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中国汽車工業協会常務副会長兼秘書長の付炳鋒氏は12月11日、2020年の中国での自動車販売台数が2500万台を超えるとの見通しを公表した。
2019年実績(2576万9000台)からの減少幅は2%減。数字そのものでみると3年連続の減少となるが、新型コロナの拡大で全土に外出規制が敷かれた2月が同79.1%減、まともに経済活動ができなかった1~3月が同42%減だったことを考えると、付氏の「年初の予想よりはかなりよい着地」という言葉に、業界の雰囲気が凝縮されている。
本連載でも再三にわたり中国の自動車業界の動きを取り上げてきた。今年、そしておそらく来年も、世界の自動車メーカーは中国依存にならざるを得ず、日本への影響も小さくないからだ。
中国汽車工業協会、全国乗用車市場信息聯席会(乗聯会、CPCA)は共に、2021年の中国での自動車販売が2020年を上回ると予測し、さらに中国汽車工業協会は2025年の販売台数が3000万台に達するとの見通しを示した。
日本の自動車販売台数が500万台強で頭打ちとなっているのに対し、中国は今後5年でさらに2割増えるという。そして伸びしろの大半は、エコカー(EV、PHVなど)を中心とした次世代自動車から生み出される。中国が生産・販売ともに世界のエコカーの中心地になりつつあることが、日本メーカーにも抜本的な変化を迫っている。
消費の二極化進めたコロナ禍
2020年1月7日、上海でモデル3の納車イベントに出席したテスラのイーロン・マスクCEO。
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「コロナ禍の中で、金持ちはさらに金持ちになり、貧乏人はさらに貧乏人になっている。二極化が加速し、金持ち向けの市場と、低所得者層向けの市場だけが好調だ」
アジア企業に投資する日本VCの中国人幹部は、コロナ禍で一人勝ちの様相を見せる中国の内情をこう説明した。
自動車の売れ行きからもその一端が垣間見える。乗聯会によると2020年11月、高級車販売は前年同期比27%伸びた。一方で「自主ブランド」「民族系」と呼ばれる独自ブランドを展開する中国メーカーの販売台数は9%増。ガソリン車の伸びは前年同期から横ばいで、エコカーの販売が倍増した。各メーカーの販売実績を見ても、トヨタやホンダといった日本メーカー、そしてテスラと中国新興EVメーカーの好調が際立っている。
中国の自動車販売は2007年の879万台から2017年には2887万9000台と10年間で猛烈に成長したが、同年をピークに2018年、2019年と2年続けて減少した。その最大の原因は、「EVの補助金縮小」だ。中国政府が環境対策のためにEVに多額の補助金を投じた結果、補助金搾取目的の粗悪なEVが大量生産・購入された。補助金が市場の健全性を歪め、政府が2018年以降に軌道修正した途端、虚構の数字が剥がれ落ちたのだ。
自動車市場が急激に成長した2010年代は、中国でITを起点とした新産業が次々に生まれ、中高所得者、富裕層の消費行動が成熟に向かった時期でもあった。消費者の選別が進むにつれ、2010年後半以降は一時シェアが50%を超えていた低価格自主ブランドメーカーの不振が目立つようになり、全体の販売台数が減る中でも、ブランド力のある欧米、日本メーカーは堅調だった。
そしてテスラがモデル3の現地生産を始めるなど、緩やかに、とはいえ日本よりは急ピッチで市場の構造が変化していた2019年から2020年、コロナ禍が淘汰を加速させた。中国政府がエコカーへの補助金打ち切りを一旦棚上げし、経済対策の柱に据えたことが、テスラだけでなく、テスラを目指して高品質のEVをつくろうとしていた中国の新興企業にとっても追い風となった。
欧州、日本のEVシフトも意識
2020年の高級乗用車の販売台数の前年比推移。第1四半期の落ち込みをその後取り戻している。
中国汽車工業協会
乗聯会によると、2020年11月のエコカー(乗用車)販売台数は16.9万台。乗用車販売全体に占める割合は8%にとどまるが、伸び幅は136.5%だった。中国では多目的スポーツ車SUVの人気が高く、テスラは11月29日、上海工場で生産するSUV「モデルY」の中国での販売認可を取得した。フォルクスワーゲンは12月8日、安徽省合肥市でEV工場の着工式を行った。2023年に生産を始め、2025年に150万台生産体制を目指す。
2021年もこうしたEV関連の投資と新車投入が続き、消費者の認知向上・販売に貢献するだろう。
また、乘聯会は2020年1ー10月に世界で販売されたエコカーのうち、中国での販売分が40%を占めると公表した。一方で、「10月単月の世界に占めるシェアは44%だが、2019年を下回っている。欧州の方が伸びが顕著だからだ」ともコメントした。12月に発表したレポートでは、日本が2030年にガソリン車の新車販売ゼロにする政策を検討していることも紹介し、世界各国がエコカー普及に政策転換していくとの予測も示した。
中国汽車工業協会の付氏は、2021年から2025年までの第14次五か年計画期間に「(自動車業界の)シフト、アップデート、そして難局を乗り越える。電動化、スマート化を進めて国際競争力を高めながら発展する」と目標を語った。中国では自動車本体だけでなく、燃料電池の開発やEV充電設備の設置も急進展しており、製造、さらには開発の中心地になろうという野心が見える。
2021年の鍵は「価格」
50万円を切る格安EV「宏光MINI EV」も大ヒットした。
上海通用五菱汽車公式サイト
中国の2020年の自動車市場は、絵に描いたようなV字回復を実現した。その間に市場を盛り上げる新たなプレイヤーも得て、2021年はプラス成長となるというのが、自動車工業協会、乗聯会の共通見解だ。
特に2021年前半は、前年同期(2020年前半)がコロナ禍で大きく落ち込んだことから、反動増で二桁増となることが確実視されている。一方で乗聯会は「不確定要素が多く、そこまでは楽観視できない。2021年全体だと伸び幅は一桁になりそうだ」と見て、成長を左右するいくつかのポイントを挙げた。
まず、新型コロナの経済対策だったエコカー補助金や減税が2020年で終了する点だ。12月には政策打ち切りを見越した駆け込み需要も発生している。メーカーは強気の姿勢を保っているが、販売店からは在庫圧力を訴える声も出ている。
次に、価格の問題だ。中国経済はコロナ禍で一人勝ちしているとは言え、決して無傷というわけではない。冒頭にも述べたように、低所得者の生活は苦しくなっている。
にもかかわらず不動産価格はむしろ上昇しており、乗聯会は「中低所得者は家を買うのに精一杯で、車までお金が回らない。低価格車種を生産する自主ブランドメーカーには逆風となるだろう。感染を抑止するため車での外出を選択する人が都市部で増えたため、高所得者層の買い替え需要も2020年にかなり消化されている」と指摘した。
乗聯会はEVの中でも伸びしろが大きいのは高級車と格安車だと分析する。高級・先端のイメージを維持しながら、高級ガソリン車並みに値段を抑えたテスラのモデル3は、2020年の成功の象徴となった。また、現地の上汽通用五菱汽車が2020年7月末に発売した電気自動車「宏光MINI EV」は、最安モデルが2万8800元と日本円にして50万円を切る価格で、こちらも大ヒットしている。
「ブランド力を保ちながらガソリン車に近い価格のEVを出す」ことが、自動車メーカーにとって中国市場での非常に重要な競争力となっている。言い換えれば、EVが既に普及ステージに入っているということだろう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。