「羽のない風車」で台風さえもエネルギーに転換する。風力発電ベンチャー「チャレナジー」のすごみ

不安なニュースが続く中でも、意思を持って新たな時代を切り拓くミレニアル世代のビジョナリーたち。「サステナビリティビジネス」「テクノロジー×ビジネス」「カルチャー×ビジネス」「ダイバーシティ&インクルージョン」の4分野の挑戦者に、その思いを聞く。

第2回はチャレナジーの清水敦史氏と小山晋吾氏(インタビュイーは清水氏)。

マグナス式風車

チャレナジーが開発する、「垂直軸型マグナス式風力発電機」。

提供:チャレナジー

世界では、約10億人近くの人々が、いまだに電気のない生活をしていると言われている。

自国の中で、安定的かつ持続可能なエネルギーを確保しつつ、新興国を含めた世界中に安心かつ安全な電力を届けることは、全世界共通の課題だ。

「風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全なエネルギーを供給する」

日本国内にも、大きな目標を掲げ、世界に目を向けている注目のベンチャーがある。

「垂直軸型マグナス式風力発電機」という「羽のない風車」を利用した独特な風力発電機を開発する「チャレナジー」だ。

代表取締役CEOの清水敦史氏に、話を聞いた。

東日本大震災を経て「自分たちが変えなければ」

清水代表

チャレナジーの清水敦史代表。

撮影:三ツ村崇志

チャレナジーは創業7年目(2014年10月設立)のベンチャーだ。

創業のきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災によって起きた、福島第一原子力発電所の事故だった。

当時、清水代表は大阪でエンジニアとして働いており、地震や原発事故により直接的な被害を受けたわけではなかった。

しかし、原発事故をめぐる情報が錯綜する日々の中で、清水代表は日本の発電のあり方に疑問を抱くようになる。原発の恩恵を受けて育った世代として、「自分たちの世代がなんとかしなくては」と強い当事者意識を抱くようになったという。

「少なくとも今から原発をなくすのは無理だけど、これ以上作るのをやめて再生可能エネルギーにシフトすることはできる。僕はそういうふうに信じたんです」(清水代表)

当時、仕事のかたわら経営戦略論を学んでいた清水代表は、かつて電話回線を独占していたNTTが民営化したときと似た流れを、電力業界に感じたという。

「既存の発電の仕組みそのものが置き換わっていく中で、何かビジネスチャンスがあるだろうと思いました」

そこからの清水氏の行動は早かった。

変わらない風力発電に見出したイノベーションのチャンス

太陽光パネル

太陽光パネルは広い場所に大量に設置した事業者が勝ちやすい。コスト競争になりやすい土壌では、ベンチャーの価値を発揮しにくい。

REUTERS/Bing Guan

再生可能エネルギーと聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは「太陽光発電」ではないか。しかし清水代表はあえて太陽光ではなく、「風力」に目を付けた。

太陽光発電は開発や普及が進み、その規模もかなり大きくなっている。広い敷地に安く大量のパネルを設置した事業者が勝利する世界ができつつあった。

また、エンジニア出身の清水氏は、もの作りへの憧れを強く抱いていた。

「エジソンみたいになりたいという憧れもありました。なれるとしたら、風力発電の分野じゃないかと思ったんです」(清水代表)

実は、風力発電の象徴ともいえる巨大な羽が付いた風車は、100年以上昔からほぼその姿が変わっていない。

だからこそ、そこにイノベーションのチャンスがあるはずだと、確信があったという。

清水氏はすぐに手を動かし、3.11の直後から特許の取得を目指す。そして2013年には、現在チャレナジーで製造している「垂直軸型マグナス式風力発電機」の基盤となる特許を取得。

それを契機として、2014年に起業することになった。

「羽のない風力発電機」

風力発電

風力発電といえば、巨大な風車が並ぶ様子を思い浮かべる人が多いだろう。

REUTERS/Phil Noble

「風力発電は我々日本人には馴染みが薄い。ポーランドに飛行機で行った時、機内から風力発電地域の一帯が見えて、1時間くらい目が釘付けになりました。(風車が)途切れることなく並んだ海岸線に感動して、日本でも実現したいと思ったんです」(清水代表)

ヨーロッパでは、風力発電は広く普及している。一方で、日本ではそこまで広く普及しているとは言い難いのが現状だ。これには環境の違いが大きく影響している。

欧米で風力発電の行われている地域は、平らで広い土地があることに加え、たいてい同じ方向から風が吹く。それに比べると日本は、国土の大半を山が占め、周囲を海に囲まれた環境から、風力発電の設備を置ける地域が限られる上、風向きもひんぱんに変わる。

さらに、夏場には台風が頻発。強い風によって、風車が壊れるリスクも高い。せっかくの風力をうまく活かしきれないという、不都合な真実があった。

こういった課題を解決するために、清水代表がひらめいたのが、「羽のない風車」を作ることだった。

羽がなければ、風向きの変化や強風によって壊れることもなくなるはず。

そうした発想から誕生したのが、チャレナジーの「垂直軸型マグナス式風力発電機」だ。

マグナス式風車

一見風力発電機とは思えない風貌をしたこの装置が、チャレナジーが開発する「垂直軸型マグナス式風力発電機」だ。

提供:チャレナジー

垂直構造をとるこの発電機は、どの方向から風が吹いても、効率よく発電することができるのが特徴。その技術の肝の一つが、「マグナス効果」と呼ばれる物理現象を利用しているところだ。

マグナス効果とは、回転しながら進む物体の進行方向に対して垂直に生じる力。

例えば、野球で回転の利いたストレートは、まるで浮き上がってくるかのように「ノビる」。これは、ボールの回転によって生じるマグナス効果によって、浮き上がる方向に力が生じた結果だ。

チャレナジーの風力発電機では、円筒状の構造をモーターによって回転させることで、風を受けたときにマグナス効果が働き、風車全体が回転し、発電する。

モーターを動かすために電力は必要になるものの、現状では風速4メートル以上であれば全体が回転することで得られるエネルギーのほうが大きくなるという。

羽が風を受けて回転しているわけではないため、強風によって暴走したり、壊れたりする心配は低い。また、円筒状の構造を回転させるモーターへの電力供給を遮断してしまえば、風車は必ず止まる。モーターの回転数を変えるだけで、出力を調整することもできる。

制御が簡単、という点は圧倒的なメリットと言える。

風力発電の天敵といえる台風がやってきたとしても、むしろその強風を安全にエネルギーに転換できるわけだ。

離島や島国での「防災」としての風力発電

停電

2019年9月に千葉県を直撃した台風15号によって、千葉圏内では大規模な停電が起こった。

REUTERS/Issei Kato

再生可能エネルギーへの転換は、世界共通の課題だ。清水氏はこのグローバルな潮流を踏まえ、今後の展開について大きく2つの方向性を語る。

1つは、風力発電機の大型化だ。現在、同社の風力発電機は1機あたり4、5家庭分の電力(約10キロワット)をまかなうことができるが、ヨーロッパの大規模発電では、1機あたりメガワット(1000キロワット)単位の発電が可能だという。

こういった規模で発電できる風力発電機を実現できれば、大規模な電力を供給する国内の主力発電所としての現実性も出てくることになる。

また、もう一つの方向性は、小型の発電機の特性を活かした、離島などでの電力供給に加え、発電設備にプラスアルファのソリューションを組み込むことだ。

たとえば、防災の観点から衛星通信環境と組み合わせる実証が行われている。

島の電力を大規模な一カ所の発電設備に頼っていては、甚大な災害によってそこにトラブルが起きたときに電力供給が断たれてしまう可能性が出てくる。小型の発電設備を複数確保しておけば、何かあったときに「すべてが同時に停止する」ということが起こりにくい。リスクの分散につながるわけだ。

また、この発電設備に、衛星通信の設備を組み合わせておくことで、仮に外部の通信環境が落ちてしまったとしても、完全に独立したインターネット拠点をつくることができる。

実は2019年10月、沖縄県の石垣島に台風18号が到来した際、光回線の海底ケーブルが切れたことで、一時的に石垣島と外部で通信が途絶えるという事故が起きた。

清水代表によると、このとき、現地にあるチャレナジーの敷地内では、問題なく衛星回線を使ってインターネット通信ができていたという。

「やっぱり島ならではの課題があるので、今はそこに見合ったソリューションを提供できるか、(石垣島で)実験をしている段階です。石垣モデルみたいなものを作ってそれを世界中に展開していきたいと思っています」(清水代表)

チャレナジーでは今後、多くの離島を抱えるフィリピンをはじめ、東南アジアへの進出を考えているという。

「世界に安心安全なエネルギーを供給する」ため、再エネで水素を作る

水素カー

トヨタ自動車が開発する水素自動車「MIRAI」は水素を動力源としている。将来的に、このような形でエネルギー源としての水素が普及する可能性がある。ただし、水素をつくるために、火力発電によって生み出されたエネルギーを使っていては本末転倒だ。

REUTERS/Chris Helgren

清水氏に話を聞いていくと、同社の最終的なゴールは、意外なところにあった。

「我々の最終的なビジョンは、世界中にエネルギーを届けることです。実は、それを水素で実現したいと思っています。ちょっと話は飛んでしまいますが」(清水代表)

なぜ、水素なのか。

水素は、他の資源と異なり、採掘して得られるものではない。みずから作るしかない資源だ。一番単純かつ簡単な製造方法は、水を電気分解する方法である。

「日本が今、活かしきれていない資源が2つだけあります。それは海水。それらを本当に活かせたら、日本が世界中に水素を供給するというのは夢じゃない」(清水代表)

風力による発電によって得られた電力を使って海水から水素を作り、世界に燃料としての水素を供給する。

「再生エネルギーを使って水素をつくるのが究極のサステナビリティであるということは、昔から言われています。ただこれまでは、それを実現する方法がないと思われていました。

でも僕は、そこに活路を見出しています。日本の使われてない風力と海水を本当に活かせれば、今後、水素を供給することで沖縄が日本のGDPを一番稼ぐというような、そういう世界を目指せると思っています」(清水代表)

※チャレナジーの清水敦史氏と小山晋吾氏は、注目の人物を表彰するBusiness Insider Japanのアワード「BEYOND MILLENNIALS 2021」ファイナリストにノミネートされています

(文・笹谷由佳、編集・三ツ村崇志

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