- パンデミックによるリモートワークの浸透で、2020年はマイクロソフトにとって飛躍の年となった。
- 2021年、マイクロソフトはどのような動きを見せるのか。5人の専門家に予想してもらった。
- 大型の買収案件、ライバルZoomとTeamsの戦いの行方のほか、Surfaceやゲーム関連製品、そして大手テック企業に目を光らせる当局の取り締まりの動向などについて、専門家はどう見ているのだろうか。
2020年は大変な年だった。だがマイクロソフトにとっては大いなる飛躍の年になった。パンデミックによって、リモートワークへの強制的なシフトが起こったからだ。
例えばマイクロソフトのオンライン会議プラットフォーム「Teams」は、2020年3月時点で4400万人だったアクティブユーザー数が、11月には1億1500万人にまで急増した。
Teamsの高いエンゲージメントは2021年も維持されると予想する専門家や、それ以外の分野でも成長すると見込んでいる専門家もいる。
Business Insiderでは、2021年におけるマイクロソフトの動向を5人の専門家に予想してもらった。大型買収はあるのか、ゲームやクラウドの分野は引き続き成長が見込めるのか、Surface製品は飛躍するのか。専門家の見立てを紹介しよう。
セールスフォースと競合するCRM分野で大型買収が起きる
マイクロソフトのサティア・ナデラCEO(左)と、セールスフォースのマーク・ベニオフCEO。
Alex Wong/Getty Images/Business Insider
2021年にマイクロソフトが大型買収に動くと予想するのは、ウェッドブッシュ証券のアナリストであるダン・アイブスだ。
「100億ドル超規模の買収も選択肢にあると思う」と言うアイブスは、次の大型買収はCRM(顧客関係管理)分野になるだろうと見ている。具体的な買収先には触れていないが、マイクロソフトはこの分野でセールスフォースと競合関係にある。
100億ドルを超える買収は、マイクロソフトにとって異例の規模だ。同社が行ったこのクラスの買収というと、近年では2016年のLinkedIn(262億ドル)と2011年のSkype(85億ドル)だ。
一方セールスフォースは2020年12月、ビジネスチャットツールSlackを277億ドルで買収する計画を発表した。マイクロソフトに対する競争力強化のためというのが大方の見方だ。
マイクロソフトの営業責任者ジャドソン・アルソフは、セールスフォースがSlackを買収することで「マイクロソフトとセールスフォースの競争が激化する」と語る。
マイクロソフトは現状、セールスフォースと競合するCRMアプリケーション「Dynamic365」というサービスを提供している。
Dynamic365は急成長を遂げており、2021年にはセールスフォースに対する競争力がさらに高まると専門家は予想している。買収によってその競争力がさらに強化されることもありうる。
Business Insiderが取材した最先端技術コンサルティング会社フューチャラム・リサーチのアナリスト、ダニエル・ニューマンの予測はこうだ。
マイクロソフトのCRM事業は、同社の顧客データ・プラットフォームやビジネス・アナリティクスとともに「小さいながらも影響力を持つ市場シェアを獲得するだろう。マイクロソフトの統合的なテクノロジーが引き続き企業に大きな価値を提供する」
TeamsはZoomを上回るエンゲージメント数を維持
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マイクロソフトのTeamsは、Slack、Zoom、Google Meetなどの競合製品として重要度を増している。
パンデミックを機にリモートワークが広がり、2020年4月後半時点で750万人だったTeamsのアクティブユーザー数は、直近では1億1500万人にまで増加している。
クリエイティブ・ストラテジーズのキャロライナ・ミラネシは、エンゲージメント数の維持においてTeamsがZoomを上回ると予想している。Teamsのユーザーは、Zoomに比べてソーシャルや一般消費者が少ないためだ。
ミラネシによると、Teams(や競合のWebEx)は「機能を強化し、Zoomとの差を埋めた。企業をよく理解している点からも、企業向きだ」という。さらに、2021年にはTeamsが「デジタルとリアルの連携に注力する」とも見ている。
マイクロソフトは最近、幹部の株式報酬制度を変更した。変更後の株式報酬は、Teamsの月次アクティブユーザーの増加を反映する部分が大きくなっている。この制度変更は、Teamsの重要性が増していることを示唆している。
RBCキャピタル・マーケッツのアナリスト、アレックス・ズーキンは、投資家向けレポートの中で次のように記している。
「Teamsを取り込んだことで、マイクロソフトの製品ポートフォリオにおける新たなキラーアプリケーションが誕生したと言える。マイクロソフトのクラウドサービスにおいて、今後長年にわたって利益をもたらすだろう」
Teamsだけではない。フューチャラム・リサーチのニューマンは、ビジネス向けアプリケーションのMicrosoft 365やローコーディングを特徴とするPower Platformなど、マイクロソフト製品群の今後の成長を見込んでいる。
加えて、ミラネシはマイクロソフトのもう一つの製品「Microsoft Graph(開発者プラットフォーム)」が、今後グーグルやシスコの製品と競合すると予想している。
マイクロソフトは大手テック企業に対する当局の取り締まりを巧妙に回避
マイクロソフトのブラッド・スミス社長。
REUTERS/Lindsey Wasson
2020年の夏、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が公聴会での証言を求められるなか、マイクロソフトは対象から外れた。以来、フェイスブックとグーグルは、反トラスト法違反の疑いで複数の訴訟に直面している。
クリエイティブ・ストラテジーズのミラネシは、当局による大手テック企業に狙いを定めた取り調べが進むなか、マイクロソフトがその揉めごとに巻き込まれることは今後もないとして、次のように述べる。
「『テックは悪』とする政治的動きがあるなか、マイクロソフトは今後もそれに巻き込まれることはないだろう。同社はプライバシーに注力し、ソーシャルメディアによるサービスや商業活動を行っていないからだ」
反トラスト法の専門家によれば、マイクロソフトが公聴会の対象外となったのは事業内容によるのではなく、当局の“レーダー”に捉えられないように行動する能力のおかげだという。
ここ数年にわたり競合他社に向けられてきた当局の取り締まりをマイクロソフトが回避できているのは、マイクロソフトの社長ブラッド・スミスの影響力によるところが大きいという。
新コンソールのリリース、ストリーミングサービス開始…ゲーム事業は成長期待大
Xbox部門を率いるフィル・スペンサー。
Kevork Djansezian/Getty Images
マイクロソフトは2020年9月、ゼニマックス・メディアを750億ドルで買収することを発表した。同社は、ゲームパブリッシング企業ベセスダを傘下に持ち、「フォールアウト」や「ジ・エルダー・スクロールズ」といった人気ゲームシリーズを世に送り出してきた。
また、マイクロソフトは最近、同社のサービス「ゲーム・パス」にクラウド・ゲーム・ストリーミングを追加した。これによりゲームのプレイヤーは、Xboxタイトルのカタログにネットフリックスのような形でアクセスし、アンドロイド端末上でプレイできるようになった。
11月には新たにXboxシリーズXとシリーズSのコンソールをリリース。新発売のプレーステーション5と互角に渡り合えるだろう。
モーニングスターのアナリスト、ダン・ロマノフは、Business Insiderの取材に対して次のように語る。
「2021年におけるマイクロソフトのゲーム事業が楽しみだ。新コンソールがリリースされ、ベセスダを買収したことで新たなタイトルも登場する。クラウド・ゲーミングのベータ版も公開される」
クリエイティブ・ストラテジーズのミラネシも、2021年、マイクロソフトのXbox事業が成長するとの見通しを示している。
「Surface Duo」のリリースにより2021年はSurface飛躍の年に
マイクロソフトがリリースしたSurface Duo。Android OSを搭載している。
Mr.Mikla / Shutterstock.com
フューチャラム・リサーチのニューマンは、マイクロソフトのスマートフォン、ラップトップ、タブレットについて語る中で「Surface飛躍の年となるだろう」と予測する。
マイクロソフトは最近、本のように二つ折りになる2画面スマートフォン、Surface Duoをリリースした。OSはグーグルのAndroidだ。
マイクロソフトが発表した直近の四半期では、詳細な内訳は不明ながらSurfaceの売上は37%増加した。
「新しい形状と引き続き強いNotebooks需要によって、マイクロソフトはアップル製品にないプレミアム機器を求める人々にとって魅力的な選択肢となるだろう」とニューマンは語る。
クリエイティブ・ストラテジーズのミラネシも、マイクロソフトのSurface事業が2021年に成長すると見込んでいる。
マイクロソフトの最高製品責任者兼Windows統括責任者パノス・パネイはBusiness Insiderの取材の中で、これまでWindowsを最優先してきた同社が大きく方向転換し、Surface DuoのOSにAndroidを採用した理由を語っている。
クラウド・コンピューティングではAzureがシェアを伸ばす
サティア・ナデラCEO。
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マイクロソフトのクラウド・コンピューティングについて、専門家は当然のことながら2021年も成長を続けると予想している。
ウェッドブッシュ証券のアイブスは、マイクロソフトとAWSの差はさらに縮まると見ている。「Azureをはじめとするマイクロソフトの製品を採用する企業はさらに増え、2021年のクラウド市場ではマイクロソフトが大幅にシェアを拡大するだろう」
RBCキャピタル・マーケッツのズーキンは、2021年にマイクロソフトの成長を押し上げる重要なクラウド関連ニュースとして、クラウド事業においてマイクロソフトが国防総省と100億ドル相当の契約を獲得したこと(アマゾンはこの件で提訴している)、そして最近テレコム企業を買収したことを挙げている。
ズーキンは投資家向けレポートの中で「当社の調査によると、Azure複数年にわたり売上の拡大が計画されており、今後長期間にわたって成長すると考えられる」と述べている。
フューチャラム・リサーチのニューマンは、次のような見方を示している。「(クラウドは)AWSとマイクロソフトとの激しい競争が続くだろう。両社のイノベーションは非常に速い。オラクル、IBM、グーグルといったライバル企業もシェア獲得に動いている」
マイクロソフトは自社株買いと配当を進める
マイクロソフトのCFO、エイミー・フッド。
Stephen Brashear/Getty Images
さらにウェッドブッシュ証券のアイブスは、「利益が拡大し、巨額のキャッシュが生まれる」ことから、マイクロソフトが自社株買いと配当を進めると予想している。
前回マイクロソフトが自社株買いを発表したのは2019年9月のこと。このときは400億ドルの規模で、同時に配当を11%増加させている。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)