電気自動車(EV)世界最大手テスラに車載電池を供給するパナソニックが「最高のEV向け車載電池サプライヤー」に選ばれた。
Hollis Johnson/Business Insider
- UBSは、電気自動車(EV)向け車載電池メーカー大手7社の製品ランキングを発表した。
- UBSは技術、原料や材料、価格、製造工程に関するさまざまな指標をもとにランク付けを決めた。
- トップには日本のパナソニック、2位以下に韓国のLG化学、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が続いた。
自動車業界がEV生産の急増に対応を急いでいる。今後数十年のうちにガソリン車からEVへのシフトが一気に進むと太鼓判を押す専門家もいる。
自動車メーカーがいま迫られている最も重要な選択は、どこの車載電池を採用するか、ということだ。EVを構成するパーツのうち最も高価なのが電池で、航続距離や加速、耐用年数など車両の性能を左右する決定的な役割を果たす。
スイス金融大手UBSは大手メーカーのEV向け車載電池セル7製品を対象に、技術や材料、価格、製造工程に関連する指標ごとに評価し、ランク付けした。
以下にそのランキングを紹介する。指標ごとの採点や、UBSが付記した製品ごとの特徴は非常に参考になる。なお、電池セルの容量はアンペアアワー(Ah)で示してある。
【第7位】比亜迪(BYD)105Ah
比亜迪(BYD)の宋(ソン)EV。
Simon Song/South China Morning Post via Getty Images
種類:角型
搭載車種:BYD 宋(ソン)EV
技術・材料:7位
価格:6位
製造・サプライチェーン:7位
分析:正極材の「NMC111」(=ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、三元素の組成が3分の1ずつ)は比容量が小さいため(150mAh/g)、キロワットアワー(kWh、電力量を示す)のレベルに対して高くつく。材料コストに占める割合も最も大きい。また、人工・天然の黒鉛を半量ずつ混合した活物質と金属箔集電体から成る負極材のコストも、比較的高い。
セパレータは両面とも絶縁性のアルミナ(Al2O3)塗膜と薄膜高分子フィルムの二重構造を採用。塗膜なしの他製品より若干高くつく。
プラスチックなど非活性材料の使用割合が比較的高く、ハウジング(覆い)コストが13%を占める。
【第6位】サムスン(Samsung)94Ah
種類:角型
搭載車種:BMW i3
技術・材料:5位
価格:5位
製造・サプライチェーン:6位
分析:正極材活物質の「NMC111」は電力量のレベルに対して高くつく。コストに占める割合も最も大きい。正極の活物質が電池セル全体に占めるコストが大きいと、価格の揺らぎも大きくなる。負極材のコストは活物質と箔集電体に二分され、アルミナ塗膜など機能性物質による追加コストもある。
ハウジング設計が複雑で、エネルギー密度がやや低いことから、ハウジングコストが平均より確実に高い。電解液量が他の競合電池セルより多く、それが全体コストを引き上げている。
【第5位】寧徳時代新能源科技(CATL)70Ah
Martin Schutt/picture alliance via Getty Images
種類:角型
搭載車種:UBSレポートに記載なし
技術・材料:6位
価格:7位
製造・サプライチェーン:5位
分析:高機能のコアシェル型材料を使用しており、「NMC622」(ニッケル6マンガン2コバルト2)の正極材よりコストがかさむ。負極材には天然黒鉛を採用し、活物質と箔集電体の間にほぼ均等分散させることで、コストを引き下げている。
電解液量が圧倒的に多く、全体コストの13%を占める。ハウジングコストも全体の14%を占めるが、角型EV車載電池としては想定範囲におさまっている。
【第4位】SKイノベーション(SKI)60Ah
起亜自動車(KIA)のニロ(Niro)EV.。
Alanis King/Business Insider
種類:パウチ型
搭載車種:起亜自動車(KIA)ニロ(Niro)EV
技術・材料:4位
価格:4位
製造・サプライチェーン:4位
分析:正極材の活物質コストは電力量に見合うものだが、材料コストの最大部分を占めるという意味では下位の電池セルと変わらない。薄型(6マイクロメートル)の箔集電体に加え、重量の大きさが活物質コストの割合を引き上げる結果になっている。
セパレータは1つだが、両面をベーマイト(=アルミナ水和物の一種)皮膜処理しているため、パウチ型にしてはコストが高い。電解液量は少なく、したがってコストも抑えられている。効率的な設計により、ハウジングコストは全体の4%と最小化されている。
【第3位】寧徳時代新能源科技(CATL)180Ah
東風日産(日産自動車と東風汽車の合弁会社)の工場。
Xiao Yijiu/Xinhua via Getty Images
種類:角型
搭載車種:東風啓辰(日産自動車と東風汽車の合弁)ヴェヌーシア D60EV
技術・材料:3位
価格:1位
製造・サプライチェーン:3位
分析:単位面積重量が約345g/cm2と大きい「NMC811」(ニッケル8マンガン1コバルト1)を正極材の活物質として使うことで、パフォーマンスと材料コストの優れたバランスを生み出している。ただし、薄型(6マイクロメートル)の銅箔集電体を使用していることに加え、負極の活物質も重量があるため、活物質のコストが電池全体に占める割合は多くなっている。
セパレータはベーマイト(=アルミナ水和物の一種)で特殊コーティング処理されており、その点では他の車載電池セルとコストは変わらない。電解液量がきわめて少なく、全体コストに占める割合は小さい。
効率的な設計(プラスチックや集電部のタブが少ない)により、角型ハウジングのコストは全体の9%(1キロワットアワーあたり6.28米ドル)に抑えられている。
【第2位】LG化学 60Ah
LG化学の車載電池を搭載するシボレー・ボルト(Chevrolet Bolt)EV。
Matthew DeBord/Insider
種類:パウチ型
搭載車種:シボレー・ボルトEV
技術・材料:2位
価格:3位
製造・サプライチェーン:1位
分析:正極材は全材料コストの64%を占める。非活性材料と箔集電体のコストはマイナーシェア。薄型(8マイクロメートル)の箔集電体と人工・天然の混合黒鉛を採用した、単位面積重量の大きい負極材は活物質コストのシェアを引き上げている。
効率的な設計のおかげでハウジングコストは全体の4%(1キロワットアワーあたり3.10米ドル)に抑えられている。
この容量60Ahのパウチ型電池は製造拠点をポーランド(ヴロツワフ)に移転させることで、製造コストを7%、つまり1キロワットアワーあたり7米ドル減らせる可能性がある。主な原因は労働人件費の削減だ。中国に製造拠点を置くことでも同様の効果が期待できる。
【第1位】パナソニック 4.8Ah
パナソニックとテスラが共同運営する車載電池工場「ギガファクトリー」の紹介動画。
Panasonic North America YouTube Official Channel
種類:円筒型
搭載車種:テスラ・モデル3
技術・材料:1位
価格:2位
製造・サプライチェーン:2位
分析:コバルト使用量のきわめて少ないニッケル酸リチウム(NCA)を採用することで、テスラは正極材コストを44%削減できた。他の競合より低コストであるだけでなく、不可欠のレアメタル供給に関するリスクを低減することにも成功した。
人工黒鉛とケイ素系材料(SiOx)のブレンドを採用したことで、負極材に占める活物質のコストは若干増えた。セパレータのコストは競合と同水準の6%、電解液量はきわめて少なく、コスト削減に寄与している。
サイズを小さくして(大型の電池セルに比べると活物質あたりのハウジングコストが余計にかかる)円筒状の設計にしたことで、ハウジングコストは平均を大きく上回って16%に達している。
(翻訳・編集:川村力)