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UQ・ワイモバの“手数料の無料化”は総務省の「MVNOいじめ」。寡占市場へ逆戻りするのではないか

サブブランド

KDDI、ソフトバンクはそれぞれのサブブランドとメインブランド間での移行時にかかる手数料などを撤廃する。

撮影:小林優多郎

12月9日、ソフトバンクとKDDIはメインブランド(ソフトバンク、au)とサブブランド(ワイモバイル、UQ mobile)間の移行に際する「手数料の無料化」を明らかにした。

両社は政府からの「値下げせよ」というプレッシャーに対して、サブブランドである「ワイモバイル」と「UQ mobile」で20GBプランを発表していた。

政府からは「世界的に見て、20GBプランが日本は高すぎる」という指摘だったため、両社は「だったら、サブブランドで安価な20GBプランを用意しましょう」というスタンスで、要請を巧みにかわそうとしていた。

武田良太総務大臣

武田良太総務大臣。

出典:総務省

しかし、武田良太総務大臣は「同じ会社でありながら、メインブランドからサブブランドへの移行に1万5500円もとるなんてけしからん。メインブランドの値下げをしないのが大問題。誠意を見せて、改める努力を」と大激怒。逆鱗に触れてしまった。

武田総務相は12月9日、公正取引委員会ならびに消費者庁担当である内閣府特命担当大臣とともに「携帯電話料金の低廉化に向けた二大臣会合」を開催。

その中で「ブランド間の乗り換えを円滑にすること」を検討課題に挙げた。つまり、ソフトバンクとKDDIが狙い撃ちにされたわけだ。

後手に回っている印象のKDDI

KDDI 発表

KDDIは手数料撤廃を発表した同日、Amazonプライム付きのプランを発表していた(スライドの金額は各種割引適用後のもので、本来の価格は月額1万285円税込)。

出典:KDDI

その空気を読み取ったのか、11月9日夕方にソフトバンクとKDDIが相次いでブランド間の移行に際する「手数料を無料化する」プレスリリースを配布した。

この配布タイミングが問題だ。

KDDIは9日午前にAmazon プライムを使い放題プランに組み込む新料金プランを発表するイベントを開催したばかり。その際は「手数料の撤廃を検討する」という発言に留まっていた。もし、すでに撤廃を決定していたのであれば、発表会の場で明らかにするのが自然な流れのはずだ。

夕方にソフトバンクが発表したのをみて、慌てて追随した構図で、後手に回っている印象は否めない。自ら率先して無料化を発表すれば良かったが、武田総務相の怒りを買う前に仕方なく対応するという、あまりに消極的な態度が見えるのはいただけない。

KDDI リリース

KDDIによるリリース。手数料撤廃だけではなく、段階的に手続きも簡素化する。

出典:KDDI

ソフトバンクとKDDIは、ブランド間の手数料を無料化しただけでない。KDDIでは2021年夏以降、auからUQモバイルに移行する際、ブランド変更というよりもプラン変更近い、簡便な手続きで切り替えられるよう、システムの改修も予定している。

つまり、2021年夏以降は、もはやUQモバイルは「ブランド」ではなくUQモバイル「プラン」という位置づけになる、ということだろう。

ユーザーにとってみれば、「使い放題プランが充実するau」か「手頃なデータ容量が選べるUQモバイル」を自由に乗り換えられるようになるというわけだ。

結局はキャリア内での“囲い込み”になる

スマホを持つ人

撮影:今村拓馬

しかし、これは通信業界にとっては大きなリスクの顕在化ではないか。

ユーザーとすれば、NTTドコモから月額2980円の「ahamo(アハモ)」、auからUQモバイル、ソフトバンクからワイモバイルに気軽に乗り換えられるということは、とても便利なことではある。一方で、キャリアにとってみればユーザーをがっちり囲い込めるということを意味する。

これまではメインブランドとサブブランドの間に「手数料」という大きな壁があったため、サブブランドに移行してくれる可能性もあれば、他の格安スマホであるMVNOに流出する懸念もあった。

しかし、サブブランドへの移行に関しての大きな壁がなくなるにも関わらず、他の格安スマホであるMVNOに移行するには契約解除料やMNP手数料のなどの壁が残り続ける。

ユーザーの立場とすれば、安い料金プランに切り替える際、できれば壁はない方がいい。つまり、格安スマホを選ぶことなく、サブブランドに移行するユーザーが大半になるのではないか、という懸念が出てくるのだ。

「総務省によるMVNOイジメ」

総務省

撮影:今村拓馬

実は総務省ではこれまで、ユーザーがメインブランドから他社に移行しようとMNPの手続きを電話でする際、「特別にポイントを付与しますよ」とか「サブブランドがありますよ」との勧誘を問題視し、引き留め行為を禁止させるように準備していた。

しかし、メインからサブブランドへのMNP手数料が不要になるなど、もはやブランドではなく料金プランになってしまう。結果的に、こうした引き留め行為の禁止も意味がなくなってしまうことだろう。もはや、キャリアはユーザーを「サブ料金プラン」に引き留めし放題になるわけだ。

キャリア関係者は「総務省によるMVNOイジメですね」と素っ気ない。

キャリアとすれば、総務大臣のお墨付きでユーザーをがっちりと囲い込めることができるものの、MVNOやキャリアからユーザーを奪う立場の楽天モバイルにとってみれば、武田総務相のスタンスは死活問題だ。

長期的には「寡占市場へ逆戻り」にならないか

格安SIM・格安スマホ売り場

格安SIM・格安スマホの売り場。

撮影:小林優多郎

これまで10年以上にわたって、総務省は「MVNOや新規参入事業者を育てることで、3キャリアと公平で自由な競争環境にすることで、料金競争につなげていく」という理念を持っていた。

SIMロック解除や2年縛りの見直し、端末と通信サービスの完全分離などの競争政策を実現してきたのだ。

しかし、菅義偉総理や武田総務相の頭ごなしの料金値下げプレッシャーにより、そうした競争政策など関係なしとでも言うかのように、ahamoの月額2980円が実現してしまった

ユーザーとすれば、メインからサブブランドの移行が無料になれば、通信料金の負担感が軽減されることは間違いない。

短期的には国民にとって喜ばしいことだが、MVNOや楽天モバイルが市場から撤退すれば、3キャリアだけの寡占市場に戻りかねない。

次の総理が誕生するころに、寡占市場で通信料金がジワジワと値上げするようなことにならなければ良いのだが……。

(文・石川温


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。

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