コロナ時代に「13〜19歳まで限定」オンライン学習はなぜ生まれたか…Inspire High 杉浦太一

不安なニュースが続く中でも、意思を持って切り拓くミレニアル世代のビジョナリーたち。「サステナビリティビジネス」「テクノロジー×ビジネス」「カルチャー×ビジネス」「ダイバーシティ&インクルージョン」の4分野の挑戦者に、その思いを聞く。第1回はInspire Highの杉浦太一氏。


profile

Inspire Highの代表、杉浦太一氏。カルチャー・ニュースメディアCINRAの代表でもある。

出典:Inspire High

「参加は13〜19歳まで」「独自のライブ配信アプリによる深い体験」をウリにした、異色のオンラインスクールがある。

名前は「Inspire High」。カルチャー・ニュースメディアCINRA.NETを運営するCINRAの代表を務める杉浦太一氏が2020年1月24日、「国際教育デー」に10代向けの教育事業として立ち上げた。

オンライン学習といえばコロナ時代の注目分野の1つだ。Inspire Highの場合、順序としては事業の立ち上げが先で、その後、世界の状況が一変したということになる。

「親でも先生でもない大人」の見つけ方

Inspire Highのオードリー・タン氏の参加回は無料配信されている。

Inspire High

人生を振り返れば、10代の体験が人生に大きな影響を与えた、という人は少なくない。

Inspire Highでは、そんな10代に向けて、普段接する機会のないアーティストや起業家、研究者など、第一線で活躍し人生を楽しんでいる大人を「ガイド」として起用し、インタラクティブな「ライブ配信セッション」をウリにしている。

登録無料のオンラインスクールにすることで、教育による機会格差をなくすことが目標だ。

すでに詩人の谷川俊太郎氏や台湾IT担当大臣のオードリー・タン氏など、さまざまな業界の有名人・著名人たちと10代をつないできた。

「親でも先生でもない大人、それはよく行く古着屋のお兄ちゃんとか、自分が好きアーティストかもしれないけれど、自分を“インスパイア”してくれるそういう存在って重要だと思うんです。

でも今はSNSが発達しすぎていて、YouTubeなどでも見たいものをどんどんオススメしてくれる。ありていに言えばフィルターバブルと言うか、セレンディピティが生まれにくい状態。

テクノロジー社会になったからこそ、逆にそういう出会いの機会が狭まってきていると感じます」(杉浦氏)

杉浦氏

オンライン取材に答える杉浦氏。Inspire Highと並行して運営するCINRAは2020年11月、道玄坂オフィスを廃止し、全社フルリモート勤務にするという決断もした。

オンライン取材からキャプチャー

教育事業への思いは、CINRAを起業するずっと前から温めてきた、と杉浦氏は言う。

その個人的な動機は、杉浦氏自身が10代の頃、ある人物の言葉にインスパイアされ、その後の人生が大きく変わった経験だ。

「高校生の頃に音楽をやっていて、卒業したら音楽の道に進もうと思っていたんです。でも、教育実習で来た大学生に、『いま人生を決めることはない。一度大学行ってから考えてもいいんじゃないか』と言われて、それがスッと入ってきた。

結果、進学して学生時代にCINRAを立ち上げることに。アーティスト側ではなく、メディア事業などを通してアーティストを支える側になりました。

あの一言は自分にとって救いだったし、自分にとってより“しっくりくる生き方”を選べたという思いが根本にあって。それが(Inspire Highの)事業の真ん中にある信条になっています」

実際にInspire Highの事業準備に取りかかったのは約2年前。子どもたちにインスピレーションを届けるため、今どのような教育がなされているのか……世界中の実例を自身で見て回り、「自分が思いっきりスイングできるとしたら、このオンラインスクールだ」と思えるものに行き着いた。

サブスクの誤算、教育機関との連携に活路

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Inspire Highのコンテンツの仕組み。

出典:Inspire High

Inspire Highのアドバイザリーボードに名を連ねる世界中の教育関係者は、杉浦氏が世界を見聞する中で得た人脈だ。

「彼ら(アドバイザリーボード)とは、どうすれば“人の主体性を引き出せるか”などさまざまな議論をしながら、プログラムを作ってきました。

単なるライブ配信ではなく、10代一人ひとりのクリエイティビティを引き出すのが狙い。だから、先生じゃなくて“ガイド”なんです。

ガイドの皆さんには、CINRA.NETで得たつながりなどから声をかけさせてもらった」

けれども、当初描いていたネットフリックスのような「サブスクリプション課金型」のビジネスモデルは、ひと筋縄にはいかなかったという。

「独自にアプリも開発して、サブクリプションモデルでいこうとスタートしたんですが、最初の2、3カ月、まったく伸びなかったんです。僕らはあらゆる10代をインスパイアしようとしていたけれど、有料で伸ばそうとすると、すでに関心が高い人たちにしか届かないこともわかってきた」

サービス開始から数カ月で「誤算」を認め、すぐにシンプルな課金型のモデルからピボットした。杉浦氏は続ける。

「大事なのは、まずはInspire Highを体験してもらうこと。関心が高くない人でも気軽に体験できるようにすることが大切だと考え、ライブ配信は無料で見られるようにしました。

次に注力したのが、全国の中学校や高校へ向けての取り組みです。授業にInspire Highを活用してもらえれば、全国の10代に届けることができるからです。

学校では今、さまざまなキャリア教育の機会が増えています。その場をある種、お借りして、授業に導入してもらう。それを、今は事業の第1フェーズと考えています」

Inspire Highのアドバイザリーボードのメンバー

Inspire Highのアドバイザリーボードのメンバー。米サンフランシスコのラボ・スクール(実験校)「ミレニアムスクール」の創立者のほか、多国籍な教育機関のメンバーで構成されている。

出典:Inspire High

ライブ配信した映像を編集し、より深く学べる「教材」も開発した。生徒一人ひとりが授業の中でアウトプットし、互いにフィードバックし合える、Inspire Highならではのワークショップなど、「体験設計」そのものをコンテンツ化した形だ。

Inspire Highは、経済産業省が主導する2020年度の「未来の教室」実証事業への採択(「学びのSTEAM化(中高STEAM化等)」分野)、同省のEdTech導入補助金の対象事業にも採択されている。

長野県立軽井沢高校をはじめ、広島県、高知県、宮崎県、群馬県、東京都内の計11校で実証導入を行っており、2021年度から本格的に全国の中学・高校への展開を進めていく方針だ。

「僕らが作っていくコンテンツには、これから世界の方々をたくさんお呼びしようと思っています。それをTEDのティーンエイジャー版のような形で、世界中の10代をインスパイアするブランドとして届けていくのが最終的な目標。ちょっと長いスパンではあるんですけど、事業のビジョンとしてそんなことを考えています」

Inspire Highのガイドにはこの先も、さまざまな分野で活躍するクリエイティビティを持った魅力的な「大人」たちをガイドに招く予定だ。

直近の2021年1月10日には「貧しさってなんだろう?」をテーマに、フィリピンのエンジニアで社会起業家、科学者でもあるアイサ・ミヘノ氏の出演が決まっている。

※Inspire Highの杉浦太一氏は、注目の人物を表彰するBusiness Insider Japanのアワード「BEYOND MILLENNIALS 2021」ファイナリストにノミネートされています

(文・太田百合子)

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