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世界的なコロナウイルスの蔓延により、注目を集めているのが室内の換気と空気の質だ。これまでは空気の質を保つためには空気清浄機を回すか、窓を開けたり、換気扇を動かしたりする程度だったのではないだろうか。しかし今、それが大きく変わっている。
技術を活用することで、室内空間の快適さは、室内エンターテインメントは、どう変わるのか。2020年11月、パナソニックのデモルームで最新技術を体験してきた。
現代人は一生のうち9割を室内で過ごす
人は1日18kgの空気を取り込んでおり、これは水や食料よりずっと多い。
提供:Panasonic
人は1日18kgの空気を取り込んでおり、これは水の1.2kg、食料の1.3kgよりも圧倒的に多い。さらに生活空間に目を向けてみると、一生で過ごす場所は、住宅内が6割、オフィスなど非住宅が3割で、トータルすると約9割の時間を屋内で過ごしている。人が快適で長く健やかに過ごせる社会を目指すためには、室内空間の空気質を向上させることが重要なのだ。
パナソニックグループの中で「空気の質」というテーマに長く取り組んでいるのがパナソニック エコシステムズだ。1913年に交流式扇風機を日本で初めて量産して以来、100年以上空気の質の向上に注力してきた。現在、同社が事業の柱の一つにおいているのが、IAQ(Indoor Air Quality:室内空気質)事業だ。換気扇、熱交換型換気ユニット、空気清浄機、空間除菌脱臭機などを住宅、非住宅(オフィス、ホテル、病院や幼稚園など)向けにさまざまな機器とシステムを展開している。
この室内空気質を決めるのが空質4要素(温度・湿度・清浄度・気流)と感性3要素(除菌・脱臭・香り)だ。パナソニックではこれらの7つの要素を組み合わせることで、健康維持、ウイルス対策、また快適な労働環境につながる室内空間の提供を目指している。
空気質をコントロールした快適な空間を体験
「Air Hospitality」のデモルーム。天井に配置された面気流ユニットから加湿、除菌された風が降り注ぐ。
提供:Panasonic
パナソニックは2020年11 月、空質コントロールに関する体験会を開催した。2019年に同社は、室内のオープン空間での局所的な空質コントロールを体験できる場として「Reboot Space I」を愛知県春日井市に開設。今回は新たに小さな閉空間を対象にした「Reboot Space II」を発表した。
「Air Hospitality」のデモルームはホテルの一室を想定。天井には「面気流ユニット」が配置されており、縦に並ぶ木材一本一本の隙間から吹き出す誘引気流により、適度に保湿された空気が天井から広く降り注ぐ仕組み。一般的なエアコンの吹き出しとは異なり、より自然な風が感じられる。この風は温度、湿度が調整できるだけでなく、後述の次亜塩素酸により空間を除菌することもできる。
さらに操作パネルで、きめ細かく吹き出す風の温度や湿度、位置を調整することもできるため、暑がりと寒がりの夫婦が同じ部屋でも快適に過ごすことができる。
この仕組みは会社の会議室などにも導入できる。温度と湿度、換気の量、さらには香りなども細かく設定でき、会議の内容や参加者に応じて、リラックス、集中力を高めるなど、目的に応じて自由に調整できるというわけだ。
室内でロードバイクを漕ぐと潮風が
「Reboot Space II」の用途は、オフィスやホテル、住宅の空質を快適に保つだけではない。もう一つのユニークな使い途が、VRと組み合わせた「Air Creation」。室内のエンターテインメントを変えるソリューションだ。今回デモとして用意されていたのは小さな部屋に設置されたエアロバイクと大画面ディスプレイ。この技術を使うことで、一体何ができるのか?
「Air Creation」のデモルームで、室内に設置されたロードバイクに乗ってみた。ペダルを漕ぐと、それに合わせて映像が流れ、さらには室内の空気や風、照明が瞬間で変化していく。
提供:Panasonic
室内に設置されたロードバイクに乗ってペダルを回し始めると、ディスプレイには海辺の道が映し出される。そのまま自転車を漕いでいくと、前方から潮の香りを含んだ海風が吹き始め、海辺を走っているような感覚を体で感じることができた。さらに坂を登り(ペダルも重くなる)、トンネルに入ると室内が暗転。瞬間的に風が冷たくなり、トンネルの中にいることを感じさせてくれる。
これは、コロナ禍における家庭内エンターテインメントの一例としての提案だ。閉空間の空質を瞬間的に切り替えられるシステムとしてパッケージ化されており、エアロバイク以外にもe-Sportsやヨガ、個別指導の学習塾などさまざまなシーンで応用可能だという。
「10年間メンテナンス不要」の調湿ユニットで中国市場へ
熱交換気ユニットに調湿ユニットを連携することで統合コントロールできるようになる。
提供:Panasonic
快適な空質空間を作り出すためのカギとなるのが、湿度の調整機能。パナソニックは「調湿ユニット」を組み込んだ新しい空質システムを現在開発中。従来の空調システムに調湿ユニットを加えることで、湿度のコントロールが可能となるシステムを開発している。これによって温度と湿度を統合リモコンでまとめてコントロールできるようになる。
そこで採用したのがパナソニック独自の「遠心水破砕加湿技術」だ。
遠心水破砕加湿のためのドラムユニット。
提供:Panasonic
これは高速回転する樹脂製のドラムユニットが、水を汲み上げると同時に水滴を壁にぶつけることで水を微細化させて加湿する仕組み。ドラムユニットの回転数で細やかに加湿量がコントロールできるのが特徴だ。実際にデモの様子を見ると、稼働して数分でテスト空間の湿度を約20%上げることができた。気化式加湿フィルターを使わないため清掃が不要で、10年間のメンテナンスフリーが特長である。
この調湿ユニットを組み込んだ新しい空質システムは2021年4月より中国の住宅市場にて販売を開始する予定だ。
新たなニーズ「換気」「除菌」にどう応えるか
3種類のフィルターを内蔵した床置形熱交換気システム。換気と温度湿度のコントロールができる。
提供:Panasonic
ビルや住宅の課題は、省エネや環境配慮、快適な温熱環境などにとどまらなくなっている。加えて、新たなニーズとして換気や除菌の仕組みも求められるようになってきた。
パナソニックでは適切に換気を行うために、施設や環境に合わせられるさまざまな熱交換気システムを用意。住宅用はもちろんのこと、非住宅向けには吊下型だけでなく、床置形熱交換気システムを発表した。この床置形なら大掛かりな工事が不要で、既存の店舗・施設にも手軽に導入できるとしている。
さらに「次亜塩素酸」で除菌を行う空間除菌脱臭機「ジアイーノ」も取り揃え、現在は機器として、9畳用から56畳用まで幅広くラインナップしている。今後、調湿ユニットと次亜塩素酸生成ユニットを融合させて設備・システム化していく予定だ。
パナソニックはこれらのIAQソリューションを日本国内の住宅及び非住宅分野において展開していくとともに、中国市場で新しい空質システムの販売をスタートする。また、空間除菌脱臭機ジアイーノは中国・アジア、そして北米など、グローバルでの展開を目指していくという。
空気の質と安全・安心が求められるこれからの時代に何を提供するのか。快適さを求める消費者のニーズにしっかりと応えながら、VR技術と組み合わせたユニークなサービスにも着手しているパナソニック エコシステムズ。時代と状況の変化、そして国内外のマーケットに対応した新しいサービスの展開が楽しみだ。