ロシア海軍の航空母艦、アドミラル・クズネツォフ。
AP
- ソビエト連邦の空母はあまり知られておらず、運用されていた少数の空母もアメリカの空母と同じような用途のものではなかった。
- これらの空母はソ連時代にはあまり貢献しなかったが、いくつかの空母は現存しており、ロシア海軍にとっても重要な戦力となっている。
第二次世界大戦では、航空母艦が海軍の主要な戦力だったことは間違いない。アメリカ、イギリス、そして日本の空母は、第二次世界大戦の海戦において重要な役割を果たした。そして第二次大戦後の冷戦中には、アメリカが空母によって軍事的な優位性を得たことで、その重要性を確固たるものにした。
一方、ソビエト連邦の空母はあまり注目されたことがない。1967年から1991年の間、ソ連海軍では3つの異なるクラスの7隻の空母(ヘリコプター巡洋艦や航空巡洋艦を含む)が就役したが、ソ連の空母は西側の空母と異なり、長距離攻撃作戦を支援するように設計されていなかった。むしろ、それらは防衛的な水上戦力であり、航空機よりも大量のミサイルに依存していた。
建造されたのは3つのクラス
ソ連のモスクワ級ヘリコプター巡洋艦、レニングラード。1988年。
US Defense Department
ソビエト海軍は長い間、空母を保有することを望んでいた。しかしソビエトの指導者は海軍よりも陸軍と空軍を優先することを選んだ。
1927年から最初の空母が完成する1965年までの間に、少なくとも5つの空母開発プロジェクトが提案され、キャンセルされていった。1967年に就役したレニングラードは、モスクワ級ヘリコプター巡洋艦の2番艦だ。この船は原子力潜水艦を攻撃するためのもので、固定翼航空機用の長い飛行甲板は備えておらず、その航空戦力はヘリコプターのKa-25(カモフ25)あるいはKa-27(カモフ27)14機で構成されていた。
モスクワ級に続いて、8年後には本物の空母であるキエフ級航空母艦が登場した。 1番艦のキエフには長い飛行甲板があり、12機のヘリコプターと12機の垂直離着陸戦闘機Yak-38を搭載していた。 キエフ級航空母艦は4隻建造されている。
アドミラル・クズネツォフ級航空母艦はソ連の最後の空母で、ソ連の崩壊前に完成したのは1隻だけだった。 そのアドミラル・クズネツォフは傾斜の付いた「スキージャンプ」と飛行甲板を備えており、航空戦力は18機のSu-33(スホーイ33)と12機のヘリコプターで構成されていた。
ミサイルで完全武装
ソ連のモスクワ級ヘリコプター巡洋艦、レニングラード。1990年4月。
US Defense Department
ソ連の空母の航空戦力は、NATO陣営の空母よりはるかに小さいものだった。それは彼らの主要兵器がミサイルだったからだ。
ソ連の空母は対潜水艦と味方潜水艦の支援を目的としたものであったため、モスクワ級、キエフ級ともに対潜ミサイルシステム、RPK-1 Vikhr(ヴィフリ)を装備していた。これは核弾頭搭載可能なミサイルで、その核弾頭は最大10キロトンの威力を有し、水面下約200mで爆発する。それらのミサイルは8発を搭載できる回転式マガジンに装備されていた。
また、モスクワ級には、RBU-6000対潜迫撃砲2基と、防空ミサイルM-11シュトルム48基が搭載されていた。3隻のキエフ級は、RPK-1Vikhrシステムに16発の対潜ミサイル、4基のツインランチャーに8発の長距離対艦ミサイルP-500を搭載していた。P-500は射程550km以上で、TNT500kgの通常弾頭または350キロトンの核弾頭を装備することができる。その他、合わせて100発以上の対空ミサイルが防空体制を構成していた。
ソ連のキエフ級航空母艦、ミンスク。1983年2月。
US Air Force/Staff Sgt. Glenn Lindsey
最後のキエフ級であるバクー(後にアドミラル・ゴルシコフに改名された)は、12発のP-500、200発近い対空ミサイル、2基のRBU-6000ランチャー、100mm砲2門を装備していた。
ソ連最後の空母であるアドミラル・クズネツォフは、艦首の「スキージャンプ」のすぐ前にレーダー誘導対艦巡航ミサイルのP-700グラニート12基を装備していた。射程距離は通常弾頭で約550km、750kgの通常弾頭または350キロトンの核弾頭を搭載することができた。この空母には190発の対空ミサイルとUDAV-1(RBU-1200)対潜ロケットランチャー1基も搭載されていた。
これらの戦力は、ソビエト海軍の防衛的な基本原則に沿ったものであり、ソ連の領海での交戦でアメリカ軍の艦船(特に空母)を破壊することが目的だった。ミサイルが主力装備であったことで、ソ連が空母を領海外に送ることも可能になった。ソ連の空母はすべて黒海沿岸、現在のウクライナで建造されていたので、どこに行くにもトルコ海峡を通過しなければならなかった。1936年に調印されたモントルー条約によってトルコ海峡を空母が通行することはできなかったが、ソ連はこれらの船を「航空巡洋艦」と呼び、トルコが通行を許容する言い訳になった。
ソ連崩壊後の空母
インド海軍の空母、ヴィクラマーディティヤ。
Reuters
ソ連の空母は何度も航海に出て、いくつかの演習に参加したが、その行動が確認されたことはあまりなかった。また、アドミラル・クズネツォフは問題を抱えており、修理のために予備の部品を積んだ貨物船と、故障の場合のためのタグボートを常に伴っていた。
アドミラル・クズネツォフ以外のすべての空母は、1991年から1996年の間に退役した。キエフ級の2隻(キエフとミンスク)は最終的に中国企業に売却され、それぞれホテルと博物館になった。
アドミラル・ゴルシコフは2004年にインドに売却された。そしてスキージャンプと適切な飛行甲板の増設など、長期に渡る大規模な改装の後、2013年にヴィクラマーディティヤと名を変えてインド海軍に就役した。ヴィクラマーディティヤの航空戦力は、ロシア製のMiG-29K(ミグ29K)戦闘機26機だ。
中国の空母、遼寧。2017年7月。
Reuters
1998年、アドミラル・クズネツォフの未完の姉妹艦ヴァリャーグは、カジノにするという名目でウクライナから中国に売却されたが、大規模な改装の後、2012年に遼寧として中国海軍に就役し、中国初の空母となった。
現在ではまったく新しいクラス(001型と呼ばれている)になった遼寧の航空戦力は、24機のJ-15戦闘機(ロシアのSu-33の中国版)と16機のヘリコプターで構成されている。
その7年後、中国は第2の空母、山東(002型に分類される)を就役させた。それは遼寧よりも大きく、より多くの航空機を搭載できる。ソ連とは異なり、中国の空母はアメリカの空母のように、航空機を使った攻撃的な作戦に重点を置いて運用することを意図しているようだ。
ロシア海軍でも問題児
ロシアの空母、アドミラル・クズネツォフ。2016年10月17日、ノルウェー沖の公海上で。
Reuters
唯一の空母、アドミラル・クズネツォフはロシア海軍にとって依然として問題児だ。
2016年にシリアに展開した際、クズネツォフの航空機は420回出撃したが、空母のケーブルに問題があったために2機が失われ、空爆を続けるために全機を内陸部のロシアの空軍基地の移さなくてはならなくなった。
クズネツォフは2017年以来、あと20年寿命を延ばすことを目的とした改装を行っている。この改装ではミサイルサイロを撤去して、新しい電子機器と対空システムを搭載し、50機の航空機を搭載できるようになると見られている。
しかし、この改装でもトラブルがあった。2018年、船を乗せた浮きドックが沈没し、70トンクレーンが落下して飛行甲板を破壊した。その1年後には火災が発生し、作業員2人が死亡、少なくとも11人が負傷した。今もまだ改装は続けられおり、ロシアの情報筋によると2022年に海上でテストを行う予定だ。
[原文:The Soviet Union is long gone, but its aircraft carriers live on]
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)