炎上続くnoteの改革なるか?伝統の文藝春秋とnoteが資本業務提携

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千代田区紀尾井町に本社を構える文藝春秋。

撮影:横山耕太郎

大手出版社文藝春秋と、アクティブユーザー6300万を突破するメディアプラットフォームnoteは12月10日、資本業務提携を発表した。文藝春秋を引受先とする第三者割当増資を実施し、noteが資金調達する。調達額は非公表。

文藝春秋は紙の総合誌のイメージが強いが、2019年11月には月額900円のデジタル定期購読サービスをnote上で開始。有料サービスは契約者を伸ばし、1年間の契約目標数を10カ月間で達成するなど好調を維持している。

提携により両社では、編集者が定期的に情報交換する場を設けたり、人事交流したりする予定で、文藝春秋は、さらなるデジタル化に向けた人材育成を進める。

一方、noteが運営するメディア「cakes」では2020年10月、11月に掲載記事をめぐるSNS炎上が連続。文藝春秋との提携発表の前日に当たる12月9日にも、声優としても活躍する、文筆家のあさのますみさんの連載記事に関して、編集部から一方的に掲載の見送りを伝えられたと訴えるあさのさん自身のツイートが注目を集め、編集部への批判が巻き起こっている。

noteは一連の炎上に関しては「クリエイターや作品そのものを軽視しているような対応をしてしまっていたこと、大変申し訳なく思っています。特に今回はnote上で開催された『cakesクリエイターコンテスト』を起点にしていますので、期待して応募してくださったクリエイターのみなさんを裏切る結果になってしまったことも、重ねてお詫び申し上げます」と謝罪。

「編集部の体制も11月末に刷新したばかりですので、今後も新たな方針をもとに立て直しを図ってまいります。文藝春秋との提携によって、社員交流などを通じて歴史ある、編集力のある会社から学んでいきたいと考えています」とコメントしている。

今回の文藝春秋との提携により、編集体制の質を向上させる狙いもある。

noteが期待する文藝春秋の「編集力」

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noteの加藤貞顕社長。

撮影:今村拓馬

「伝統ある出版社にしかできないことと、私たちが得意なこと、両者の強みを生かして、誰もが創作をはじめて続けられる未来をつくっていきたいと思います」

noteの加藤貞顕社長は今回の資本業務提携について、そうコメントする。

note社が運営するメディアcakesでは、掲載された原稿が不適切だとして、Twitter上で批判が巻き起こるなど炎上するケースが相次ぎ、編集部側の責任が問われる事態に発展している。

2020年10月、写真家の幡野広志さんの人生相談のコラムでは、寄せられた相談内容に対して虚偽だと決めつける回答を掲載。

また11月は、note主催のコンテンストで優秀賞に選ばれた、ホームレスの生活を描写したというルポ風記事にも、「珍獣観察のよう」「差別的」などの批判が相次いだ。

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cakeの編集長交代を伝えた文章。

HP編集部キャプチャ

こうした事態を受け、note社では11月末にcakes編集長が交替し、編集体制の立て直しを進めていた。

そして12月9日。あさのますみさんが、友人の自殺について複数回の連載を予定していた記事について、編集部から掲載中止を伝えられたとして、note上で編集部とのやり取りを公開。「フィクションってことにしましょうか」という持ちかけや、書き手を軽視していると取られかねない編集部の対応の仕方に批判が強まっている。

編集部を増員「やり取りの知見も学びたい」

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出典:note

noteによると、もともと4人だった編集部員を含め、兼務社員も6人に増員。掲載までの過程は開示していないが、チェック体制や掲載までのフローの見直しも進めているという。

また、今回のnoteと文藝春秋の提携により、今後は編集部の人材交流も実施する予定で、noteは編集基盤の充実につながることを期待している

「より広い視点を持って、さまざまな事象に対処していく必要があると思っています。また数多のクリエイターとやり取りされてきた知見も学んでいく必要があると考えています。個人が学ぶことに加えて、コンテンツの質を保つ体制づくりをどうするかについても吸収していきたい」(note広報)

文藝春秋社の編集部門を統括する専務取締役の飯窪成幸氏は、ネット上の情報について、「量だけでなく質のへの関心が高まっている」として、今回の提携の意味をこう説明する。

「ネット上の情報については、フェイクニュースなど、このままではいけない問題もある。これまで私たちが培ってきたジャーナリズムの姿勢を提供することで、互いに学び合えることがあると考えています」(飯窪氏)

文藝春秋が挑むデジタル化加速

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文藝春秋の村井弦氏。

撮影:横山耕太郎

一方、文藝春秋側の提携の狙いは、デジタル化に対応した人材育成だ。

約1年前に、文藝春秋のデジタル定期購読サービス「文藝春秋digital」は、開始から順調に成果を積み上げてきた。

「文藝春秋の記事は平均すると8000字くらいで、長いものでは1万字を超える長い記事もある。始めた頃は『こんなに長い記事が読まれるのか』という社内の声もありました。ただ、コンテンツの内容には私と同世代にも楽しんでもらえる自信がありました」

デジタル版の運営を一手に任された編集者で、文藝春秋編集部文藝春秋digitalプロジェクトマネージャー、村井弦氏(32)はそう話す。

note上で有料講読できる記事と、紙の文藝春秋に掲載される記事は同じ原稿だ。だが、note上で読める記事では、タイトルや小見出しを変更。文頭にサマリーと目次をつけたり、紙では掲載されていない写真を加えたりと、noteでも読みやすくなるように調整した。

「例えば紙の文藝春秋に掲載されている健康に関する記事は、若者というよりも高齢の読者を想定して書かれている記事です。それを若者にも読んでもらうためには工夫が必要。なのでデジタルの記事は若者っぽいタイトルに変えていました。つまり若い読者の代表として、僕がパッケージを付け替える作業を続けたわけです」(村井氏)

デジタル版は30代40代がボリュームゾーンに

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紙の文芸春秋は読者の高齢化が課題だった。

撮影:今村拓馬

これまで紙だけで勝負してきた文藝春秋が、2019年からデジタル定期購読サービスを始めた理由の一つが、読者の高齢化への危機感だった。

1997年の読者の年齢は、40代以下が半数近くを占めていたが、2019年には60代以上が7割超を占め、40代以下は12%に激減。また最盛期には70万〜80万部を超えた文藝春秋の発行部数は、2020年7月から9月の月平均で約38万部と落ち込んでいる。

一方、若い読者を獲得するために始まったデジタル定期講読サービスは、狙い通りの結果をもたらしつつある。

デジタル定期購読サービス契約者の年齢層は、最も多い年代が「35歳から44歳」で25%、次に「25歳から34歳」が2割と続く。紙の読者に比べて圧倒的に若い。

「文藝春秋digitalの読者は30代、40代がボリュームゾーンで、紙とは全く逆の傾向です。高齢読者中心の『文藝春秋』はデジタルでは勝負できないと言われましたが、『そんなことはない』と証明できた1年だったと思います」(村井氏)

料金体系も変えた。当初は定額900円のプランのほか、1本300円で記事単位での販売もしていたが2020年秋には定額プランに一本化した。

文芸部門にも広がったデジタル化

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文藝春秋社専務取締役の飯窪成幸氏。

撮影:横山耕太郎

noteを使ったデジタル定期購読サービスの成長をきっかけに、小説などを担当している文芸部門でもnoteを活用した取り組みが広がったという。

村上春樹さんの著書『猫を棄てる』を、2020年4月に刊行した時には、note上で感想文コンテストを初めて実施。約250の感想文が集まった。

前出の飯窪・専務取締役はこう語る。

「これまで本を売る場合は新聞広告が効果的でしたが、若い世代には届きにくくなっています。文学作品をどうしたら若い読者に読んでもらえるのか、編集者は悩んでいました。そんなタイミングで新しくnoteという世界を知ったことで、読者のコンテンツを使ったデジタル展開につながった。これまでとは全く違うアイデアが生まれてきている」

noteで話題になった書き手を、紙の文藝春秋で起用する事例も多く生まれた。

ダウン症の弟と車椅子生活者の母との日常をつづっている岸田奈美さんや、スープ作家としてレシピを公開している有賀薫さんらは、noteでの活躍をきっかけに文藝春秋での執筆につながった。


メディアプラットフォームサービスのユーザー基盤を拡大し続けているnoteと、100年以上の歴史を持つ日本の出版界のレガシーである文藝春秋。

両者は、デジタル化には遅れを取りつつも老舗メディアとして培ってきたノウハウや編集者の育成能力をもつ文藝春秋と、デジタルで勢いに乗りながらも経験値のまだ少ない若い企業であるnoteという補完関係にある。

異なる持ち味の両社が提携を深めることで、シナジーを生み出し、閉塞感漂う出版メディア界に新たな風を起こせるか。今回の取り組みは、メディアがどう生き残っていくのかについての一つの試金石となりそうだ。

(文・横山耕太郎

※編集部より:cakesをめぐる炎上問題に関して、noteからのお詫びの言葉を追記しました。2020年12月10日14:05

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