益性という意味では、インフラ投資が少なくて済むため、優位性が圧倒的に高い。

そうした状況のなかで、百貨店型ビジネスが生き延びるためには、検索などを面倒だと思う一定の富裕層を徹底マークする、大塚家具の元会長・大塚勝久氏の手法が妥当だ。

とはいえ、国内市場は人口減などの背景から、先細りしていくことがわかっている。イケアやニトリなど安価な家具を提供する競合と狭まる市場を争う先行きを考えたとき、従来の販売方法に固執すべきではないと考える、久美子社長の方針も分からなくはない。

しかし、イケアやニトリは従来とはまったく異なる手法を用いるイノベーターであり、小手先の対策は通じない。

よく考えてみてほしい。

脚がある机や椅子、中が空洞のタンス……かさばる家具を在庫したり運搬したりするのは、実は(専有する容積に着目すれば)空気を並べたり運んだりしているのと同じではないだろうか。

イケアやニトリの戦略が画期的なのは、この「空気」の部分を最小限にして、在庫や輸送のコストを圧倒的に小さくしたことだ(海上貨物の運賃は、重量は関係なく体積のみで決まる)。

「時代遅れ」のビジネスモデル

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台北のイケア。新型コロナウイルス完成予防のため客はマスクをしている。2020年4月撮影。

REUTERS/Ann Wang

イケアやニトリに対抗するため、大塚家具の久美子社長は安売り路線を推進した。しかしその結果、粗利率は最高益を記録した2007年12月期から2019年12月期までに8ポイント近く低下した。

勝久元会長は「ニトリやイケアを意識したら間違う」と在任時に語っていたが、その通りになってしまった。イケアやニトリの安価な家具に一度なじんでしまうと、なかなか元には戻れない。大塚家具の売り上げは縮小均衡に向かうほかなかった。

冒頭で触れたように、大塚家具はヤマダホールディングスの傘下となった。それでも、筆者は大塚家具の未来にあまり希望を感じられないでいる。結局、ビジネスモデルが時代遅れだからだ。

ヤマダホールディングスの山田昇会長は、大塚家具の粗利率(2020年12月期第1四半期で46%)の高さから、売り上げが伸びれば黒字化は可能と考えているようだ。

確かに、28%だったヤマダ電機の粗利率(大塚家具子会社化の前の2019年4から9月期)に比べれば、輸入家具の粗利益は羨ましいほどの水準だろう。しかし、その見方は危うい。むしろ、「それほどの粗利を取らないと広大なショールームや大量の在庫、販売員を抱える高コスト体質は維持できない」と理解すべきではないか。

顧客にとっては「輸入家具は割高」ということであり、EC勢にその分の中抜きの余地を与えることになる。百貨店が苦境に陥った構図そのものだ。百貨店は幸運にもインバウンド需要で一息つくことができたが(それもコロナ禍で雲散霧消した)、残念ながら家具業界にはインバウンド需要も無縁だ。

ニトリにも「死角」あり

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家具業界では良品計画が高い成長率を維持している。

各社の有価証券報告書などを基に上野教授が作成。

ここまで、ニトリやイケアの大塚家具に対する優位性を強調してきたが、必ずしも盤石とは言えない。ここではニトリを例にあげておこう。

家具・インテリア業界では圧倒的に高い営業利益率と成長率を誇るニトリだが、じつは成長率では無印良品を展開する良品計画にかなわない。

ニトリが成長率の面で良品計画の後塵を拝している原因は、ひとえに海外進出の遅れだろう。

良品計画が全975店舗のうち53%を海外で展開しているのに比べて、ニトリの全647店舗のうち海外はわずかに11%だ(両社とも2019年2月現在)。

禅や茶道のイメージを絡めるなど、無駄を省いた独自の「日本らしさ」を強調して差別化を図る良品計画に比べ、機能性と価格を前面に出さざるを得ないニトリは、海外展開での強みという意味では、苦しいのではないか。

そうした状況を踏まえると、ニトリの島忠へのTOBは、縮小に向かう国内市場への危機感と、思うように進まない海外展開、ふたつの核心的経営課題が生み出した「焦り」が生み出した判断ではないか。少なくとも筆者はそう見ている。

(文・上野善信)


上野善信(うえの・よしのぶ):金沢工業大学虎ノ門大学院教授。新日本製鐵株式会社にて製造系・流通系のシステム導入、i2テクノロジーズ社製ソフトウェアによるSCM導入コンサルティングに従事。アサガミ株式会社(倉庫・物流・印刷業)取締役、PwC PRTM(戦略・SCM・R&Dコンサルティング)ディレクター、キャップジェミニジャパン(ITコンサルティング)代表取締役などを歴任。東京大学工学部卒、UCバークレー工学部大学院・MIT経営大学院修了、東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻修了(博士工学)。

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