製菓メーカー5社が語る「コロナ禍のビジネス戦略」 売れた菓子、売れなかった菓子は?

国内大手製菓メーカーの代表的な商品たち。

国内大手製菓メーカーの代表的な商品たち。

撮影:吉川慧

新型コロナのパンデミックに見舞われた2020年。世界中で人の移動が制限され、飲食を伴う交流が自由にできなくなり、私たちはかつてない規模で生活の変化を強いられました。

そんな社会の移り変わりは、日々の暮らしの中で私たちの心を癒やしてくれる「お菓子」にも影響を与えました。お菓子には「食べて美味しい」というだけでなく、人と人とをつなぐコミュニケーションツールという側面もあるからです。

誰かと一緒にテーブルを囲み、お菓子を食べながら会話を楽しむ ——。そんなささやかな幸せを享受することも難しい時代。製菓メーカーも、ビジネスの難しい舵取りを迫られています。

国内で上場する大手製菓メーカー5社は、コロナ禍とどう向き合っているのでしょうか。取材を通じて見えたのは、生活様式の変化を受け止めつつ、厳しい時代の中でも「どうやってお菓子を楽しんでもらえるか」を考え、努力を続ける各社の姿でした。コロナ禍のビジネス戦略を5社に聞きました。

コロナ禍のお菓子をめぐる「共通点」5つ

まず、参考までに各社の決算説明資料から菓子部門の業績を振り返っておきましょう。

5社のうち4社(明治江崎グリコカルビー森永製菓)では、菓子部門・セグメントの売上高が前年同期比で5〜12%の減収に。唯一、菓子部門の売上高が増収となったブルボンも前年同期比1.1%増と、ほぼ横ばいとなりました。

数字を見ると、全体としてはコロナ禍でお菓子の売れ行きは低迷した……と言えそうです。

一方で、売れ行きの変化や新商品を見ると、コロナ禍のお菓子をめぐる「共通点」も見えてきましたた。お菓子業界の今と未来を紐解く5つのポイントを見てみましょう。

1:コロナ禍で消費者のライフスタイルが変化 → グミ・ガム・キャンディ類が苦戦

(写真はイメージです)コロナ禍ではキャンディやグミなどの売れ行きが低迷した。

コロナ禍ではキャンディやグミなどの売れ行きが低迷した(写真はイメージです)。

GettyImages/Douglas Sacha

各社とも減収の大きな理由として挙げたのが「コロナ禍で消費者のライフスタイルが変化したこと」でした。

特に影響が強く出たのは、2020年の上半期。緊急事態宣言を受け、リモートワークの拡大や学校の休校など、そもそも日常生活で外に出る機会が減ったことも影響しているようです。

外出先や移動のお供で楽しんだり、仕事の合間で食べたりするガムやキャンディなどの売れ行きが苦戦。観光客やインバウンドの需要が激減したことで、お土産向けのお菓子も低迷しました。

「コロナ禍の影響により、『巣ごもり消費』といわれる新たな需要が生じる一方で、テレワークの広がりによるオフィス需要の縮小など、『ニューノーマル』といわれる新たな生活様式が消費行動に変化をもたらしていると考えています」

「コンビニエンスストア向け商品が低迷。グミやガムは、通勤・通学やオフィス需要の減少により、大幅な減収」(明治広報)


「お土産需要が下がったことによる関連商品の落ち込み」(グリコ広報)


「(キャンディ類は)4月から5月の売上実績は前年80%を下回る状況と苦戦」(森永広報)


「土産物品などの需要に伸び悩みがみられた」(ブルボン広報)

カルビーも決算説明資料によると、主力のポテトチップスでは売り上げ増(410億円、前年同期比プラス1.6%)の一方、北海道土産として人気の「じゃがポックル」の売り上げは激減(7億円、前年同期比マイナス76.8%)。空港や駅の売店などでの不振が影響したようです。

2:巣ごもり需要でビスケット、チョコレートが好調

明治は主力のチョコレート商品が好調だった。ロングセラー商品のみならず新商品や季節限定の商品など、バラエティ豊かな品揃えも魅力だ。

明治は主力のチョコレート商品が好調だった。ロングセラー商品のみならず新商品や季節限定の商品など、バラエティ豊かな品揃えも魅力だ。

撮影:吉川慧

一方で、このコロナ禍でも好調に推移したお菓子もありました。特にビスケットやチョコレートなどのベストセラーです。

自宅で過ごす時間が増えたことで、小容量のものよりも大きな袋にまとめ、お菓子をパッケージした商品(大袋商品、ファミリーパック)の需要が高まりました。

「(主力のチョコレート商品は)『巣ごもり消費』によりロングセラーブランドや大袋商品は好調に推移した」(明治広報)


「レトルト食品やお菓子のファミリーパックなどの需要は高まった」(江崎グリコ広報)


「『おウチ時間』に、家族の絆をより強めるコミニュケーションツールとして『かっぱえびせん』など、カルビーのスナック菓子を親子で楽しんでいただきたい」(カルビー広報)

森永製菓は1923年発売の「マリー」、1937年発売の「チョイス」などロングセラーのビスケットを展開。世代を超えたブランドが強みだ。

森永製菓は1923年発売の「マリー」、1937年発売の「チョイス」などロングセラーのビスケットを展開。世代を超えたブランドが強みだ。

撮影:吉川慧

「巣ごもり需要により、ビスケットの売り上げが拡大しました。当社では店頭展開の強化を図り、市場を上回る好調を継続しております」(森永製菓広報)


「ビスケット品目を中心に大袋商品やロングセラー商品が順調に推移しました」(ブルボン広報)


3:「ニューノーマル」に合わせた商品も登場

カルビーは9月から新たなパッケージのシリーズ「otomo pack(オトモパック)」を発売。ニューノーマル時代との向き合い方を模索している。そら豆を丸ごと素揚げした「miino(ミーノ)」や、とうもろこしの素材の味を活かした「とうもりこ」などで展開する。

カルビーは9月から新たなパッケージのシリーズ「otomo pack(オトモパック)」を発売。ニューノーマル時代との向き合い方を模索している。そら豆を丸ごと素揚げした「miino(ミーノ)」や、とうもろこしの素材の味を活かした「とうもりこ」などで展開する。

撮影:吉川慧

2020年には、コロナ禍での新たな消費行動に合わせた商品開発も進展。新しい生活様式(ニューノーマル)の広まりを受けて「おうち時間」や「ひとりの時間」を楽しむ商品が登場しました。

カルビーが9月から展開する新シリーズ「otomo pack(オトモパック)」は、ウィズコロナ時代のニューノーマルなライフスタイルに合わせたものです。

「“コロナ疲れ”が蔓延する中において、仕事や勉強の最中にも、心を癒すための適度な休息“ひとやすみ”が重要だと考えている方々に、間食のお供(オトモ)として(楽しんでもらいたい)」(カルビー広報)

特徴的なのは、そのパッケージ。机の上に置きやすく、チャックが付いているので持ち運びができ、途中で口を閉めることもできる仕様です。

好きな時や場所で適量を楽しめることを企図した、カルビーの新たな商品ライン「otomo pack」

好きな時や場所で適量を楽しめることを企図した、カルビーの新たな商品ライン「otomo pack」

出典:カルビー

明治でも、コロナ禍に応じたチョコレートのプロモーションを展開しています。

「消費行動の大きな変化がある中で、チョコレートが持つ『楽しさ・癒し(ココロの健康)』を、お客さまに提供・提案できるよう、「チョコレート大作戦」というプロモーションを実施しています」

「『おうち時間をハッピー&スイートに』をテーマに、手作りチョコの訴求やおうち時間に役立つキャンペーンを実施したり、SNSなどを通じた情報発信を行っています」(明治広報)

江崎グリコでは、ベストセラー「プリッツ」で燻製素材を生地に練り込んだ新シリーズ「スモーキープリッツ」を発売。「『夜の自分時間』を楽しんでもらうこと」(江崎グリコ広報)をコンセプトに、お酒とのマリアージュを目指したといいます。

4:ロングセラー商品のリニューアルや新シリーズの動き

江崎グリコでは発売から87年を迎えた「ビスコ」を15年ぶりにリニューアルした。ロングセラー商品であっても、時代の変遷に合わせてアップデートする努力を続けている。

江崎グリコでは発売から87年を迎えた「ビスコ」を15年ぶりにリニューアルした。ロングセラー商品であっても、時代の変遷に合わせてアップデートする努力を続けている。

撮影:吉川慧

江崎グリコでは発売から87年を迎えた「ビスコ」を15年ぶりにリニューアル。「ビスコ史上最大のクリーム量」を実現し、話題になりました。

ドリンクでも1979年に登場した「カフェオーレ」で砂糖を50%カットする大規模なリニューアルを実施。「生乳本来の甘さにこだわった」(江崎グリコ広報)としています。

ブルボンでは2019年に発売したルマンドの新しいパッケージシリーズ「ひとくちルマンド」で新たなラインナップ「ひとくちルマンド ホワイト」が登場。品揃えの充実を図った。

ブルボンでは2019年に発売したルマンドの新しいパッケージシリーズ「ひとくちルマンド」で新たなラインナップ「ひとくちルマンド ホワイト」が登場。品揃えの充実を図った。

撮影:吉川慧

ブルボンも2019年に発売したルマンドの新シリーズ「ひとくちルマンド」で新たなラインナップ「ひとくちルマンド ホワイト」が登場。「チョコあ~んぱん」(1987年発売開始)シリーズでも新作「クリームあ~んぱん」を発売。品揃えの充実を図りました。

ロングセラーやベストセラーの商品は安定した需要を見込めることから、コロナ禍の中でも各社とも収益の下支えとして大きな役割を果たしたようでした。

「8月の『ハイチュウの日』に向けて新商品の発売やキャンペーン実施し、9月にはラムネの新商品を発売したことで、リカバリーをしています」(森永製菓広報)

5:健康志向の新商品が存在感

江崎グリコの新商品「パピベジ」。

江崎グリコの新商品「パピベジ」。

出典:江崎グリコ

加えて、各社とも従来からの健康志向の商品提案にも力を入れています。

明治は3月に新商品「TANPACT」シリーズを発売。厚労省によると日本人1人の1日当たりのたんぱく質摂取量は1950年代と同水準に低下。これを明治は「社会課題」と捉え、乳由来のたんぱく質を手軽に摂取できる商品開発を進めています。

江崎グリコでは、チューブ型のアイス「パピコ」(1974年発売開始)で新シリーズの野菜アイス「パピベジ」を発売。8 月には新フレーバーの「トマト&オレンジ」を投入。健康志向の高まりの中、手軽に野菜を摂取したい顧客の需要を狙います。

【総まとめ】各社のコロナ禍の受け止めは

国内大手製菓メーカーの代表的な商品。

国内大手製菓メーカーの代表的な商品。

撮影:吉川慧

100年に一度とも言われる「パンデミック」の時代に。それでも各メーカーは、リモートワークなども取り入れつつ、コロナ禍と向き合いながら「時代の変化」や「新しい消費行動」を受け止め、その中でどうやって顧客にお菓子を楽しんでもらえるかと模索する様子が伺えます。

「食と健康に携わる企業として、お客さまの生活の充実に貢献するとともに、商品を継続的かつ安定的に供給することは社会的責任」(明治広報)


「食料品製造企業としての使命や責務・社会的役割を認識」

「感染症対策を講じながら製造活動を継続し、徹底した品質管理のもと、安全・安心な食品をお客様に安定的にお届けする」(森永製菓広報)

ブルボン「お菓子の持つ力信じる」 災害時の支援は創業以来のDNA

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撮影:吉川慧

こうした製菓メーカーのコロナ禍の受け止めの中で記者にとって印象的だったのが、ブルボンの姿勢です。

ブルボンは1924年に創業した菓子メーカーですが、元々は新潟県柏崎にあった和菓子店でした。創業の経緯は、その前年に発生した関東大震災でした。

震災の影響で都心部から地方への菓子供給が絶たれると、この様子を見た創業者は地方での菓子の量産工場の必要性を認識。柏崎駅前でのビスケット製造を皮切りに事業を興しました。

こうした創業の歴史もあって、災害発生時など社会的困難が起きた時、どのような支援ができるかにこだわってきた経緯があります。

1995年の阪神淡路大震災や2007年の中越沖地震では支援物資を提供し、2011年の東日本大震災では義援金寄付。災害のたびにミネラルウォーターのパッケージや商品の包装も見直すなどしています。

今回のコロナ禍では、国産素材でマスクの生産も試験的に始めました。現在のところは自社工場などでの使用に限ってはいるものの「十分に(自社内で)行き渡るようなら、今後は次のステップも考えられる」(ブルボン広報)としています。

今回のコロナ禍に際して、ブルボンはBusiness Insider Japanの取材にこう述べています。

「昨今の行動を自粛して自由の利かない状況下においては、自己中心的な行動があったり、お互いを思い気遣う心が弱くなりがちです。

このような中でも、お菓子には人の心をやさしくしたり、コミュニケーションが弾んだり、笑顔を引き出す不思議な力があります。これからもお菓子の持っている力を信じて社会の人々とともに進んでいきたいと考えています」
(ブルボン広報)

(文・吉川慧

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