「こんまり」は夫婦合作だった。夫を信じ切っているから一緒に仕事ができた。近藤麻理恵さん

2021年から始まる新連載「だから、夫婦やってます〜パートナーシップを探る10の質問」。

ある調査によると、働く女性のキャリアを積み重ねる上で最もハードルになっているのが家事育児の負担や夫の理解のなさ、だと言います。好きな仕事、やりがいのある仕事を続け、キャリアを積み重ねていく上でも大事なのはパートナー選び。

男性側にとっても家事育児を分担し、パートナーのキャリアを応援することは、自身のキャリアにプラスの影響があるはずです。

自分の好きな道を選び、チャレンジし続けている人たちは、どんなパートナーを選んでいるのでしょうか。「女だから」「男だから」という性別役割分担にとらわれず、お互いの人生の目標を支え合って活躍する夫婦の日常には、ジェンダーギャップ後進国の日本を変えるヒントが詰まっていると思います。 

パートナーとして「この人」を選んだ決め手は? リスクをとる決断や心が折れそうなピンチを乗り越える時、どんな言葉が支えになったのか。妻と夫にあえて同じ10の質問を重ねることで深掘りしていきます。

第1回は、「こんまりメソッド」が日本だけでなく世界でも注目されている片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんと、プロデューサーでありKonmari Media inc.CEOの川原卓巳さん夫妻。

だから夫婦、やってます

撮影:千倉志野

—— 出会いのきっかけと結婚の経緯は?

卓巳さんとは同い年で、お互いに大学生の頃に出会いました。学生向けのイベント会場で名刺交換して以来、友人としての付き合いが始まりました。

第一印象は「熱い人」。「夢」と書かれたピンバッジを胸につけていて(笑)、「自分は将来、こんなふうに世の中をよくしたいんだ」と語っていました。同世代でこんなに志の高い人はそうそういないなと驚きつつ、私自身のテンションとも近いと感じて親近感を覚えました。

交際を始めたのは数年後に再会してから。遠距離恋愛の時期もありましたが、会った時の話題は仕事のことばかり。「片づけコンサルタント」という独自の道を選択した私の意思を、いつも尊重し、一番近くで応援してくれていた人です。

—— なぜ「この人」と結婚しようと思ったのですか?

熱量のレベルが近かったという理由が一つ。もう一つは、「ダメな部分も受け入れられる」と確信できたから。

ある日、卓巳さんが珍しく酔っ払って、詳細は控えますが、「普通なら引くかも」というくらいの姿を見せられたことがあったんです。その時、「なんてダメな人なの」と呆れながらも、「あれ? でも受け入れられているな、私」と気づいて。結婚しても大丈夫だなって思う決め手になりました。

最初は家事を全部エクセルで書き出した

近藤麻理恵さん

撮影:千倉志野

—— 日頃の家事や育児の分担ルールは?

私はもともと家事が好きで、卓巳さんは一人暮らしが長かったので、2人とも家事は苦ではないタイプ。とはいえ、分担の方法を決めようと、結婚当初は家事を全部エクセルに書き出して、どの家事をどっちがやっていることが多いかを可視化していました。お互いの得意・不得意を知るためですね。結果、洗濯系の家事は私が担当することに。デリケート洗いの分類とかにこだわりたいので……。

最近では、お互いのスケジュールを見て、比較的ゆとりがあるほうが家事を多めにするという暗黙のルールが成立しています。出張が続くなど家事に手が回らない時は、頑張り過ぎず、シッターさんにも助けてもらっています。

—— 子育てで大事にしている方針は?

普段から夫婦でよく確認し合っている心がけとしては、「親である私たちが無理をしない」ということ。親が頑張り過ぎて疲れ果ててしまうと、子どもたちにも笑顔を見せられなくなるので。

プラス、私が大事にしたいと思っているのは、日本の文化を教える日常習慣です。海外移住して改めて気づいた日本特有の細やかな精神性を忘れないでいたい。娘たちは生まれた時からアメリカで育っているので、気づくと言葉や生活習慣がアメリカナイズされがち。日本人であることを意識しやすいように、自宅では和食を積極的に作って、ご飯は土鍋で炊いています。

よく語りかける言葉は「大好きよ」。娘たちは「アイラブユー」と英語で愛情を伝えてくるのですが、私はあえて日本語で返すように。ありがたいことに、娘たちはとても幸せそうに育っています。

「信じ切る」には「信じる」瞬間の積み重ねが大事

—— お互いの自己実現を支援するために、大切にしてきたことは?

相手を信じ切ること。信じるだけではまだ弱くて、100%信じ切る。何を信じ切るのか。私は卓巳さんの能力や思いが本物であると信じ切っています。

「信じ切る」まで到達するには、「信じる」瞬間の積み重ねが必要。具体的には、日頃のコミュニケーションだと思います。思ったことは早めに口にして、疑問は残さない。毎朝、夫婦で30分〜1時間ほどかけてウォーキングする朝の散歩や、年に数回、お互いの誕生日や記念日のタイミングで「今考えていること、これからしたいこと」をスケッチブックに書き出す習慣で、気持ちを言語化して対話する時間を大切にしています。タイムラグをつくらないことがポイントです。

たとえこの人に裏切られたとしても構わない、というところまで信じ切れたら、共に取り組む仕事にも全力を注げます。初めての本格的な映像作品となったNetflixの撮影(「Tidyng Up with Marie Kondo」)も、心から楽しんで臨めたのは、同番組のプロデューサーを務めた卓巳さんを信じ切れたからだと思います。

近藤麻理恵さん

SXSW Music Film Interactive Festival 2017で。麻理恵さんは、“KonMari”の相性で親しまれ、アメリカで片づけブームを巻き起こした。

REUTERS/Brian Snyder

—— 夫婦にとって最もハードだった体験は? それをどう乗り越えましたか?

渡米してまもない頃、想定をはるかに超えて「こんまりメソッド」がアメリカでも話題となり、取材や講演の依頼が殺到しました。オファーに応えようとした結果、オーバーワークとなり、精神的にボロボロになってしまった時期がありました。もともと私は人前に出るのが苦手で、無理が続いていたのだと思います。

出版社が用意してくれた高層ホテルの部屋で、疲れているのに寝つけず、気づけば窓辺に立っていました。私の異変に気づいた卓巳さんが私を落ち着かせ、翌朝、「仕事を減らそう」と言ってくれました。

その後は本当に力を注ぎたい仕事だけに絞り、片づけの力で世界をもっと幸せにしたいという自分の使命が明確になりました。

「今の麻理恵さんは、心の位置が良くない」

—— パートナーから言われて、一番うれしかった言葉は?

「今の麻理恵さんは、心の位置が良くない」。私が仕事に対して偏ったこだわりを持ってしまったり、丁寧な向き合い方ができていなかったりした時に、言ってくれた言葉です。

いい時に背中を押してくれるだけでなく、悪い時にも軸を正してくれる。私以上に私のことを考えてくれるパートナーだと思えます。

近藤麻理恵さん

撮影:千倉志野

—— これからの夫婦の夢は?

今はお互い走り続けていますが、10年後くらいには子どもたちも大きくなるので、少しゆっくり過ごせるといいなぁ。

片づけると自己理解が深まり尊重し合える

—— 日本の夫婦関係がよりよくなるための提言はありますか?

夫婦間で信頼関係を築くためにおすすめしたいこととして、やはり仕事柄すぐに浮かぶのは「片づけ」です。特に、まずは“自分のモノ”の片づけを、自分でできるようになりましょうということです。

自分の持ち物一つひとつと向き合って、「これは今の自分にとってときめくものか?」と判断する作業を繰り返すと、自分の好きなことや得意なことが明確になるんです。夫婦それぞれが自己理解を深めた状態になると、お互いの個性を尊重しやすくなり、頼り合えるパートナーシップが生まれるはず。

家がスッキリして心に余裕ができるということはもちろんですが、自分の心を整えるという意味でも、片づけはぜひ試してみていただきたいですね。

—— あなたにとって「夫婦」とは?

一緒にいることでよりときめいて、お互いの人生を充実させることができる関係。

お互いの弱いところも認め合えたり、大変なことも乗り越えつつ、結果として前向きでハッピーな日々を送るご夫婦が増えるといいですよね。私たちもその一例になれるとうれしいです。

(後編の夫編に続く)

( 聞き手、構成・宮本恵理子、写真・千倉志野)


近藤麻理恵:1984年東京都生まれ。大学在学中の19歳から「片づけコンサルタント」としての活動を始める。リクルートエージェント勤務を経て、独立。2010年に出版した『人生がときめく片づけの魔法』は世界各国で翻訳され、現在までに1200万部発行。現在は、「こんまりメソッド」普及のための人材育成にも注力する。最新著は『Joy at Work』。

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