12月9日、米テキサス州ボカチカの発射台から打ち上げられた、スペースXが開発中の巨大宇宙船「スターシップ」のプロトタイプ(無人実験用、8号機)。
SpaceX
- 2020年8月の資金調達ラウンドで19億ドルを集めたばかりのスペースXが、新たな資金調達の準備に動いている。関係者2人が証言した。
- 実現すれば、スペースXの評価額は460億ドルから920億ドルへと倍増を果たすことになるという。2021年1月中旬から下旬にかけてのクロージングが想定される。
- 同関係者は「たった半年で評価額が倍増するなんて考えられない」と驚きを隠さない。
- モルガン・スタンレー・リサーチの証券アナリストによると、スペースXが衛星インターネットサービス「スターリンク」と巨大宇宙船「スターシップ」の商用化に成功すれば、スペースXの評価額は2000億ドルに達するという。
イーロン・マスク率いる宇宙開発企業スペースXが、4カ月前の2020年8月に19億ドル(約2000億円)を調達したばかりにもかかわらず、またも新たな資金調達ラウンドの準備を進めている模様だ。関係者2人が証言した。
次のラウンドは2021年中旬から下旬にかけてクロージングの計画で、実現すればスペースXの評価額は現在の460億ドル(約4兆8300億円)から倍増の920億ドル(約9兆6600億円)に跳ね上がるという。
ただし、投資家との交渉はまだ初期段階で、正確な調達額はまだ決まっていない。最終決定と引受先の確定にはまだ数週間かかるとみられる。交渉の結果、スペースX側が希望する評価額まで達しない可能性も残されている。
「正直言って、非常に驚いた。たった半年で評価額が倍になる企業なんてあるだろうか?このくらいの規模になると何が何だか分からないが、とにかくとんでもないことだ。これまで1回の資金調達ラウンドあたりの(評価額)成長率はせいぜい10〜20%だったわけだから」
米カリフォルニア州ホーソーンに本拠を置くスペースXにとって、2020年は資金面で恵まれた年と言えるだろう。
上述のように、8月の資金調達では19億ドルを調達して評価額が460億ドルに達した。その直前の5月にも5億6000万ドル(約590億円)を調達し、評価額はその時点で355億ドル(約3兆7000億円)を超えている。
調査会社ピッチブックのデータによると、2002年の設立からの資金調達額は累計58億7000万ドル(約6200億円)におよぶ。
スペースXに出資している企業は、グーグル、ピーター・ティール率いるベンチャーキャピタルのファウンダーズファンド、同じくベンチャーキャピタルのドレイパー・フィッシャー・ジャーベットソン、投資信託大手のフィディリティ、資産運用大手のベイリーギフォード、プライベートエクイティ投資大手のバーラー・エクイティ・パートナーズ。
新たに調達する資金は主に研究開発費用に充てるとみられる。前出の関係者によれば、とくに重点的に資金配分されるのは、衛星インターネットサービス「スターリンク」と、再利用可能な巨大宇宙船「スターシップ」になるという。
モルガン・スタンレー・リサーチは2020年10月、スペースXがスターリンクとスターシップの商用化に成功すれば、評価額は2000億ドル(約21兆円)に跳ね上がるとレポートで指摘している。
接続インフラがまだまだ高すぎる
屋上に設置された衛星インターネットサービス「スターリンク」の受信用アンテナ。
Ashish Sharma/SpaceX
ただし、スターリンクとスターシップ、いずれもコストとリスクは甚大だ。
スターリンクについては、サービスを利用するためユーザー側で購入する必要があるユーザーターミナルと受信用パラボラアンテナが高価になってしまうことについて、イーロン・マスクはこれまでもくり返し不満を漏らしている。
ベータ版サービスで、スペースXはユーザーターミナルを含むキットを500ドルで提供、別途サービス利用料を月額100ドルと設定。市場価値として適切な価格だとしている。
しかし、製造コストや委託契約に詳しい専門家がBusiness Insiderに語ったところによると、ユーザーターミナル1台あたりの製造コストは2400ドルにのぼるとみられ、したがってスペースXは1台あたり1900ドルから2000ドルを(自己負担で)飲み込んでいることになる。
それに加え、小型通信衛星スターリンクの製造コストと、衛星群を宇宙空間に運ぶ(再利用可能な)「ファルコン9」ロケットの発射コストも同社が負担する必要がある。
スペースXのグウィン・ショットウェル社長兼最高経営責任者(CEO)は2018年の時点で、米連邦通信委員会(FCC)から許可を得た第1期全4400基の衛星を完成させ、打ち上げるのに100億ドル(約1兆500億円)かかると試算している。
「破産しないよう集中してやっている」(イーロン・マスク)
とはいえ、アナリストたちの見方は楽観的だ。現段階で衛星インターネットサービスの市場はまったく存在していないにもかかわらず、スペースXは300万人の契約者を獲得し、数年で黒字を出し始めるという。
資金調達の心配は今後も「心配ない」
12月9日の着陸時に爆発したプロトタイプ8号機。次世代宇宙船の実現までは、技術開発に加え、当局の規制などハードルが待っている。
Gene Blevins/Reuters
一方、巨大宇宙船スターシップのほうはまだ地球の周回軌道にも届かない飛行試験の段階だ。しかも周回軌道投入テストの前に、米連邦航空局(FAA)の厳しい規制をクリアする必要がある。
その認可プロセスの進捗次第で、スペースXは周回軌道投入を数カ月から数年遅らせる必要が出てくる。後者は、ものすごいスピードで物事が動くマスクの世界では、ほとんど永遠とも言える時間だろう。
いずれにしても、スターリンクとスターシップ、両方のプロジェクトを予定通り進めていくには、深刻な失敗をしないことはもちろん、毎年数十億ドルの資金調達を安定的に続ける必要がある。
それでも、前出の関係者のひとりは、過去18年の実績からみて資金調達に大きな問題が生じるとは思えないと太鼓判を押す。
「実績のあるレイトステージの企業に集中投資するベンチャーキャピタルや資産運用会社からは、ものすごい金額の引き合いがあるから何の心配もない」
(翻訳・編集:川村力)