前回に引き続き、対談相手は最新刊『人新世の「資本論」』がベストセラーとなり、若手オピニオンリーダーとして注目を浴びる、経済思想史の研究者・斎藤幸平さんです。斎藤さんが語る暴走する資本主義への処方箋「脱成長コミュニズム」とは何か。後編で詳しく伺います。
——超富裕層が1つの国家予算並みの資産を持っているのは明らかにおかしい。富裕層には彼らのビジネスに規制を、逆に低所得者層には教育や医療の無償化によって豊かになってもらう。そして、今の格差社会をもう少し平等で社会にしていくというお話を前編でしていただきました。
こうした試みを斎藤さんは「脱成長コミュニズム」と呼び、提唱しています。この意味をもう少し教えていただけますか?
山口周氏(以下、山口):「脱成長コミュニズム」とは、 GDPで豊かさを測るような社会をやめようということでもありますよね。
斎藤幸平氏(以下、斎藤):そうです。GDPはどれだけ生産したか、という指標ですが、生産しても生存に必要な環境が破壊されれば、豊かだとは言えません。また、生きていくのに必要なものが超富裕層に独占されれば、当然、普通の人々は困窮する。豊かな自然や図書館など、GDPに反映されないけれど、エッセンシャルなものもたくさんあります。
じゃあ、本当の豊かさはどうすれば手に入るのか。
私は、あらゆる人々が生きていくのに必要なもの、例えば水や電力などを「コモン」という共有財産として民主的に管理することから生まれると考えています。あらゆる人が生きていくのに必要なものを市場から引き揚げてしまい、もっと平等や自然環境を重視する社会に移行していく。『人新世の「資本論」 』の中でも書きましたが、そのほうが、トータルでずっと幸せな社会になるのではないでしょうか 。