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SDGsは企業PRに使われ、真の環境問題や貧困の解決策にならない【山口周×斎藤幸平】

「地図はすぐに古くなる。でも、真北を常に指すコンパスさえあれば、どんな変化にも惑わされず、自分の選択に迷うこともない」

独立研究家の山口周さんはそう語ります。山口さんとさまざまな分野の識者が対話。自分の“思考のコンパス”を手に入れ、迷ったときに一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。

山口周_斎藤幸平

第3回目の対談相手は、経済思想史の研究者で大阪市立大学准教授の斎藤幸平さん。深刻な社会的格差や環境破壊を生む原因と分かっていながら、経済成長を求め続けてしまう。行き詰まる資本主義に対し、マルクスの新解釈によって解決策を論じた著作『人新世の「資本論」 』が、8万部を超えるベストセラーとなっています。

斎藤さんが提唱する策とは?


——斎藤さんの著書『人新世の「資本論」 』の「人新世」とは、現代を表す時代区分の一つで、「人類の時代および人類が地球の生態系など自然環境に大きく影響を及ぼす時代」を意味しています。まさに今、人間の経済活動によってさまざま環境問題が生じている訳ですが、斎藤さんは「SDGsを始めとした対策では問題の根本解決にはならない」「SDGsは大衆のアヘンである」と主張されています。山口さんはこの主張をどう思われましたか?

山口周氏(以下、山口):現在、世界中で一種のブームになっているSDGsですが、本書では、もうのっけから「SDGsで自己満足してんじゃねえ」という、斎藤さんのパンチが繰り出されていますよね。環境破壊を伴わざるを得ない経済成長と環境保護のためのサステナビリティ(持続可能性)とを両立させようとする。そのこと自体がすでに欺瞞だと。

僕も全く同感です。環境問題を解決することが経済成長の手段と捉えられている構造に大きな違和感を覚えていたので。そもそも、斎藤さんはなぜこうした問題意識を持ったのですか?

斎藤幸平氏(以下、斎藤): SDGsが目標として設定されたことで、持続可能性や貧困の問題、社会における公正さ、地球の環境問題について「みんなで考えていこうよ」という考え方が普及した。企業も対策を求められるようになった。これらは一歩前進かもしれません。

しかしその一方で、SDGsが、この危機の瞬間に必要なものになっているのかというとまったくなっていない。なぜなら17のゴール・169もの項目があり、どんな企業でもそのいくつかについて「うちはやってます」と簡単に言えて、儲けのための企業PRに利用できる構造になっているからです。

本来向き合うべきはビジネスモデル

国連特使のフォレスト・ウィテカー

SDGsは2015年に国連総会で採択された。写真は2016年にSDGsの掲示を背に国連で話をする俳優で国連特使のフォレスト・ウィテカー氏。

a katz / Shutterstock.com

例えば、最近だとマクドナルドが「フィレオフィッシュは天然のアラスカ産スケソウダラを使っているからSDGsだ」と言い、ユニクロも「うちのウルトラライトダウンはリサイクルしているからSDGsだ」と主張し、くら寿司も天然の魚を使うということで似たようなこと言い始めた。何でもかんでもSDGsに当てはめてしまっている。

でも、フィレオフィッシュがSDGsにかなっていたら無限に食べていいのか。ユニクロでじゃんじゃん服を買っていいのか。違いますよね。本来向き合わなければならないのは、こうした企業のビジネスモデルそのものです。今のファストフードやファストファッションのシステムこそが、地球環境を破壊している原因です。じゃんじゃん作って、すぐ捨てる。大量生産・大量消費・大量廃棄の問題こそが、解決しなければならないことです。

ところが、SDGsで満足してしまえば、環境破壊を必ず伴う資本主義システムを長続きさせることになっている。際限なく利潤を追求する資本主義のもとでは、環境危機を乗り越えられないという問題の本質から人々の目をそらさせる結果になるのです。

山口:SDGsという活動が、マーケティング手法として取り込まれ、企業の言い訳に使われてしまっているということですね。

斎藤:はい。まさに企業の免罪符として機能してしまっている。消費者側も「企業が環境のことを考えていてくれているから、私たちは特別なことをしなくても大丈夫なんだ」と思ってしまう。SDGsとかエシカル(倫理的であること)だとかいったコピーのついている商品を、選んで買いさえすれば、「社会や自然によいことをしている」という現実逃避ができてしまう。これは、非常に危ないと思います。

今、本当に変えなくてはならないのは、無限の経済成長を目指す資本主義というシステムそのものなのです。ところが、SDGsは経済成長を掲げています。

環境問題の責任を負うべきは超富裕層

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撮影:露木聡子

山口:だから、「SDGsは大衆のアヘンだ」ということですね。

しかし、とにかくお金を儲けて年収を上げ、どんどん消費をし、人にアピールできるような高級外車に乗って、また乗り換えてといったことがまだまだ人々の豊かさの象徴や基準になっています。法律など社会システムを変えたとしても、個人の豊かさに対するイメージや欲望のあり方そのものが大きく変わらないと社会のあり方を変えるのもまた難しいのでは?

イヴァン・イリイチというオーストリア出身の哲学者が言っていることなのですが、結局、経済成長であるとか、じゃんじゃん贅沢なものを買い替えて人にアピールするとか、そういうことを捨てた先に本当の意味での幸福な生活がある。このことを多くの人が具体的にイメージできないと環境問題の解決も難しいのではないかということを言っています。

斎藤:僕はマルクス的なアプローチをするので、現代の危機にはやはり階級的な問題が絡んでいると見ています。

今、人々の二極化が進んでいますよね。都心に住み、たくさん海外出張して、年収は1000万円を超え、大きなSUV車を乗り回すといったライフスタイルの人たちがいる一方で、非正規雇用で月収10万円台みたいな方たちが大勢いる。この2つのグループに対して、出すべきメッセージは違う。

山口:訴えかけるべき点が違うというか、別のアプローチが必要ということですか?

斎藤:はい。前者の富裕層の消費スタイルには規制が必要です。そして、後者の貧しい人たちには豊かになってもらう仕組みが大切です。

例えば、生きていくために絶対に必要な医療や教育、公共交通機関は無償にする。無償化していけば、人々の生活は安定し、豊かになります。それは同時に環境にとってもいい効果を及ぼします。

今の社会は、本来は必要ないモノを大量に作り、広告などで、必死に消費することを強制するという悪循環がありますよね。しかし、生活するのに必要なお金が減り、賃労働へのプレッシャーから解放されれば、そんな仕事をしなくてすむ。そのように現在の悪循環に終止符を打てば、労働時間も減り、環境負荷も減るという訳です。

前者の富裕層に対して強い規制が必要なのは、最も多くの二酸化炭素を排出しているのが、彼らだからです。世界の富裕層上位1%の人たちが出している二酸化炭素の排出量は、貧しいほうの世界人口の半分、30億人が出している二酸化炭素の排出量の2倍以上だという調査結果もあります。しかも、気候変動の被害をより多く受けるのは誰かというと、当然、より貧しい人たちな訳です。誰が責任を取るべきかは明白です。

——オックスファムの調査報告(Carbon emissions of richest 1 percent more than double the emissions of the poorest half of humanity」)ですね。1990年から2015年の間に排出された二酸化炭素の排出量に関するものです。

ベゾスは国家予算並みの資産を持つ必要がある?

アマゾンの倉庫で働く従業員。

アマゾンの倉庫で働く人たちからは労働環境の改善を求める声が上がっている。

REUTERS/Brendan McDermid

斎藤:二酸化炭素の排出を大幅に減らすべきなのは、超富裕層の人たちです。例えば、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスの資産は、すでに約2000億ドルにも達しています。彼は便利なプラットフォームを作ってくれたけれども、アマゾンは無限に膨張し、多くのものを破壊しています。例えば、地域の書店という図書文化は壊滅的な状況です。そのうえ、彼の会社の倉庫で働いている多くの労働者たちは劣悪な環境で働かされ、貧しい状況のまま。

これを放置して更に拡大を許していいのか。やはりどこかで強制的なブレーキをかけないといけないけれど、資本主義にはそのようなブレーキは内蔵されていません。

ここで重要なのは、資本主義における富の偏在化を是正することは、超富裕層による環境破壊の抑止にもなるということです。つまり、平等と持続可能性は、同時に追求すべき問題なのです。

もちろんベゾスもマーク・ザッカーバーグも気に食わないに違いないでしょう。でも、別に「みんな平等になれ」とか「みんな資産1000万円になれ」とか言っている訳ではありません。富裕層が資産1億円持っていてもいいし、10億円持っていてもいい。しかし、2000億ドル、つまり20兆円という、小さな国家の国家予算に匹敵するような資産を個人が独占しているのは、端的にいって馬鹿げているのです。

(明日の後編に続く)

(構成・三木いずみ、山口氏写真・伊藤圭、デザイン・星野美緒)


山口周:1970年生まれ。独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。World Economic Forum Global Future Council メンバー。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了後、電通、ボストン・コンサルティング・グループなどで経営戦略策定、組織開発に従事した。著書に『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』『ビジネスの未来』など。

斎藤幸平:1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。哲学博士。専門は経済思想、社会思想。著書『Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy』(邦訳『大洪水の前に――マルクスと惑星の物質代謝』)で、「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。最新刊『人新世の「資本論」』は8万部を超えるベストセラーに。

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