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コロナに明け暮れた2020年。働き方が大きく変わり、今後のキャリアについて改めて考えさせられたという人も多いのではないでしょうか。
世の中は大きく変わろうとしています。この大きな流れを把握して、少しでも早くアクションに移したいものです。そこで今回は、変化の時代を乗り切るためのキャリアの作り方について考えていきます。
リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの共著『ライフ・シフト』によると、私たちの寿命は延びており、100歳くらいまで生きる時代が到来しつつあるそうです。60歳でリタイアしたとして、100歳までの40年間を年金だけで暮らしていくのはかなり心細そうです。
一方で、熾烈な競争環境と加速する変化スピードなどにより、企業の寿命は以前と比べて短命化しています。
東京商工リサーチの2018年に集計によれば、登録されている企業が倒産した場合の「主要産業別平均寿命」は全体平均で23.9年、最も長くても製造業の33.9年だそうです。つまり、私たちが社会に出て定年退職を迎えるまでに、1つの会社でずっと働き続けられる可能性はどんどん下がってきているということです。
こうした話を耳にすること自体は、おそらくあなたもこれが初めてではないでしょう。ただし、その大きな変化に対する備えはどのくらいできているでしょうか? 私が見るかぎり、この質問に自信を持ってイエスと答えられる人は、日本にはまだそれほど多くないと見ています。
会社に人生を預ける時代は終わった
日本企業にいると、「就職」ではなく「就社」した状態の人が少なくありません。その「職」に就いたのではなく、その「会社」に入ったということです。
これまで多くの日本企業では、従業員にジョブローテーションをさせながら、自社に最適化した人材を育成することを重視してきました。まさに「就社」の状態です。これは見方を変えれば、会社が従業員のキャリアを考えてくれていたとも言えるでしょう。
もはや企業の側にも、従業員の人生を背負う余裕はなくなりつつある。
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しかし、労働人口の減少や日本の競争力の低下をはじめとしたさまざまな要因から、会社の側にはもはや、従業員の人生を面倒見る余裕がなくなってきました。
企業にとって、業績の良し悪しに関係なく毎月支払わなければならない固定費をいかに削減するかは重要なテーマです。固定費の中には当然、従業員の給料も含まれます。
固定費比率が大きい大企業は、これからますます多くの従業員をフルタイムで常時雇用する余裕がなくなってきます。しかし人がいなければ仕事は回らない。ではどうするのか?
そこで企業は、「必要な時だけ必要な人材を利用したい」と考えるようになってきています。シェアリングエコノミーの進展により「所有から利用へ」というトレンドが浸透していますが、それが個人だけでなく企業にも当てはまるということです。
実際、フルタイムで常時雇用しない方向へ舵を切る動きは大企業の間でも広がっています。
電通は11月、正社員230人を業務委託契約に切り替えると11月に発表した。
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例えば、電通は先ごろ、社員230人を個人事業主に転換すると発表しました。電通は副業を禁止していますが、この対象者は、兼業や起業が可能になるとのこと。契約期間は10年なので実質的には雇用と変わりませんが、個人にとっては電通との仕事を10年間確保しながら他流試合ができるメリットもあります。
電通のこの取り組みの対象者は、国内事業の40代以上2800人だったそう。最終的に230人が手を挙げたということは、対象者の10%強が個人事業主を選んだことになります。「企業にとっては所有から利用、個人にとっては1社に頼らない働き方」の兆しが、ここにも見られます。
もうお分かりですね。あなたも、自分のキャリアは自分で考え、守らなければいけません。今の時代、1つの会社だけに頼るのはあまりに危険です。その会社でしか通用しないスキルを磨き続けるのではなく、「人生100年時代」を生き抜くためのキャリアのビジョンと、どこへ行っても通用するスキルを身につける必要があります。
自分のキャリアは自分で考える
海外のIT企業などでは、自分のキャリアは自分で考えるのが当たり前です。こうした企業に所属するエンジニアたちは、例えば1つのスキルを習得する期間を2年と決め、次々にプロジェクトを変わっていきます。なかには、プロジェクトの途中であっても次へと移っていくエンジニアもいます。
私たち日本人の感覚では、「プロジェクトの半ばで去るのは周囲に迷惑がかかるから」と、プロジェクトの切れ目まで異動や転職は控えようと考えがちですよね。その常識からすると、自分のキャリア開発を最優先するという感覚はにわかに信じられないかもしれません。
しかし海外のIT企業には、近年までの日本企業と違い、従業員のキャリアを守ってあげようという発想はありません。その常識に慣れているエンジニアにしてみると、自分のキャリアを自分で考え、行動するのは当然のこと。だからこそ、たとえプロジェクトの途中であっても、次々にプロジェクトを渡り歩き、さまざまなスキルを貪欲に習得していくのです。
結果、フロントからバックまですべてのスキルを持つフルスタックエンジニアになることで、自分のキャリアを武装していくのが彼らのやり方です。
プロジェクトからプロジェクトへ。海外のITエンジニアはキャリア開発にも貪欲だ(写真はイメージです)。
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このエピソードを、所詮は海外企業の話と聞き流すのは危険です。日本でも一部の企業ではすでに、キャリア磨きに貪欲な人材が集まり始めています。
今から7〜8年前、私がリクルートのIT子会社の社長職に就いていた当時は、毎年40名前後のIT新卒を採用していました。新入社員と話をしてみると、驚いたことに約半数が学生時代に起業や就業経験がありました。うち3割は、リクルートに入社した後も副業としてそれらの会社に携わっていました。
しかも、新入社員は私にこう言ったのです。「リクルートが副業OKでなければ、そもそもエントリーしませんでした」と。
学生時代に起業や就業の経験がある人ほど、自分自身のキャリア構築に対して積極的で優秀な人材である可能性が高いはずです。彼らは「この会社に骨を埋めよう」などという意識はおそらく希薄でしょう。ここと決めた企業で腕試しをしながら最大限に学び、経験を身に着ける。自分自身の守備範囲が広がったら、次なる学びの場を求めて転職をと、アグレッシブに行動しています。
私は、このくらいの行動力と自身のキャリアに対する貪欲さがなければ、来たるべき人生100年時代は乗り切れないのではないかとさえ思っています。
社内にある機会を最大限に活用しよう
このように、私たちも起きつつある変化に対する備えが必要です。では具体的には何をすればいいのでしょうか? 以降では、あなたも明日から実践できるアクションプランを考えてみたいと思います。
まず、会社の中でスキルを習得できる機会は積極的に利用しましょう。
例えばある程度の規模以上の企業なら、従業員を対象にした研修の機会が用意されているでしょう。新人研修に始まり、中堅社員研修、管理職研修、あるいはスキル習得の研修などなどです。
こうした研修にいやいや参加する人もいるようですが、自腹で受ければそれなりの受講料がかかるようなものもあるわけですから、どうせなら積極的に利用してスキルを習得したいものです。
研修は社内でスキルを習得できるまたとないチャンスだ(写真はイメージです)。
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また、積極的にスキル習得を考えるのであれば、企業規模にかかわらず実践できて一番効果的な方法があります。それは、社内のハイパフォーマー(高い業績を挙げ続けている人)に、高業績のコツを直接聞くことです。
社外の人であれば容易に聞けないことも、社内の同僚や先輩なら気軽に声をかけて教えてもらえます。こんな機会は組織に勤めていなければ本来得られないもの。活用しない手はありません。
自分の中の「タグ」を増やそう
あなたにお勧めしたいもうひとつのアクションプランは、副業です。
今は副業を解禁する企業も増えたうえ、タスク管理やコミュニケーションを効率的に支援してくれる便利なツールが安価に利用できる時代です。
例えば先日、一部上場企業の方から私のところに仕事の問い合わせがありました。一度メールでやり取りしてゴーサインが出、翌週には関係者がZoomでミーティングをし、2週間後にはオンラインで納品が完了していました。問い合わせから納品までの間に、依頼企業の方とは一度も対面で会っていません。
このように、いまや場所の制約も時間の制約も小さくなっています。一歩踏み出せば、想像以上に副業の可能性が広がっている時代です。
そこでまず、自分がやりたいこと、できること、得意なことを明確にしましょう。自分はこれが得意という「タグ」を付け、そのタグの数を増やしていくのです。タグの数が多ければ多いほど他者との差別化が図れます。
「差別化」といっても、難しく考える必要はありません。100万人の中で1番になるのは無理でも、100人の中で1番だったらどうですか? 簡単ではないかもしれませんが、無理ではないですよね。
もしも100人の中で1番を3つ見つけることができれば、100万人の中でたった1人の存在になれます。「100人に1人」が見つからなければ「10人に1人」でもかまわない。それを6つ見つければ100万人に1人になれる可能性が出てきます。
例えば若い経営者は、それだけで「100人に1人」のタグの可能性があります。高校生や中学生で経営者なら「1万人に1人」のタグかもしれません。
私は、IT(リクルートテクノロジーズの社長)×不動産(スーモの事業開発担当役員)×HR(リクルートワークス研究所主幹研究員)×女性活躍(リクルートiction!事務総長)×KPI(リクルート社内講師)×マネジメント(20年の管理職・経営経験)×経営者育成(中尾塾)×著述業(本の出版やメディアでの連載)……など、いくつものタグがあります。
このタグの中の1つに興味を持ってくれた方が、他のタグもあることで信頼してくれ、一緒に仕事をしませんかと声をかけてくれます。あなたもそんなふうにして、自分ならではのタグを探してみてください。そして、そのタグに引っかかったら、小さなことでもかまわないので副業にチャレンジしてみてください。
1つのチャレンジがあなたに経験をもたらし、その経験が次のチャレンジにつながって、やがて「人生100年時代」にも耐えうるようなあなた独自のキャリアを育んでくれるはずです。
※本連載の第15回は、1月8日(金)を予定しています。
(連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
この連載について
誰かから指示された「やらされ仕事」より、「裁量ある仕事」のほうがやる気は出るもの。しかもそれで結果を出せれば成長につながり、何より楽しい。では、裁量ある仕事を任されるためには何が必要でしょうか? 答えは「自分で考え、生産性高く成果を出すスキル」です。
このスキルを「自律思考」と呼ぶのは、リクルートグループに29年間勤務し、独立後はさまざまな企業に対して業績向上支援を行っている中尾隆一郎さん。連載「『自律思考』を鍛える」では、生産性高く成果を出すスキルを身につけるためのエッセンスを中尾さんに解説していただきます。
中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役も兼任。新著に『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』がある。