抵抗根強い夫婦別姓とコロナ禍の女性の困難への思い。橋本聖子男女共同参画大臣に聞く

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撮影:今村拓馬

政府が閣議決定した第5次男女共同参画基本計画は、日本のジェンダー平等推進政策の骨格と言える計画で、今後の政策にも大きな影響を及ぼす。今回、策定にあたって募集したパブリック・コメントには前回の倍近い意見が寄せられ、関心の高さを示した。

新型コロナウイルスの深刻な影響を受ける女性たちへの支援、夫婦別姓制度の導入、性暴力や就活セクハラなどへの対策、女性のリーダー層の育成……こうした女性を取り巻く問題にどう取り組んでいくのか。自民党内保守派との調整で、前回の4次計画より記述内容が後退した「選択的夫婦別姓」に関する大臣の考えも含めて尋ねた。

橋本聖子・内閣府特命担当大臣(男女共同参画)に、今回の計画の特徴、特に力を入れた点などについて聞いた。

※男女共同参画基本計画とは:1999年に公布・施行された男女共同参画計画基本法に基づき、5年に1度、作られる。策定には、さまざまな専門家で構成する複数の会議で現状分析、課題、政府の役割などを議論して案を練っていく。計画案は公表されて「パブリック・コメント」という形で、誰でもインターネットなどで意見を寄せることができる。それを踏まえ、有識者による専門調査会が答申を出し、政治的な調整を経て決定に至る。第5次男女共同参画基本計画は2020年12月25日に閣議決定された。


「121位」の日本に感じた強い危機感

橋本聖子

5次計画の作成を通じて、新型コロナウイルスが女性の生きづらさを作り出したと改めて実感したという。

撮影:今村拓馬

——第5次男女共同参画基本計画は、4次計画と比べて、どのような特徴がありますか?

橋本大臣(以下、橋本):第4次計画が策定された5年前と比べて、男女共同参画への世論の関心が高まっています。計画案に対するパブリック・コメントを募集したところ、6000件近くのご意見が集まりました。これは前回の倍近い数字です。

私は、5次計画を作る過程で危機感を感じていました。

2019年に発表された世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数(GGGI)で、日本は153カ国中121位になってしまいました。健康状態は非常に良く、教育も行き届いているはずなのに、政治分野と経済分野が遅れを取っているためです。これは、先進国として日本が世界で果たすべき責任を果たしていないことにつながるのではないか、と思いました。

—— GGGIは2006年から発表されている各国内の男女間格差を測るランキングで、日本は調査開始から順位が下がり続け、最新データでは、先進国最下位になってしまいました。政治分野については、政府としてできることもありそうです。

橋本:私は各政党党首の方に女性を増やして下さい、とお願いに回ることもしています。国会だけでなく地方議会にも女性議員を増やしていただくことも必要だと思っています。

今、どの政党も、各都道府県連の支部が候補者を推薦し、それを党本部に上げて候補者を選定します。ですから、党本部と都道府県連が連携しないと女性議員は増えません。

——地方から女性議員の候補を積極的に出してもらうことは、地域への男女共同参画の意識づけにもなりますね。

橋本:まさに5次計画では男女共同参画の裾野を広げて、地域にも浸透させる重要性も正面から書きました。

今回最も大きな特徴は、新型コロナウイルス対策です。関連の研究会を作り、エビデンスに基づく議論をしていただき、私も勉強させていただきました。コロナのような非常時に、どういった方が困るのか、構造要因も見えてきました。やはり圧倒的に女性への影響が強いということが、改めて分かりました。

この問題は以前からずっとあり、それがコロナで顕在化し、気づかされたと思っています。政府が制度を作っても制度にたどり着かない人、声を上げたくてもその前にあきらめてしまっている人もいます。研究会を通じて学んだことを、是非とも5次計画に盛り込まなくては、と思いました。

今、女性の自殺者が例年に比べて多くなっています。多くの人があきらめてしまっている。それが子どもの世代に連鎖している。これが非常に怖いと思っています。自然災害時のようなプッシュ型の支援をしていかなくては、と考えています。

さらに女性に対する暴力の対策にも力を入れます。これは、女性活躍の前提であると同時に、幅広く多様な人々を包摂するために重要であるため、盛り込みました。

未来を切り開いていくのは若い世代

橋本聖子

5次計画策定に向けて、若い世代からの提案書を受け取った。

撮影:今村拓馬

——5次計画策定にあたり、若い女性たちのグループと面会して意見交換し、彼女たちからの提案書を大臣が直接、受け取りました。

橋本:5次計画は策定のプロセスに大きな特徴があると思っています。

お会いしたユース(若者)の方々は、世界を見ています。世界における日本の立場をしっかり意識している。彼女たちの話を聞いて、私は「これだ!」と思いました。そして、ユースが作った提案書を5次計画の専門委員に事前配布したのです。

5次計画の中で特にユースの声を反映した部分として「就活セクハラ」への対応があります。これは切実ですよね。こんなことが許されていいはずがありません。

——若い人たちの声が政策に直接反映されたのは画期的だと思います。理系分野の女子教育を推進している団体なども5次計画に関心を持ち、パブリック・コメントという形で知見を寄せました。皆、TwitterやInstagramなどのSNSを活用して建設的な提案をしつつ、自分たちの意見が計画のどこに反映されているか発信を続けています。市民社会と政治、行政の対話の産物だと思います。

大臣自身は、若い世代の政治参加について、どう受け止めていますか?

橋本:未来を生きるのは今の若い人たちです。若い世代にとっては、誰かが作った未来を生きるより「自分たちが歩む未来を自分が作る」と思える方が、ずっと夢があるはずです。だから自分は、若い世代の思いをしっかり盛り込むべきだと考えていました。

私は30歳の時、政治の世界に入りました。当時は「若い世代が日本の未来を考えるのは難しい」と言われたものです。でも、政治は政治家のものではなく、国民のものです。若い人たちに「政治というのは自分たちのものだから、声を上げなくてはいけない」と思ってほしいんです。

多くの人が若い時は、既存の仕組みに疑問に思ったはずなのに、年を取ると忘れてしまいがちです。誰もが通ってきた道だけれど、若い時のことを忘れてしまったり、若い人の気持ちを分かってあげられなかったりする。

自分が若い時にできなかった、という思いを取り戻すには、決定権を持った時に自分が若い方の意見を重要視したらいいと思うんです。そんなことを考えて、これからの日本を切り開いていく若い方たちの意見を反映しました。

女性をめぐる問題はつながっている

女性

女性をめぐる問題は根底でつながっている(写真はイメージです)。

Shutterstock/bixstock

——性被害については、被害者の精神的なダメージ、それがもとになって不就労、貧困につながることまで突っ込んで、5次計画に書いてあります。

橋本:女性をめぐる問題は全部、つながっていると思うんです。被害の連鎖をどこかでしっかりと断ち切っていかないと、次々問題が大きくなってしまい、子ども達の世代にもつながっていきます。

ですから、反対の声は根強いですが、処方箋なしの緊急避妊薬を適切に入手できるようにすることも、大事だと思っています。コロナ禍で性暴力、性被害を受ける方は増えています。週末などをはさめば、不安でいることでしょうから、早く手当てをしてあげないと精神的なダメージも受けてしまう。

——経済分野についてお聞きします。2020年までに指導的地位に就く女性を30%にする、という目標、いわゆる「2030」が延期されました。今後、企業にどう働きかけますか。

橋本:2020年に目標達成ができなかったことで、先送り感がありますが、2030年を待たずに、達成したいと思っています。

この問題は変化が見られた分野と、進んでいない分野にはっきり分かれています。例えば、女性役員は増えています。「輝く女性を応援する男性リーダーの会」も、発足当初は5~6人で始まりましたが、今は220人に増えました。達成度を見ると、トップの考え方が大きいと感じます。

女性をいかに増やしていくか、数値目標を持って取り組む必要がありますし、女性が管理職になりたいと思えるよう、周囲が応援する体制を作ることも大切です。

夫婦別姓は「困っている人に何ができるか」

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コロナ禍で改めて、「誰一人取り残さない」という政治家としての責務を感じたという。

撮影:今村拓馬

——選択的夫婦別姓については、いかがでしょう。橋本大臣は、会見や国会でも「若い世代の声を受けて止めて、十分配慮する必要がある」と踏み込んで話されています。一方、5次計画での書き方をめぐっては、自民党内では激しい論争の末に4次計画よりも表現は結果として後退したものになりそうです。

橋本:私が特に踏み込んで書きたかった分野です。今回、5次計画では踏み込んでいきたいと、各党にはかってきました。

(自民党内でも)推進派と伝統文化派で議論をしていただく時間が、最近増えました。60人もの議員が集まって議論をするようになったのは、良いことだと思っています。

この問題についてはアレルギーが強い方々もいますが、自民党内で議論する場を作ってもらうことができたのは、党にとっては前進だと思っています。今までは夫婦別姓について長期的に話し合う、継続的な議論の場がなかったのです。

——大臣自身が、この問題について踏み込んだ発言をしたのは、どうしてですか?

橋本:私自身が旧姓使用、通称名で仕事をしています。これは、特別国家公務員という守られた立場だからで、海外へ行っても「橋本聖子」で仕事ができます。でもパスポートなどは、(戸籍名で)違う名字です。私の場合、手続きしてくれる人がいるから不自由を感じず活動できますが、そうでない人はいます。

旧姓使用でもそんなに支障をきたさないだろう、という方もいますが、問題はそういうことではありません。政治は困っている方に何ができるかを考えるのが大事なのです。

コロナは女性に対する影響が大きく、8月は女性の自殺が男性を上回った。これは先ほど申し上げた通り、もとからあった問題が顕在化したためです。「誰一人取り残さない」という政治家としての責務をここで果たさなかったら、何の意味があるんだろう、と私は思いました。そういうことが、私の最近の発言に表れていると思います。

最近では、一人っ子同士の結婚も増えてきました。ご自身の姓を守りたい方もいるでしょう。今の制度では、家族になりたいのになれない、困難な状況に陥っている人たちがいる。ここには大きな問題があります。政治はこういうところに一番、目を向けなくてはいけません。私が考える政治の責任は、困っている人に何ができるか、です。


◆取材後記

筆者は5次計画の「人材・意識」に関するワーキング・グループ構成員を務めた。男女共同参画社会基本法の制定時から大きな課題とされた「固定的性別役割分担意識」について、教育、人的資源管理、無意識バイアスを踏まえて議論できた意義は大きい。また、大臣が直接、若者グループの意見を聞き、若者の提言を専門調査会で取り上げたこと、その意義を大臣が語ったことは、日本の男女平等政策の大きな前進と言える。

一方で長年議論され、国民の大半が支持している「選択的夫婦別姓」に関する記述が、与党一部議員の反対で後退したことは残念だ。記事を読んだ方々には、与党も一枚岩ではないことを知り、今後、抵抗勢力をいかに説得していくか、一緒に考えてほしい。

(聞き手・構成:治部れんげ


治部れんげ:ジャーナリスト。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。その間、2006~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員としてアメリカの共働き子育て先進事例を調査。2014年からフリーに。国内外の共働き子育て事情や女性の働き方に関する政策について調査、執筆、講演などを行う。

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