法人向けの「Visaビジネスデビット」は、発行総枚数が約30万枚に達した。
出典:Visa
ハンコ出社同様、経費精算のための出社はなくせるのか。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、オフィスでやっていた仕事の多くは自宅ですることが推奨されるようになった。
ただし、社内ルールや法律などさまざまな要因により、いまだに出社が本当に必要なのか疑いたくなる業務は存在する。経費精算こそ、まさにそのような身近な"無駄”だと感じる方も多いのではないか。
そんな中で、いまVisaの「ビジネスデビットカード」にスポットライトが当たっている。
キャッシュレス化の波を受け4年間で5倍以上の成長率
Visa ビジネスデビットのイメージ。ぱっと見ではVisaの通常のカードと見分けがつかない。
出典:Visa
ビジネスデビットカードとは、法人口座に直結したカードで、さまざまな銀行が発行している。
一般的なクレジットカードとは違い、決済が行われると口座から即時引き落としされる。そのわかりやすさが特徴的だ。
2012年にジャパンネット銀行(2021年4月5日以降はPayPay銀行)が発行して以来、2020年12月現在で12行が発行しており、国内の発行枚数は累計30万枚以上。
累計の発行枚数はまだ法人向けクレジットカードほどの規模には達していないが、ビザ・ワールドワイド・ジャパンでビジネスソリューション担当を務める三浦知実氏は、「直近の4年間で5倍以上の成長率」「ここ数年間で最も注力している事業」だと語る。
とくに、前述のようにコロナ禍での業務効率化が企業に迫られている中、その引き合いは強くなっているという。
導入メリットは"即時性"と"利便性"
CAMPFIREの経理担当を務める浦野健氏。
撮影:小林優多郎
実際にみずほ銀行が発行するビジネスデビットカードを利用しているクラウドファンディング「CAMPFIRE」の経理担当者・浦野健氏は、使った内容がすぐにわかる"即時性"と、クレジットカードとほぼ同様な使い勝手が得られる"利便性"が満足のポイントだという。
とくに業務効率化に貢献できているのは即時性の部分。同社では従来から法人向けクレジットカードも併用しているが、ウェブ広告の出稿やサービスを動かすクラウドの利用費などの経費精算を、ビジネスデビットカードに切り替えた。
CAMPFIREは、みずほ銀行が発行するビジネスデビットを活用している。
出典:みずほ銀行ホームページ
毎月の出費がほぼ固定されている費用であれば、支払いがまとめて行われるクレジットカードでも問題がないが、ウェブ広告の出稿費やクラウドの利用費は、その利用頻度や量などによって金額が大きく変わる。
リアルタイム決済が可能なビジネスデビットカードの場合、タイムリーに利用状況を確認できるため、月初など経費精算の繁忙期以外に経理業務を集中させることなく、分散できるのが大きなメリットとなる。
浦野氏によると、CAMPFIREは2月からフルリモート体制に移行しているが、経理担当者は週1日程度は出社している状態だという。
カードでは支払えない取引先や、押印が必要な作業もあるため、出社ゼロとまではいかないものの、少なくとも「(ビジネスデビットカード導入が作業の)数%程度を減らすことに寄与したと思う」(浦野氏)と述べている。
発行する銀行にとっても新たなビジネスチャンス
みずほ銀行でリテール法人推進部部長を務める半田邦雄氏。
撮影:小林優多郎
現在はCAMPFIREのような比較的若い企業や、中小規模の企業への導入が進んでいるが、その理由のひとつが「法人口座さえあれば、与信審査不要で発行できる」点だ。
そのため、発行する銀行側も、キャッシュレスが進む昨今の流れもあり、これから成長していくビジネスとして注目している部分がある。
例えば、2018年からVisaのビジネスデビットカードを発行するみずほ銀行でリテール法人推進部部長を務める半田邦雄氏は「(事業規模の)割合としてはまだこれから」としつつも、「(ビジネスデビットカードは)中小企業にリーチできる新たなビジネスチャンス」と期待感を寄せている。
コロナ禍によって、個人の間では、キャッシュバックなどがあっておトクというだけでなく、(感染防止のための)非接触という面が評価され、キャッシュレスが浸透しつつある。そしてそれにとどまらず、非接触やネット化の大波は法人の世界にも押し寄せている。
ビジネスデビットカードがその一翼を担うのか、今後の動向に注目したい。
(文、撮影・小林優多郎)