こんまりメソッドが世界に広まった裏には、夫であり、Konmari Media Inc. CEOの川原卓巳さんのプロデューサーとしての能力が存在した。
起業などで自分たちの夢を実現している夫婦にパートナーシップを10の質問で探る「だから、夫婦やってます」1回目の後編は片づけコンサルタント、近藤麻理恵さんの夫、川原さん。
夫から見た夫婦の転機や危機とは。
撮影:千倉志野
——出会いのきっかけと結婚の経緯は?
学生時代に参加したイベント会場で、たまたまエレベーターの前で紹介されて名刺交換したのが初対面です。華奢でひらひらとしたワンピースを着ていた麻理恵さんは乙女チックな印象でしたが、受け取った名刺にはすでに「片づけコンサルタント」という肩書きが印刷されていました。
6年後に再会した時、僕は人材教育系企業のコンサルタントとして忙しく働きながら、目の前のことに必死で“ここ以外の世界”で挑戦しようという勇気も持てていなかった。麻理恵さんは繰り返し、「あなたはもっと広い世界で力を発揮できる人だよ」と言って、僕の目を開かせてくれました。そんなふうに自分を丸ごと応援してくれた彼女を、人生の伴侶に選ぶのは自然なことでした。
——なぜ「この人」と結婚しようと思ったのですか?
プライベートだけでなく、ビジネスパートナーとしての信頼関係を深めていった流れの中に結婚があったという感覚です。
最初は“彼氏”として麻理恵さんの仕事を手伝い始め、会議の進行を仕切ったり、片づけの現場でゴミ袋を広げて手伝ったりするサポート役から。すでにミリオンセラー著者だった彼女は超多忙で、僕もすぐに本業と同じくらいの業務を抱えることになりました。
麻理恵さんは片づけの天才ですが、ビジネスとして不可欠な事務連絡や初対面の人との交渉は大の苦手。一方、僕は社交的でマルチタスクも器用にこなせるタイプ。得意なことが違って、かつ補い合えるのはよかったと思います。彼女が信じる片づけの価値を、僕の得意なことを活かして、もっと世界に伝えたいと思う気持ちが強くなりました。
早めに家事の感覚をすり合わせできた
——日頃の家事や育児の分担ルールは?
原則として、それぞれが得意な家事や、よりこだわりのある家事を分担するルールでやっています。例えば、「ゴミ捨て」では、ゴミを集めてまとめるのは麻理恵さんで、ゴミ捨て場まで運ぶのは僕。食事は、朝ご飯は麻理恵さん担当で、昼と夜はだいたい僕が作ります。こう見えて、冷蔵庫にある材料でパパッと作るのが得意なんですよ。
僕は麻理恵さんの仕事の調整をする役でもあるので、大きめの仕事をスケジュールに入れた時には「この時期は僕が家事を多めにやる」と頭に入れる。
結婚当初にやって良かったのは、2人で思いつく限りの家事をリストアップしてエクセルに書き出したこと。いわゆる「名もなき家事」を言語化することで、気づかないうちに相手がやっていた家事や、お互いに重視している家事を知ることができました。
男の一人暮らしに慣れていた僕にとっては「洗濯物は干した場所から取ってそのまま着る」が当たり前でも、麻理恵さんはちゃんと服は畳んでしまいたいし、シーツは毎日替えたいという人。できるだけ早めに家事感覚をすり合わせる時間を持つことは、やっておいて良かったなと思います。オススメです。
——子育てで大事にしている方針は?
子どもたちには愛情をこれでもかというほど伝えること。一緒にご飯を食べて元気に遊ぶ時間を大切にすること。スマホを見ながらではなく、ちゃんと目を合わせて会話する。
アメリカで子育てをしていて良かったと思うのは、家族間でも頻繁に愛情表現をしたり、他人同士でも道端ですれ違ったら「Hi!」と挨拶をしたりするコミュニケーション力を、自然と身につけられる点です。自分は愛されている存在であり、誰とでも友達になれるという自信を、子どもたちには与えていきたい。
ジャージの寝巻きでなくシルクのパジャマを
——お互いの自己実現を支援するために、大切にしてきたことは?
夫婦それぞれがときめいていられる状態にあることを、いつも確認し、優先してきました。
共に暮らす夫婦と言えども、何を心地いいと感じるかは全然違う。まずその理解が大事だし、嫌なことを「それは嫌」と言い合える関係でありたい。無駄な探り合いはしたくないので、「より良い関係をキープするために、ちゃんとダメ出しもしようね」と伝えてきました。
麻理恵さんはもともとときめきの感度が高く、快不快の判断が明確でちゃんと伝えてくれるから助かっています。僕はそこに抵触しないように、柔軟に自分のルールを変え、その変化を楽しめるタイプです。ある意味、変わることにこだわりのない性格だったのは良かったかも。
ジャージを寝間着代わりにしていた僕に、麻理恵さんがプレゼントしてくれたのが“シルクのパジャマ”。「寝る時こそ心地よさを大事にしないとダメよ」という言葉を、素直に受け入れられるかどうか。
一方で、僕がたまに頭を休めるためにお笑い動画や漫画に没頭してソファで堕落していても、放っておいてくれるのはありがたいです。「あなたにときめかなくなったから、手放すことにした」と言われないように、一生精進していきます(笑)。
アメリカでの挑戦があったから同志になれた
——夫婦にとって最もハードだった体験は? それをどう乗り越えましたか?
英語もできない状態で、海外に移住したとき。本当にきつかった。世界に片づけの価値を広げるために「えいや!」と思い切った訳ですが、親戚も友人もいない外国で、0歳児を抱え、お腹にもう1人いて……。今思えばすごい無謀ですよね。
当時は頼れるツテはなんでも頼って必死でした。最初に暮らしたシリコンバレーでの家探しを手伝ってもらったのは、たまたまオフィシャルサイトから問い合わせをしてくれた人。その彼女の友達を芋づる式に頼って、アシスタントやベビーシッターにスカウトして、出会った人全員の手を借りていましたね。
今は全米で有名になった麻理恵さんも当時はまだ知られていなくて、苦労の連続。夫婦で同じチャレンジを経験したことで同志になれた。あの共通体験があるから、これから先もなんでも2人で乗り越えられる自信があります。
「私の活動は卓巳さんの人生の前奏曲」
Netflixの番組「KonMari~人生がときめく片付けの魔法~」。プロデューサーは川原さんだ。
出典:ネットフリックス番組ページ
——パートナーから言われて、一番うれしかった言葉は?
「私の活動は、卓巳さんの人生の前奏曲。そこから先は、あなたが輝く番だよ」。
ミリオンセラーを出して有名人になっていた麻理恵さんと、何者にもなれていない自分を比較しがちだった頃、彼女は繰り返しこう言ってくれました。そして、僕の役割についても明確に「人の価値を見出して、その価値が活きる場所まで連れて行ってくれるプロデューサー」なのだと教えてくれました。
今、僕がありのままの自分の力を発揮して、思い切り仕事を楽しめているのは彼女のこの言葉があったからです。
——これからの夫婦の夢は?
今よりもう少しだけ、ゆっくりできれば……と言いながら、年明けから新しい大型プロジェクトも動き出します(苦笑)。麻理恵さんは片づけを通して、僕はプロデュースという役割を通じて、世界をより良くする活動を続けていくことは、これからも変わりないと思います。
振り返ると、出会った頃から僕たちが見てきた風景はものすごいスピードで変化してきました。でも、2人の内側にある生活はずっと変わらず、「朝ご飯の時間が一番幸せだよね」と思える。お金の使い方も変わらない。生活の基本がブレないから、安心してダイナミックなチャレンジができる。そんな感覚があります。
「さん付け」で呼び合うのはリスペクトを伝えたいから
——日本の夫婦関係がよりよくなるための提言を
男性陣に言いたいこととして、「女性(パートナー)を幸せにすることを最優先にして生きると、自分も幸せになる」。
結局、私もそうですが、男って女性に褒められると嬉しいんです。勝ち負けとか、プライドとかの気持ちより、「いかに女性に褒めてもらえるか」を追究していく方が、お互いにとって心地良く生きていられると思っています。
それこそ、「女性の手のひらで転がしてもらう遊びに乗るほうがいい」ぐらいの感じで。それを楽しめる男性のほうがハッピーになれるし、夫婦の諸問題も解決できるんじゃないかと思います。余分な男のプライドを手放してからが、本当の人生が始まるのではないかと考えています。
——あなたにとって「夫婦」とは?
一番信頼している他人。近過ぎるゆえに分かった気になって、つい所有物扱いしてしまうのが夫婦の落とし穴。相手に敬意をもって接することを忘れないようにしたいですよね。
そういえば、僕の本を読んでくださった方から「卓巳君の本なのに、何回『麻理恵さん』って出てくるんだよ」と突っ込まれたのですが……(笑)。僕たちがお互いのことを“さん付け”で呼び合うのは、リスペクトを伝え合う関係でいたいからなんです。いつまでも忘れないでいたい気持ちです。
(聞き手・構成、宮本恵理子、撮影・千倉志野)
川原卓巳:1984年広島県生まれ。大学卒業後、人材教育会社に入社し、コンサルタントとして勤務。2013年より麻理恵さんのマネジメント・プロデュース業を開始し、2016年にアメリカ移住後は世界展開を牽引。2019年に公開されたNetflixオリジナルTVシリーズ「Tidying Up with Marie Kondo」ではエグゼクティブプロデューサーを務め、エミー賞2部門にノミネートされる。初の著書が『Be Yourself 自分らしく輝いて人生を変える教科書』。