2020年はTikTokからベストセラーも生まれた。
撮影:西崎圭一
2020年は「TikTok発のヒット」が存在感を発揮した年だった。
年間ビルボードジャパン総合ソング・チャート「JAPAN HOT 100」で総合首位を獲得したYOASOBIの『夜に駆ける』、紅白歌合戦に出場を決めた瑛人の『香水』をはじめ、TikTokをきっかけに、過去の曲が時間差でバイラルヒットした例も多かった。
しかし、このブームの裏で意外と知られていないのが、TikTokから生まれた書籍や流行語などの「領域横断型ヒット」だ。
1. 『香水』だけじゃない…35万いいねで楽曲リリースも
まず、TikTok発の楽曲バイラルヒットとして見逃せないのは、Tani Yuukiさんが歌い、35万件の「いいね」を獲得した『Myra(マイラ)』だ。専門学校で音楽を学んだ彼は、自作の曲を知ってもらうため、ストリーミング配信を行っていない未発表の楽曲をワンコーラスだけ披露した。
動画には、ストリーミング配信を希望するユーザーの声が集まった
TikTok
3月21日に投稿された「Myra ワンコーラス動画」はユーザーの心を掴み、コメント欄には配信を熱望する声が多く集まった。ユーザーに後押しされ7月ストリーミング配信がスタートすると、LINE MUSICの月間ランキング1位など配信チャート上位にランクインした。
『Myra』のフルバージョンはYouTubeで1900万回再生以上を記録している(2020年12月17日時点)。
Tani Yuuki
既存の楽曲がTikTokで話題となり、時間差で大ヒットにつながるケースは今までにもあった。しかし、公式配信すらされていない曲がTikTokヒットを経てリリースに結びつくケースは新しい。『Myra』は「TikTok発の音楽配信」を体現した、稀有な曲だといえるだろう。
また後述のように、この『Myra』をきっかけにした書籍のヒットも生まれている。
2.「TikTok売れ」で40万部のベストセラー
TikTokのユーザー発信の投稿から書籍が売れる「TikTok売れ」も相次いで起こった。
キャッチコピーも「TikTokで超話題」に
出所:『桜のような僕の恋人』CM動画キャプチャ(左)撮影:西崎圭一(右)
2017年に発売された『桜のような僕の恋人』(著:宇山佳佑)は、TikTokで人気の平井大さんの曲を使ったユーザー投稿から火が付き、結果的に40万部を超えるベストセラーとなった。
日本出版販売が自社メディア「ほんのひきだし」で発行元の集英社に対して行った取材によると、重版部数からみてTikTok効果は12万部ほどあったと明かされており、その予想もしなかった現象に驚いたとされている。
さらに、2016年に発売された小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(著:汐見夏衛)が4年の時を経て、10万部を突破するヒットになった。
2016年に書籍化された当時は話題にならなかった同書だが、6月に前出のTani Yuukiさんが歌う『Myra』を使用した紹介動画に28万件の「いいね」が集まり、その直後から、書店やネット販売で売り切れが続出。9月までの3カ月間で7万5000部を増刷、10万部を突破した。
TikTok公式noteによると、出版元のスターツ出版は当初、書店からの鳴りやまない注文電話に対して、その「理由がわからなかった」と言う。
本という既存のコンテンツに、人気の音楽を乗せたことが新しいトレンドを生んだケースだ。
3. 知ってた?アジアから逆輸入の『summertime』
TikTokをきっかけに東南アジアでヒットした「summertime」。
cinnamon' room
海外で日本の楽曲が流行り、“逆輸入”的に日本のTikTokでヒットしたケースも見られた。「君の虜に」という歌詞が特徴的な、cinnamons × evening cinema が2018年に配信した『summertime』は、2020年、世界各国から投稿が相次いだ。
『Kimi No Toriko (Remix)』(summertime)に合わせて、同じ踊りを披露する人気ユーザー。
TikTok
2019年10月にきゃりーぱみゅぱみゅさんがTikTokで使用した後、アジア圏に広がり、5月にインドネシアの人気TikTokerがRemix音源で動画を投稿したことにより一気に人気が拡大。同音源には現在、全世界から600万件を超える投稿が寄せられている。
音楽メディア「DIGLE MAGAZINE」などによると、この現象の影響により同曲は7月にシンガポールなど東南アジア4カ国でTikTok使用楽曲1位を獲得。Spotifyが発表した「2020年海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」で第7位となっている。
4. TikTok発ワード「きゅんです」は流行語に
コトバ部門1位「きゅんです」は、今年の「TikTok流行語大賞」を受賞した。
出典:株式会社AMF
女子中高生向けマーケティング事業などを手がけるAMF社が発表した「JC・JK流行語大賞2020」を見てみると、コトバ部門の上位5つのうち、TikTokが選出した「TikTok流行語大賞」にノミネートされた言葉と重複しているものが3つもランクインしている。
- きゅんです(胸がきゅんとときめいたという意味)
- ぴえんヶ丘どすこい之助(悲しみを表す「ぴえん」の最上級系)
- ○○しか勝たん(好きなモノやヒトに使う表現)
特に、1位を獲得した「きゅんです」は、まず、韓国アイドルから広まった「指ハート(親指と人差し指で、ハートを作るポーズ)」を使用したある動画が話題となり、38万件の「いいね」を獲得。
それにアーティストのひらめさんがストーリーを付けた楽曲「ポケットからきゅんです」を6月3日に投稿し、以後、この曲とポーズを掛け合わせた投稿が続出。一過性のバズがトレンドへと成長した。
「プラットフォームを飛び越えた」ヒットが多く見られた2020年のTikTokトレンド。2021年にはどんなムーブメントが生まれるのだろうか。
(取材・文、西崎圭一・西山里緒)