撮影:鈴木愛子
幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
この連載で繰り返しお伝えしてきたとおり、変化のスピードが加速しているこの時代に強いキャリアを築いていくためには「変化対応力」が欠かせません。
1つの仕事だけをずっと続けていくのは、リスクが高い。複数の経験・スキルを得て、それを掛け合わせることで、将来のキャリアの選択肢が広がります。そこで、社内異動・新規プロジェクトへの挙手・副業・社外活動・転職など、さまざまな手段で「新たな経験」を積んでいくことをお勧めしています。
その行動を起こしていくための原動力となるのが「好奇心」です。
教育心理学者であるクランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」というキャリア理論をご存知ですか?
成功したビジネスパーソンを調査したところ、彼らのキャリアの8割は「予想しない偶然の出来事」から形成されていたそうです。つまり、「これをやりたい」という夢や目標に固執するよりも、目の前に偶然訪れた機会に積極的に取り組むほうが、よいキャリアを築ける、と指摘しているんですね。
そして、計画的偶発性理論では、成功するキャリアを築くために、偶発の出来事が起こるのを待つのではなく、自ら引き起こすべく行動することがポイントとなります。 具体的には、以下の5つの行動特性を持つ人にチャンスが訪れやすいと考えられています。
計画的偶発性を起こす行動特性
- 好奇心:新しいことに興味を持ち続ける
- 持続性:あきらめずに努力を続ける
- 楽観性:ポジティブに考える
- 柔軟性:こだわりすぎずに柔軟に対応する
- 冒険心:思いきって挑戦する
やはり「好奇心」が大切な要素のひとつなのです。
中村天風さんという哲学者は、人間には「潜勢力(せんせいりょく)」があると語っています。……それは人が内側に持っている可能性であり、「成長したい」「よりよく生きたい」というマインドやそれを実行するための能力などです。誰もが生まれつき標準装備しているけれど、使わなければどんどん退化していってしまいます。
潜勢力を効果的に発揮するためにも、好奇心を持って新しいチャレンジをすることが大切です。
しかし年齢を重ねるにつれて、好奇心が薄れていってしまう人も多いようですね。
今は「人生100年」と言われる時代。先はまだまだ長い。しかも、時代はすごいスピードで変化していくのですから、ぜひ新しいことをキャッチアップしていく好奇心を持つことをお勧めします。そのほうが、将来のキャリアの可能性が格段に広がるはずですから。
お誘いや紹介を断らない。先入観を持たずに会ってみる
私はよく「森本さんは好奇心旺盛ですよね。なぜ好奇心を持続できるんですか?」と聞かれます。その問いに一言で答えるなら、「好奇心を持つことで快感を得た経験がたくさんあるから」です。
私も最初は「好奇心を持とう」と意識するところからスタートしました。社会人になって2~3年目の頃です。
「転職エージェント」という職業柄、エグゼクティブクラスやプロフェッショナルなビジネスパーソンと多くお会いする機会がありました。肩書や名声だけでなく、話をしていてとても楽しくワクワクする魅力的な方々の共通点が、「常に新しいチャレンジをしている」ことだったのです。自分も彼らのようになりたい、彼らを真似してみよう、と思いました。
私が特に尊敬していたある社長は、仕事とは関係なく、私から「こんな人がいるからおつなぎしたい」「私の友人に会ってみてほしい」と提案すると、快く応じてくださいました。その時、「どんな人なの?」と一切聞かないのです。私とその社長は根本的な価値観が共通していたので、私が紹介する人なら会ってみよう、と思っていただいたようです。
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その方の影響もあって、私は「紹介したい」と言われた人に会うことや、会食などへのお誘いを断ることはほとんどありません。基本、スケジュールが合うものはすべてお受けします(スケジュールが合わなければ「もともとご縁がなかった」と思います)。そして、お会いする相手のプロフィールを事前に、徹底してくまなく調べておくことはしません。先入観を持たず、出会った時の直感を大切に、関係構築をしたいからです。
その結果、「お会いしてよかった!」「参加してよかった!」ということが多いのです。
ビジネスに活きることもあるし、誰かの「ありがとう」につながることも。好奇心は、本当にたくさんの価値をもたらしてくれます。
人だけでなく、「事」に対してもそうです。仕事でもプライベートでも、新しい体験をするチャンスがあれば、とりあえず乗っかります。
やってみると「これ、面白い!」「こんな世界があったんだ」と、視界が広がり、見える景色の彩りが変わります。そんな快感を何度も経験してきたので、また快感を得たくて、新たなお誘いに乗るのです。
苦手意識を持っていることでも、好奇心を持ってやってみると、意外に「できる」「向いている」「楽しい」を発見できることもあります。
例えば、私は以前、陶芸に誘われた時、最初「私には合わないな」と思いました。アクティブな活動が好きなので、じっと座って何かに集中する作業に苦手意識を持っていたからです。
けれど、実際にチャレンジしてみると、「無」になる時間を持つことはこんなに心地いいものか、と意外な発見となりました。やはり、やってみないと分からないものですね。
好奇心を阻害する「失敗への恐れ」を取り除く
好奇心を持ち続けるためには、失敗を恐れる気持ちを取り除くことも大切です。
新しいことをやろうとする時、「うまくいくかどうか分からない」「恥をかくかもしれない」「時間がムダになるかもしれない」なんて思っても意味のないことです。なぜならやってみないと分からないからです。
特に女性には「インポスター症候群」と呼ばれる、自分を過小評価してしまう心理傾向があるようです。できる力があるのに自信が持てず、一歩を踏み出せない。とてももったいないですね。
私が好奇心に従って新しいことにチャレンジしていけるのは、周囲の評価を気にしていないから。
「うまくできなくてもいいじゃん。自分はこれが得意ではないんだということが分かっただけでも進歩だから、失敗ではないよね」——そんなふうに考えます。
むしろ、うまくいかなかったことからのほうが、多くを学べることもあります。次にうまくやるための第一歩だと捉えています。
それに、「うまくいかなかった」と思っているのは自分だけで、意外と周囲からは評判がよかった、なんてこともあるものです。
だから、慎重になりすぎずに、まずは飛びついてみましょう。
最後に、私が幼い頃に祖母から言われた言葉をメッセージとして送ります。
「やらないで後悔するくらいなら、やった経験そのものが大事」
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第42回は、1月4日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。