コロナ危機を数値化した「実態把握チャート」世界銀行が発表。先進国に途上国を救う余力なし

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世界銀行は12月14日、新型コロナウイルス感染症の世界への影響を数値化したチャート群を公表した。

Screenshot of World Bank Blogs

貧困削減と持続的成長の実現を掲げ、2030年までに「極度の貧困」を地球上から撲滅することをテーマに途上国の支援を続けてきた世界銀行は、次のように2020年をふり返っている。

昨年のいまごろ、「ロックダウン(都市封鎖)」や「マスク義務化」「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」と聞いて正確に理解できる人はほとんどいなかった。ところがいまや、新型コロナウイルスの世界的流行が生活のあらゆる側面に影響を及ぼし続けるようになり、いずれも日常会話の中で使われる言葉として定着している。

世界銀行は最近、人類が直面するこのかつてない危機を数値化して理解しようと、さまざまの調査結果から2020年をふり返るチャートを作成した。

以下に、その異常な、想像だにしなかった事態の実像をかいつまんで紹介しよう。

【実態1】新たなる貧困

過去12カ月間、新型コロナウイルスの大流行は世界で最も貧しく、脆弱な人たちに襲いかかり、新たに数百万人という規模の貧困層を生み出そうとしている。

この数十年かけて、世界は「極度の貧困」(=購買力平価で1日あたり1.90ドル未満で暮らす人々)を着実に減らしてきたが、新型コロナの感染拡大によって再び増加に転じることはほぼ確実だ。

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【チャート1】新型コロナの世界的流行により、「極度の貧困」が急激に増加しつつある。

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上の【チャート1】にあるように、2019年の予測値(確定値は2017年が最新)では、「極度の貧困」層は6億4330万人。コロナ以前の予測では、2020年にはそこからさらに3000万人ほど減って6億1470万人になるとみられていた。

ところが、新型コロナの影響により、「極度の貧困」層は逆に6000万人増えて(ベースラインシナリオ)7億280万人になる。最悪の場合、さらに2600万人ほど上積みされるおそれもあるという。

さらに最新の分析では、極度の貧困層はベースラインで8800万人、最悪のケースで1億1500万人増える可能性も指摘されている。

【実態2】景気低迷の加速

都市封鎖や各種の移動制限は、新型コロナの感染拡大を抑制し、医療システムの崩壊を防ぐ面では大きな効果を発揮しているが、一方でその経済成長へのネガティブインパクトは甚大だ。

国際通貨基金(IMF)が発表した「世界経済見通し」(6月改訂版)は、現在の状況を「第二次世界大戦以降で最も深刻な景気後退へと向かっている」と表現した。

【チャート2】は1990年以降にグローバル規模で起きた景気後退と、今回のコロナ危機について、世界の国内総生産(GDP)成長率の推移を比較したものだ。

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【チャート2】世界のGDP成長率のコンセンサス予測は、リーマンショックとその後の世界金融危機時を下回っている。※2020年9〜12月分は2019年時点での予測値、1〜6月分は2020年の実績値。また1991年についてはデータ利用可能な先進国のみの数値。

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2020年3月の1.97%から、世界の各地で移動制限が始まった4月には一気に2.68%のマイナスへと転じ、リーマンショックに端を発する世界金融危機のさなか(2009年4月)の数字をも下回った。翌5月にはマイナス4.36%を記録し、世界金融危機とも比較にならないほどの急降下となっている。

【実態3】低所得国の債務負担軽減の緊急性

新型コロナの感染拡大前から、低所得国のほぼ半数が過剰債務状態(あるいはそうなる危険性が高い状態)にあったが、今回のパンデミックでどの国ももれなく経済停滞に陥り、最も貧しく脆弱な状況にある人々を救う余地がない。

「世界銀行とIMFは2020年4月、パンデミックへの対応に資源を集中できるよう、最貧国の債務返済延期を呼びかけた。その結果、債務支払い猶予イニシアティブ(DSSI)が発足し、こうした国々も新型コロナ対策に数十億ドルをふり向けることが可能になった」

世界銀行らによるこうした呼びかけは一定のポジティブな結果を生んだものの、新興国や開発途上国が自ら財政・金融措置を導入できた2007〜08年の世界金融危機時と違って、今回はどの国にも余裕がない。持続的な回復はもちろん、開発目標の達成も多くの国々で危うくなる。

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【チャート3-1】低所得国を苦しめる債務返済。2020年の債務返済。大きな区画(債務規模)は左上がアンゴラ、左下がエチオピア、右上がパキスタン。テキストが読み取れる大きな債務はたいてい中国が最大の債権国となっている。

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【チャート3-2】低所得国を苦しめる債務返済。2021年の債務返済。

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【チャート3-3】低所得国を苦しめる債務返済。2022年の債務返済。

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上の【チャート3】3種類は、上から順に2020〜22年の3年間について、低所得国の債務返済額を示している。世界銀行ウェブサイトにはより詳しい数値まで示されているが、このスクリーンショットだけでも十分わかるように(そして一目瞭然の事実に世界銀行はあえて言及していないが)低所得国が抱える莫大な借金の主な債権者は、中国だ

この債務を救済する何らかの手段をとらない限り、世界は「さまざまな意味で」破たんの危機に陥るだろう。

【実態4】出稼ぎ労働者による母国への送金額減少

ここ数十年、先進国などへの出稼ぎ労働者による母国への送金は、貧困状態の緩和や持続的な成長に大きな役割を果たしてきた。

こうした母国への送金額は、2019年にはついに、海外直接投資(=外国企業からの経営参加や技術提携を目的とした投資)や政府開発援助(=途上国の開発を目的とする外国政府による資金・技術協力)と同規模に達している

こうした順調な送金額の増加も、世界銀行の予測によると、パンデミックによって減少に転じる見込みだ。具体的には、2021年末までに14%の減少が想定される。

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【チャート4】移民や出稼ぎ労働者による母国への送金額は2020年に大幅縮小する。※2019年は推計値、2020〜21年は予測値。左軸目盛りの単位は10億ドル。

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上の【チャート4】は、2017〜2021年の出稼ぎ労働者による母国への送金額の推移をエリア別に並べたものだ。

例えば、「ヨーロッパおよび中央アジア」を見ると、2020年にほぼ200億ドル(約2兆1000億円)減っている。インドを含む「南アジア」の減少額は400億ドル(約4兆2000億円)近い。2021年にはどのエリアでも多少の回復が見られるものの、完全回復にはほど遠い。

新たに出稼ぎに出る労働者が減るとともに、帰国する労働者が増えることで、世界の出稼ぎ労働者の総数は「近代史上初めての前年比割れ」という結果になりそうだ。母国経済には当然のことながら大きなダメージだ。

【実態5】ビジネスと雇用への打撃

日本でも、2020年1〜11月までの飲食業の倒産件数が過去最多だった2019年を超える(帝国データバンク調べ)など大きな影響が出ているが、世界銀行によると、開発途上国の状況はもっともっと深刻だ。

「途上国の零細・中小企業を中心に、世界中の企業が深刻な負担をこうむっており、半数以上が債務不履行に陥っている、またはその瀬戸際にある」

それでも、企業は安易な解雇に走ることなく、雇用調整措置で何とか従業員を守り、未曾有の危機を団結して乗り切ろうとしている。

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【チャート5】世界銀行らによる「新型コロナウイルスによるビジネスへの影響に関する調査」への回答の一部。※「(全額・一部支給含む)有給休暇」が43%、「就労時間の削減」が32%、「賃金の削減」が24%、「レイオフ(一時解雇)」が19%。

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上の【チャート5】は、世界銀行が支援受入国との連携で実施した「新型コロナウイルスによるビジネスへの影響に関する調査」への回答の一部。多くの企業が解雇を避けて雇用を何らかの方法で維持している状況を示している

【実態6】学校閉鎖の状況

世界銀行によると、新型コロナ感染拡大による都市封鎖などの影響で、2020年3月末には「160カ国以上で何らかの学校閉鎖が義務づけられ、少なくとも15億人の児童生徒が影響を受けた」という。下の【チャート6】は当時の状況を地図上に落とし込んだもの。

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【チャート6】2020年3月27日の学校閉鎖状況。プレプライマリー(就学前教育校)、小中高等学校、大学を含む。インドでは3億2000万人、中国では2億7700万人、アメリカで7700万人、インドネシアで6800万人、ブラジルで5300万人など、多くの学校で教育に影響が及んだ。

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世界銀行はこの影響について、一時的あるいは短期的な学習機会の喪失だけでなく、長期的な「経済的機会の減少」につながると指摘する。

「学習機会の喪失と退学率の上昇により、児童生徒たちは世界GDPの10%近い、推定10兆ドル(約1050兆円)もの報酬を失うおそれがある

「各家庭が苦しい経済状況のなかで難しい支出判断を迫られるなか、退学率の上昇が懸念される。中等・高等教育機関の生徒はとくに心配だ。経済的ショックはあまりに大きく、各家庭は教育費を捻出できなくなり、一部の生徒は働きに出ざるを得ない。この世代が(退学したら)学校教育の現場に戻ってくることはないだろう」

(文:川村力)

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