日本には「行動する若者」が少ない——アショカ・ジャパン渡邊代表が日本社会に抱く危機感とは

「ぽちっと募金」の画面

スマホ決済アプリ「J-Coin Pay」で始まった「ぽちっと募金」。

みずほ銀行は2020年7月、スマホ決済アプリ「J-Coin Pay (ジェイコインペイ) 」を通じた寄付のしくみ「ぽちっと募金」をスタートさせた。スマホで簡単に募金できるこの取り組みは、どのような可能性を秘めているのか。

創設以来みずほ銀行の支援を受け、独自の着眼点で社会問題に取り組む若い世代を育成する「ユースベンチャー」事業を行っている一般社団法人アショカ・ジャパン代表の渡邊奈々さんと、みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 ビジネスデザインチーム 参事役の首藤克也さんに話を聞いた。

社会を変える12〜20歳の「ダイヤモンドの原石」を探す

アショカ・フェロー来日時の講演会

アショカ・フェロー来日時の講演会にて。写真右からアショカ・ジャパンの渡邊奈々さん、みずほキャピタル社長の大町祐輔さん、アショカ・フェローのリカルダ・ゼッザさん。

提供:アショカ・ジャパン

「私たちは、ダイヤモンドの原石のような若者たちを探しているんです」

渡邊さんは、自身が代表を務めるアショカ・ジャパンの「ユースベンチャー」事業について、こう語る。

アショカ・ジャパンは「Everyone a Changemaker」=「一人ひとりがチェンジメーカー」である世界、一人ひとりが世界は変えられるという意識を持って行動できる社会を目指して活動している団体だ。さまざまな活動のなかで、特に力を入れているのが「ユースベンチャー」プログラム。これからの日本、これからの世界を変えていく原動力となる若い人材を探し出し、育てる活動を続けている。

渡邊奈々さん

渡邊奈々(わたなべ・なな)さん。アショカ・ジャパン創設者&代表、写真家。1980年から米ニューヨークで写真家として活動を始める。87年『アメリカン・フォトグラファー』誌による「Photographer of the Year」を受賞、2000年から社会を変える人たちの取材を始め、2011年から現職。

提供:アショカ・ジャパン

団体の母体である「ASHOKA」は、世界最大の社会起業家ネットワークで、米ワシントンに本部を構える。世界35カ国に拠点を置き、95カ国で活動している。その東アジア初の拠点として2011年に発足したアショカ・ジャパンは、これまでに107組、約500人のユースベンチャー・チームを選出し、育ててきた。

「ユースベンチャーに選ばれた若者たちは、自ら見つけた問題の解決のため、アクションを起こし、試行錯誤するチャンスを与えられます。何度失敗してもいいのです。むしろ、失敗を怖がることのほうが失敗。1年にわたり思い切り試行錯誤できる環境こそがユースベンチャーなのです」(渡邊さん)

アショカ・ジャパンのユースベンチャー・プログラムが求める人物像は、日々の暮らしのなかで、これはおかしいと思ったことの解決のために自ら何らかのアクションを起こしている12歳から20歳までの若者だ。審査を通過して選ばれると、活動資金のほか、ASHOKAのメンバーである世界的な社会起業家「アショカ・フェロー」との交流や、ユースベンチャー・コミュニティを通じて他のメンバーと意見交換する機会が与えられる。

諸外国に比べて、問題意識を行動に移す若者が少ない日本

ユースベンチャラー審査会

ユースベンチャラーを選出するための審査会を、2020年夏から二ヶ月に一度の頻度で行っている。

提供:アショカ・ジャパン

とはいえ、そうした人材を発掘することは容易ではない。そもそも「自分で課題を見つけ出し、取り組む」ことが、なかなかできることではないからだ。

「社会問題にもトレンドがあります。メディアがそのトレンドを作り上げています」

と、渡邊さんは言う。例えば、地球温暖化やフードロス、子供の貧困の問題、少し前なら待機児童問題、もっと前なら地雷撲滅運動と、時代によってメディアが盛んに報じる社会問題は異なる。多くの子供たちは、メディア情報に影響を受けて、問題意識を持つことになる。だが、アショカが定義する「問題意識」は違う。

「私たちが求めるのは、あくまで自らの気付きによって問題意識を持ち、『そんなことする時間があれば勉強しなさい』といった周囲からの妨害にも屈することなく自らを貫くような若者。『内発的動機』と『行動力・レジリエンス』という2点を満たす若者を探しているのです」(渡邊さん)

アショカ・ジャパンは対象となる12歳から20歳までの若者が参加するイベントをチェックしたり、候補者が見つかりそうな学校に連絡をしたりして、常に調査を進めている。審査会のパネリストとして、毎回経済界、学界、教育界などの影響力を持つ専門家を招き、ユースベンチャラーを選出。過去8年間には、プレゼンターの約60%が審査をパスしてきた。ここに、渡邊さんが、そうした人材を「ダイヤモンドの原石」と形容する所以がある。

「実は、日本には諸外国に比べて、若い人のやる気が低く、社会に貢献したいという希望が薄いという調査結果があります。やりたい子がたくさんいるけれどもサポートがないというのでなく、大勢に逆らって手を挙げるような若者が少ないのが現状です」(渡邊さん)

渡邊さんらが探し求める人材は、希少であるという意味でもまさに「ダイヤモンドの原石」なのだ。

行動する人の背中を押す「寄付を文化に」

ユースベンチャラー

8カ国から集まった若いチェンジメーカーたちと、日本のユースベンチャラーたちが交歓した。

提供:アショカ・ジャパン

そんな困難なミッションに挑戦し続けるアショカ・ジャパンだが、2020年夏から活動を加速させている。過去8年間で107組を育成してきたユースベンチャー事業で、2020年7月からの3年間でさらに100組の育成を目指すという。

「今回、新型コロナウイルスの感染拡大による混乱のなか、日本にはリーダーシップとエンパシー(共感力)を兼ね備えた人材が欠けていることを痛感し、大きな危機感を抱きました。予測不能な状況に対応できる人材の育成を急がなければならないと考えました」(渡邊さん)

アショカ・ジャパンでは2020年7月以降、これまで年に3〜4回だったユースベンチャーの審査パネルの頻度を倍にし、人材発掘を急いでいる。2020年はコロナ禍のためにオンラインに移行せざるを得なかったが、例年は渡米してニューヨークでアショカ・フェローとの直接交流も行っていた。若者チェンジメーカーを増やすには、これまで以上に資金も必要になる。そこで課題となるのが資金調達だ。

日本には、まだ寄付の文化が根付いていないのが現実です。アメリカや西ヨーロッパ、またお隣の韓国などでは、公益のために寄付することは日常の一部となっています」(渡邊さん)

首藤克也さん

首藤克也(しゅとう・かつや)さん。みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 ビジネスデザインチーム 参事役。

そんななか、アショカ・ジャパンの創立当時から活動を支援してきたみずほ銀行が、アショカ・ジャパンをはじめとする社会貢献活動に取り組む団体を支援する新たな仕組みをスタートさせた。それが「ぽちっと募金」だ。

「ぽちっと募金」は、みずほ銀行と全国の地域金融機関が連携するスマホ決済アプリ「J-Coin Pay」を通じて、ユーザーが「支援したい」と思った団体に寄付することができる仕組み。みずほフィナンシャルグループの首藤克也さんは、ぽちっと募金誕生の経緯についてこう語る。

「2019年春にJ-Coin Payのサービスを始めた当初から、プラスアルファとして何が提供できるかを考え続けてきました。銀行としてできる社会貢献を考えたときに、募金は親和性があるということでスタート時から選択肢にあがっていました」(首藤さん)

「いずれ導入しよう」と考えられていた機能の導入が、本格的に俎上に上がったのは2020年春。コロナ禍で非対面での寄付のニーズが高まっていたことから、優先して取り組むこととなった。

「さまざまな団体とお話しして、日本社会には寄付や募金が根付いているとは言えない状況があることを痛感しました。『ぽちっと募金』を通じて、『文化』としての寄付、募金を根付かせていくお手伝いができるのではないか。これは金融機関としてより取り組むべき課題ではないかと考えたのです」(首藤さん)

100円から踏み出す、社会を変えるための一歩

首藤さん

「アメリカなどでは個人小切手が普段から使われていて、賛同した活動に少額でも気軽に小切手を送る、といったことが行われてきた歴史があります。日本でも、社会問題に興味を持っている高校生や大学生は少なくないはず。『ぽちっと募金』が、アメリカにおける小切手に代わる存在になったらいいですね」(渡邊さん)

「ぽちっと募金」の寄付の額は、メニューから希望の額を選ぶか、任意の額を自由入力して送る方式。最少額は団体によって異なるが、最少で100円から寄付が可能だ。J-Coin Payアプリの「募金」アイコンを選び、アショカ・ジャパンをはじめとする寄付先団体の一覧から賛同する団体を選んで、額を決め、文字通り「ぽちっ」と募金ができる。

「社会活動への、賛同、応援の気持ちを表すものとして、あるいはボランティアに参加する感覚で、『ぽちっ』としていただけたら。いずれはそれが、さまざまな社会問題への取り組み方の一つの方法として、ひいては『文化』として根付いていったら素晴らしいと思います」(首藤さん)

渡邊さんはアショカ・ジャパンの目指す理想の世の中について、「Everyone a Changemaker」、「一人ひとりが、おかしいと思ったことは変えられるという当事者意識を持つ世界」と話す。

「大げさなことでなくていい。おかしいと思ったことには、自分が無理なくできる範囲でやってみる。そして、だれかの活動に対しても、賛同できれば自分なりにできる形で手を差し伸べる。そういう姿勢を皆が持てば、社会全体が大きく変わっていくと思います」(渡邊さん)

より多くの人が、社会をよりよく変えるための活動に、自分なりの形で関与していく手掛かりとなるために。みずほ銀行は「ぽちっと募金」の寄付先の団体を、今後さらに増やすことも考えているという。


「ぽちっと募金」について詳しくはこちら。

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