Kaizen Platform社長の須藤憲司(40)。
撮影:西山里緒
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援を担うKaizen Platform(カイゼンプラットフォーム)は12月22日、東証マザーズに上場した。公開価格1150円に対して初日の初値は1170円。
創業したのは、元リクルート執行役員の須藤憲司(40)。柱事業のDXは今や国を上げて取り組む時代のテーマとなり、取引先の顧客には、ファーストリテイリング、楽天、NTT、リクルートなど大企業がずらりと居並ぶ。
2013年の設立当時から「DX」を事業のコアに据えてきたという須藤に、上場までの道のりを聞いた。
目指したのは「ソフトウェアのキーエンス」
取材は、人気のまばらな、東京都・港区のオフィスで行われた。
「(Kaizen Platformの創業にあたって、ソフトウェア企業よりも)製造業をよく研究したんです。キーエンスにファナック、あとはカイゼンなので、もちろんトヨタもですね」
意識している競合は? と尋ねると、須藤は笑って首を振る。
ウェブサイトのUI/UX改善、企業のDX促進、動画事業 —— 。たしかにKaizen Platformの事業は多岐にわたり、一見してその全容が分かりづらい。
Kaizen Platform創業のきっかけは、須藤が新卒で入社したリクルート時代に感じていたソフトウェア開発の現場の“違和感”にある。当時からデジタルに特化した専門人材の必要性は叫ばれていたが、終身雇用を前提とし、職務の配置転換も珍しくない大企業にはその人材を育てる土壌が欠けていた。
一方で「デジタルの専門業者」であるシステム開発企業(SIer)は、大企業の“下請け”という位置付けであることが多く、その企業自体に注目が集まらないため、優秀な人材を採用するのに苦労していた。
これでは専門人材が不足するのは目に見えているし、何より生産性も上がらない —— そう考えていた須藤が目をつけたのは、製造業の一部分を担いながら高収益を上げ続けている企業だ。
例えばキーエンスは、センサーやタッチパネルなど対企業向けのパーツ製造に特化した企業だが、その価値は決して下請けにとどまらない。
シャープは2016年、鴻海精密工業に買収された。
画像:Reuters / YUYA SHIRO
折しも須藤が起業した2013年頃は、日本の製造業の成長を支えてきたシャープの業績悪化が報じられていた時期。シャープ救済に名乗りをあげていたのは、こちらも液晶パネルなどの製造・組み立てをアップルや任天堂から請け負い大きな収益を上げてきた、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業だった。
製造業のように分業を前提とし、開発プロセスの一部に専門特化した企業こそが、高い付加価値を与えられるようになっていく。それは将来的にソフトウェア産業でも当たり前になっていくはずだ —— 須藤はそう考えた。
「折り込みチラシの動画化」に勝機
こうして2013年に誕生したのが、Kaizen Platformだった。
「顧客体験のカイゼン」をキャッチコピーに、どうすればウェブサイトのクリック率や滞在時間を上げられるかなどを検証する、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)事業からまずはスタートする。その一方で、グロースハッカーやマーケターなど、専門人材に仕事を委託できるマッチング事業も手がけ、ソフトウェア開発における「付加価値」も強化した。
Kaizen Platformのビジネスの理解のためにわかりやすいのが、ここ2年ほど大きく伸びているという動画事業だ。
例えばウェブのランディングページから紙の営業資料、チラシまで、素材さえあればそれを「動画化」する。そこに「A/Bテスト」のようなSaaS事業で、どんな動画が見られやすいかを「カイゼン」する。
さらに採用から営業、接客に至るまで、業務全体の「DX」まで改革していく —— 。Kaizen Platformの強みは、そうした「DX改善」を一気通貫で担えるところにある。
コロナ禍で、特に動画事業の伸びは顕著だ。
「ZoomやTeamsで、営業資料を動画で見せたい」「オンラインイベントの資料を動画で作れないか」「今まで配っていた折り込みチラシを動画にしたい」……今、Kaizen Platformには大企業からそんな相談が次々と舞い込んでいる。
「大企業のDX」が優先課題
リクルートマーケティングパートナーズとは「オープンキャンパスの動画化」をともに手がける。
画像:スタディサプリ
ウェブサイトのA/Bテスト計測から始まったKaizen Platformだが、その事業の幅は着実に広がっている。ここ数年の大きな変化は、と尋ねると「大企業のDX」を挙げた。
実際、Kaizen Platformの取引先には、ファーストリテイリング・楽天証券(デジタル動画広告)、リクルートマーケティングパートナーズ(中止・延期になったオープンキャンパスの動画化)、NTTアド(グループ内外のDX支援)など、多岐にわたる。
2019年には大日本印刷(DNP)と提携を発表し、チラシの印刷データから動画広告を制作し、オンラインとオフラインで同時に広告を配信できるサービスの展開も始めた。
「大企業がDX化されれば、その取引先の中小企業も自ずとDX化されていきますから」(須藤)
奇しくもコロナ禍で「DX」は政府も推進を旗振りする「バズワード」となった。
「2020年のタイミングで上場した意味」について話を向けると、須藤は「正直(上場は)もともと準備していたもので……たまたま(コロナ禍が)来ただけで、狙ったわけではないんです」と苦笑する。
そして自分たちの真価が問われるのはコロナ禍よりもむしろ、2023年頃までの一般家庭への普及が目指されている次世代通信規格「5G」なのだ、と続ける。
5Gが普及すれば、AR・VRなどのテクノロジーの可能性もさらに高まり、DXの定義は格段に広がる。その中で業務をいかに「カイゼン」し、事業に付加価値を与えていくことができるのか。
須藤はすでにコロナの先の未来を見ている。
(文・写真、西山里緒)