飲食業界大打撃の中での船出、それでもクチコミグルメサイトRettyが強気な理由

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インタビューに応じたRetty社長の武田和也氏。

撮影:今村拓馬

新型コロナの影響で、飲食店はかつてない大打撃を受け、2020年は倒産が相次いでいる。

東京商工リサ―チによると、負債1000万円以上で倒産する飲食業の企業は、2020年1月から11月の累計で前年比8%増加の792件。年間の倒産件数として過去最多だった2011年の800件を上回るのは確実とみられる。

そんなコロナ禍にありながら、飲食に関わる分野で10月に東証マザーズに上場を果たしたのがクチコミグルメサービス「Retty」だ。

飲食店の閉店に伴い、コロナ禍でRettyも収益が悪化。2020年9月期は3億2400万円の最終赤字だった。

しかし業績の見通しは強気だ。2021年通期では、最大2億円の営業利益を予想している。

クチコミグルメサービス業界の多くが苦境に立たされているなか、その強気はどこからきているのか?

背景にはサービスローンチから上場までの10年間で積み上げてきた、「質の高い実名クチコミ」と、それをもって築き上げてきた強いコミュニティーの自信がある。

「夏以降で人が戻ってくる可能性は十分」

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Rettyと有料契約している店舗の推移。コロナの影響を受け6月には減少。

出典:Retty2020年9月期通期決算説明資料

「忘年会シーズンですが、特にチェーンの居酒屋で行う大人数での宴会は激減し、飲食業界は非常に厳しい状況にあります。ただ、場所やお店のジャンルはシフトしつつも、外食する人は外食している。コロナ禍が10年続くなら別ですが、繁華街は今、厳しいものの、来年以降に人が戻ってくる可能性は十分ある」(武田和也社長)

創業から10年を経た2020年11月。実名クチコミサービスで、ユーザー4000万人、契約店舗数1万店を地道に築き上げてきたRettyの上場は、奇しくも新型コロナが直撃した年に実現。逆風の中での船出となった。

ただし15兆円の外食産業市場を前に、武田氏の見立ては冷静だ。

「ダメージを受けたり業態の変化だったりはあるが、15兆円が半分になるわけではない」

実際、足元の状況は、有料の契約店舗数を戻しつつあるという。

「たしかに4月、5月で閉店する飲食店が相次ぎました。そこで契約店舗数を10%程度減らしたものの、その後は急激に回復してきた

経営が厳しい中での有料サービスとはいえ、武田氏の論は明解だ。

「(Rettyの有料契約として)投資をした以上に収益がプラスになるのであれば、飲食店には契約してもらえる」

業界大打撃でも、なぜ強気か

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2020年10月に上場を果たしたRetty。コロナ禍での船出となった。

撮影:今村拓馬

11月に発表したRettyの2020年9月期決算によると、広告単価の低下や飲食店が加入する有料プランの契約数の減少で、通期の売上高は22億1500万円(前年比2.3%減)と減少。最終損益は3億2400万円の赤字(前年は1億5500万円の黒字)だった。

コロナ前までの業績は好調で、上半期(2019年9月から2020年2月)の営業利益1億1800万円が、すでに前期通年の営業利益を上回っていたことを考えると、コロナの影響をもろに受けた格好ではある。

しかし、それでもこの苦境を泳ぎ切る手応えを武田氏が持つ背景には「すべて実名のサービスが生んだ強いコミュニティビジネス」の実績があるからだ。

「グルメ情報に限らずメディアの信頼性が常に言われている中で、誰がおすすめしたかということが重要な世界観ができています。誰のクチコミかをわかりやすく表示することで、我々は信頼性を担保している。信頼性による新規の集客に加え、リピート顧客を増やしていけばお店の経営は安定する」

新規顧客とリピーター。その2軸の集客を実現する仕組み作りこそが、Rettyが10年かけて模索してきたことでもある。

「おすすめした店を『おいしい』と言ってもらえる」

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Rettyユーザーが集まる「オフ会」は、全国で開催されている(写真はイメージです)。

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とある水曜日、東京・麻布十番のイタリア料理店には4名のRettyユーザーが集まり、ワインとコース料理を楽しんでいた。

この店を選んだのは麻布十番エリアのトップユーザー・Ryoko Dateさん(※Rettyでは、ユーザー名に実名や実名のアルファベット表記を使うユーザーも多い)。

トップユーザーとは、 他のユーザーに数多く参考になっている口コミをしてくれたユーザーに対し、Rettyが認定するシステム 。「銀座」「丸の内」「札幌市」などエリアごとのトップユーザーのほか、料理「フレンチ」「四川料理」「ラーメン」のカテゴリーもトップユーザーを認定している。

「イタリアンが大好きでいろいろなお店に行っていますが、ここはシェフの経歴も味も申し分ない。この味を知ってもらいたくて、今日のオフ会はこのお店を選びました」

Ryokoさんはワイン片手にそう語った。

大企業で働く40代のRyokoさんは、2013年からRettyの利用を開始。これまでに1600件以上の口コミを投稿し、Rettyでのフォロワーが1万5000人を超える。

「昼は社食で食べますが、夜は平日5日は外食です。最初は食べたお店を忘れないように備忘録のためにRettyを始めたのですが、おすすめした店に行ってくれた人が『おいしい』と言ってくれるのが嬉しくて、ずっと続けています」

10年で4300万ユーザー。カギは「ポジティブな感情」

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Rettyには実名での投稿が並ぶ。

RettyのHPを編集部キャプチャ。

2011年のサービス開始以来、着実にユーザーを増やしてきたRetty。

2013年に100万人、2015年には1000万人を突破。2020年8月時点のユーザーは4393万人に拡大している。

食べログ(カカクコム)や、ぐるなび(株式会社ぐるなび)、ホットペッパー(リクルートライフスタイル)など、大手クチコミサイトとRettyの最大の違いは、クチコミが実名である点だ。

「実名のクチコミなのでポジティブな感想が多いのが特徴。インスタやFacebookでは、グルメな投稿ばかりはしにくいという人も多いが、Rettyに来る人はグルメ情報を求めている人で気兼ねもない。

ここのお店を教えたい、シェアしたいという前向きな感情をシェアする場になっています」

Retty社長室長の奥田健太氏はそう話す。

地道に続けてきた全国でのオフ会開催

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Retty社長室長の奥田健太氏は「全国でオフ会を開くため飛び回った」と話す。

撮影:今村拓馬

Rettyに特徴的なのは、ユーザーが集まって「オフ会」がひんぱんに開催されていること。

Rettyにはイベント企画機能があり、同じジャンルの料理好きを募るなどユーザー同士が出会う機能が実装されている(2020年12月現在は、新型コロナウイルス感染拡大のために公式イベントは中止されている)。

今ではユーザーが企画する自発的なオフ会が全国各地で開催され、これまでに「数千回」(Retty広報)は開かれており、その頻度はかなりのものだ。

とはいえ、サービスを開始した10年前は、社員が全国に出向いて地道にオフ会を開いてきた。

「ユーザーに少しでも多くクチコミを書いてもらうために、ユーザーに集まってもらいオフ会を企画していました。私はサービスローンチの3年目に、6番目の社員としてRettyに入社しましたが、東京だけでなく北海道や仙台、富山など全国を、とにかくオフ会を開くために飛び回っていました

クチコミグルメサービスとしては先行していた、「ぐるなび」や「食べログ」に対し、後発のRettyが実名という新しいサービスのユーザーを育てるためにとった戦略の一つが、ユーザーを集めたオフ会だった。

4年は赤字。それでも地道に種まき

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後発のクチコミサービスとして、Rettyが力をいれたのが「オフ会」だった(写真はイメージです)。

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ネット上でサービスを提供するベンチャー企業が、なぜそこまで地道な戦略をとっていたのか?

その理由は、「Rettyにとって一番大事なのは、実名のユーザーたちに、良い写真やクチコミを上げてもらうこと」(奥田氏)だから。

一般ユーザーを巻き込んだオフ会を飲食店で開催し、お店の良さを知ってもらう。そして、その飲食店についてクチコミを書いてもらう。

オフ会や投稿されたクチコミ通じてユーザー同士がつながり、Rettyを中心としたコミュニティーが拡大する。

そうしたコアユーザーの、熱量の高いクチコミに引き寄せられ、ライトユーザーの裾野が広がっていく。

結果的に、Retty と契約する店舗は、力強い集客という恩恵を受けられるようになる。

この、「クチコミを実名で書き込むコアユーザー」→「クチコミを読むライトユーザー」→「集客求める店舗の拡大」というサイクルが、Rettyの基盤を作り上げてきたのだ。

Retty社長の武田和也氏も、株式上場の際の記者会見でこう述べた。

「2011年のサービス開始以来、クチコミを積み重ねることを続けてきました。先行投資がかさむビジネスで、3〜4年は赤字だったものの、2015年から黒字化することできた

飲食店で加速したDX

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モバイルオーダーなど飲食店のDXを進め、成長につなげるとしている。

出典:Retty2020年9月期通期決算説明資料

こうして、IT企業には異質に感じるほどの地道な積み重ねを続け、満を持した上場の2020 年、社会を新型コロナが襲った。飲食業界は、もろに打撃を受ける筆頭となる。

こればかりは「想定外」と言わざるをえないだろう。ただ、コロナ禍には成長のチャンスもあると、武田氏は言う。

「コロナによってネットサービスに目が向いた飲食店があります。Rettyの有料サービスを契約しているお店は約1万店ですが、日本の飲食店は70万店舗。デジタル・トランスフォーメーション(DX)への対応など、有料サービスの価格以上が出せれば成長につながる」

有料契約サービスの落ち込みはすでに回復基調に戻り、2021年9月期の業績予想では、売上高を「2.5%〜7.4%」増やし、2020年9月以降は35%の成長を狙う。

テイクアウトの際にスマホで注文できる機能や、お店のテーブルからスマホでオーダーできるモバイルオーダーなどの機能を充実し、新たな需要にこたえることで有料プランの契約増加を目指すという。

データを活用したマッチング

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武田氏は「一度来店があっても、2度3度と店に来てもらうのは簡単ではない。店とのマッチングは奥深い」と話す。

撮影:今村拓馬

武田氏がこの先に描くのは、データを活用したマッチングだ。

マッチングは奥深くて、人によって良い店の基準はまったく違います。データをもとに最適な店を提案するだけでなく、セレンディピティー(偶然の出会い)も大切だと思っています。Rettyを使えば、ぴったりな店が見つかるという『USER HAPPY』を実現したい」

前出の奥田氏は、コロナ禍の危機感を次のように語る。

「閉店するお店も、逆にお客さんを集めているお店も、飲食業全体で見ればいずれもあります。ただ、一つの飲食店が閉店してしまうということは、文化的にも大きな損失。飲食店と一緒に成長していきたいと思っています

先行きの見通しづらいコロナ禍の中、厳しい環境に置かれた飲食業界と、どう共闘し、DXによる新たな可能性を示せるか。Rettyの舵取りが注目される。

(取材・横山耕太郎、滝川麻衣子、文・横山耕太郎)

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