- Shopifyは近年目覚ましい成長を遂げている。アマゾンとShopifyは直接の競合ではないが、オンライン販売を行いたい事業者を巡って実質的に競合関係にある。
- アマゾン幹部はShopifyに対抗する新サービスの立ち上げを検討しており、この話し合いにはジェフ・ベゾスCEO自身も加わっている。
- だが、アマゾン幹部は「守り」に入っている、と情報筋は言う。
- アマゾンは以前、Amazon Webstoreという名の類似サービスを運営していたが、2015年に廃止した経緯がある。
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Shopify(ショッピファイ)は、ECサイトの構築に必要なソフトウェアツールを提供する急成長中のプラットフォームだ。
商品をオンライン販売しようと考える小規模事業者の間でアマゾンに代わるものとして人気が高まっており、過去1年で株価はほぼ3倍、現在の時価総額は1300億ドル(約13兆円)にのぼる。
アマゾン幹部の間では、ますます脅威を増すShopifyの影響を懸念してにわかに動きが見られる。Shopifyに対抗するサービスの立ち上げまで検討された模様であることがBusiness Insiderの取材で分かった。
この数カ月の間にアマゾン社内で行われた話し合いには、CEOのジェフ・ベゾスも直接関わったようだ。
2020年にベゾスが即断即決しなくてはならなかった事柄は多かったが、これもその一つと言える。コロナ禍が発生して以降、ベゾスは以前にも増して日常業務にも目配りするようになっている。
Shopifyを公式に「競合」認定
アマゾンのジェフ・ベゾスCEO。
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にわかに持ち上がったアマゾンでの話し合いは、Shopifyに対抗するための「防衛的」なものだ、とあるアマゾン幹部は言う。
話し合いがどの程度進んだのか、新サービスが具体的にどのようなものになるかは明らかになっていない。
だが、Amazon Web Serviceのクラウド部門の下で新サービスを立ち上げること、その事業責任者にはユンヤン・ワン(Yunyan Wang)を据えることを検討していた、とベゾスの直轄チームの一人は漏らす。ワンは、ワールドワイド・コンシューマー部門のジェフ・ウィルケCEOのテクニカルアドバイザーを務める人物だ。
アマゾンは2015年に、Shopifyと事実上競合していたWebstoreというサービスを終了しており、アマゾンにとっては一度失敗した市場への再挑戦となる。
アマゾン幹部の中には、ECプラットフォーム市場ではすでにShopifyに負けたようなものなのだから、わざわざ改めて競合サービスを立ち上げなくてもいいのではないか、と言う者さえいると、ある幹部は漏らす。
いずれにせよ、米下院反トラスト(独占禁止)小委員会へ宛てた7月付のレターの中で、ベゾスは初めて公式にShopifyを競合として言及しており、その脅威が高まっていると認識しているようだ。
アマゾンの広報担当者は、Shopifyについてコメントは控えるとした。Shopifyの担当者にもコメントを求めたが、回答はなかった。
間接的競合から直接的競合へ
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アマゾンとShopifyはどちらも広い意味でECをやっているが、必ずしも直接の競合という訳ではない。
アマゾンとは違って、Shopifyが直接消費者に販売している商品はないし、事業者が商品を販売できるマーケットプレイスを運営している訳でもない。
Shopifyが扱うのはさまざまなオンラインサービスだ。ウェブサイトを運営したり、オンライン決済を受けるために必要なテクノロジーが商材であったりする。
しかし2社は事実上、同じオンライン事業者を巡って争う関係にある。事業者が、アマゾンだけでなく、Shopifyのテクノロジーを使って運営する自社サイトでも販売活動を行うのはよくあることだ。
アマゾンにとって重要なのは、アマゾンのマーケットプレイス上で事業者に販売を継続してもらうこと。事業者がアマゾンのサイト上に商品を多数掲載してくれれば、より多くの顧客を引きつけられるからだ。
ところが最近、アマゾンの縄張りにShopifyが侵入しつつある兆候が見られる。
Shopifyは2019年、「Shopifyフルフィルメントネットワーク」という新サービスを立ち上げた。これはShopifyが商品の出荷を代行することで売り手の手間を省こうというもの。アマゾンが同年に530億ドルの収益を上げたサードパーティ向けの「フルフィルメントby Amazon」と直接張り合うサービスだ。
加えてここ何年か、Shopifyが自前のマーケットプレイスを立ち上げるのではないかという憶測もある。
Shopifyのトビアス・リュトケCEO。
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だがShopifyのトビアス・リュトケCEOは、アマゾンと競合することへの懸念をこれまで何度も否定してきた。
7月に電話会議形式で行われた決算発表時に問われたリュトケは、Shopifyはアマゾンと「直接競合してはいない」とし、アマゾンとのパートナーシップを次のように強調した。
「Shopifyは『すべての人のためにコマースをより良くする』という当社のミッションに注力しています。当社のコアビジネスは誰かと直接競合するものではなく、すべての人々がパートナーだと考えています」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・野田翔)