- 2020年12月、EUは大手IT企業を規制するための新法案「デジタル市場法(DMA)」を発表した。
- 大手IT企業が競争阻害行為で5年間に3回の罰金を科された場合、「事業再編」を命じられる可能性がある。
- EUはすでにグーグルに対して競争法違反行為で3回の罰金を科しているため、法案が成立すればグーグルは事業分割を迫られる可能性がある。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長。
Francisco Seco/Pool via REUTERS
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は12月15日、デジタルサービス法(DSA)とデジタル市場法(DMA)の2法案の初案を発表した。成立まではまだ道半ばではあるものの、実現すれば巨大IT企業にとって深刻な影響を与えるものになるだろう。
同法案では、競争法違反行為によって5年間で3回の罰金を科された場合、別事業部門の売却を課す「構造的是正措置」を迫られる可能性がある。
専門家らは、大手IT企業を規制するためのこの新法案をEUが施行していたら、グーグルを強制的に解体することもできただろうと見ている。
本稿では同法案の内容の一部について解説する。
グーグルはすでに3度の違反行為
グーグルはすでに競争法違反行為(検索エンジン、ショッピング、Androidでの市場独占行為)でEUから罰金を科されており、2017年に27億ドル、2018年に50億ドル、そして2019年に17億ドルの計3回、罰金を科されている。グーグルはEUの調査結果を繰り返し拒否し、2020年初頭、最初の罰金について控訴した。
同法案は、SNS、検索エンジン、メッセージ通信サービスなどのさまざまなサービスを一手に支配する大規模なハイテク企業を指す「ゲートキーパー・プラットフォーム」を主なターゲットにしている。
非営利団体「OpenUK」の代表理事であり、国連オープンソース・知的財産諮問グループの議長も務めるアマンダ・ブロックによると、もしこの法案が成立すると欧州委員会の競争当局は「グーグルをはじめ、競争法違反行為を常習的に行う企業を実際に解体するだけの力を持つことになるでしょう」という。
ブロックは「グーグルは近いうちに他と同様のゲートキーパー企業になりうる企業ですから、本当にこの法律が施行されたらグーグルも適用される規制の対象となります」と、Business Insiderに語る。
「これを見越して当局は、単に3年間で3回の罰金を科すより有効だと判断し、グーグルに事業の一部売却を要求しようとした可能性があります」という。
「EUは一握りの企業をターゲットにしている」
グーグルのサンダー・ピチャイCEO。
REUTERS/Beck Diefenbach
しかし欧州でのグーグル解体の見通しはまだ立っていない。グーグルの罰金に対する控訴が長引いていることからも証明されるように、規制当局の動きには時間がかかっており、グーグルは何年もかけて法廷で戦い続けることになるだろう。
検索エンジンのライバル企業、Ecosiaの公共政策責任者ソフィー・デンビンスキーはBusiness Insiderに対し、DMAの条件は「理論上はグーグルの立場を脅かす可能性もある」と指摘したが、そのためにはまず、規制当局は自らの決定を確固たるものにする必要があると指摘する。
「本当に重要なのは法を実際に守らせることです。EUはすでに、ショッピング、広告、検索エンジンにおける競争法違反行為を理由に、過去3年間で3回、グーグルの市場独占を認定しました。
3回の決定で毎回多額の罰金が科されましたが、これらの罰金は未払いであり、グーグルの市場独占は各分野ともまったく衰えることなく続いています」
デンビンスキーはまた、「DMAの規制は確かに我々も支持できる内容ですが、もっと短期的な意味で最も影響力があるのは、すでに出された決定を実際に守らせるためのEU側の協調的な努力です」とも指摘した。
グーグルの行政および公共政策担当、カラン・バティア副社長は、EUは特定の企業をターゲットにしているようだと述べた。バティアは次のような声明を発表している。
「欧州委員会の決定については今後数日間で慎重に検討することになっていますが、この決定は一握りの企業を特別な意図をもってターゲットにしているように見えます。
この問題が当社の新製品の開発を困難にし、当社の新製品開発によって恩恵を受ける欧州域内の中小企業にも打撃を与えるのではないかと懸念しています。
当社は、欧州の消費者と企業の利益のため、イノベーションを支援し、責任を強化し、経済回復を促進するための新しいルールを引き続き提唱します」
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)