「キューサイは尊敬する先輩」ユーグレナ永田副社長に聞く、「青汁」買収の意図

ミドリムシ(ユーグレナ)を使った健康食品やバイオジェット燃料を開発するバイオベンチャー・ユーグレナが、投資ファンドをもつアドバンテッジパートナーズ、東京センチュリーと共同で、青汁通販の大手「キューサイ」を買収する。

まずは3社で特別目的会社を設立し、キューサイの全株式を保有する、コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスから全株式を取得。その後、特別目的会社へのユーグレナの出資比率を高め、2021年末までにキューサイをユーグレナの連結子会社化する方針だ

ユーグレナの主力事業は、ミドリムシを用いた健康食品や化粧品を販売するヘルスケア事業。売り上げ規模は、ユーグレナの全売上の9割以上となる約130億円。

一方、キューサイの健康食品や化粧品事業の売り上げ規模は、ユーグレナのヘルスケア事業の倍近い250億円規模。顧客数も、シニア層を中心に37万人と巨大だ。

出資割合

キューサイ買収の出資割合。出資比率が最も大きいのはアドバンテッジパートナーズ。

出典:ユーグレナ

ユーグレナと同分野で、長年大規模なマーケットを維持してきた老舗企業であるキューサイを連結子会社にすることで、ユーグレナはいったい、今後何をしようとしているのか。ユーグレナ・副社長の永田暁彦氏に独占インタビューした。

「青汁」と「ミドリムシ」の協力関係。ユーグレナのメリットは?

永田さん

ユーグレナ副社長の永田氏。写真は2019年9月に撮影したもの。

撮影:的野弘路

——ユーグレナがキューサイを買収するメリットはどういったところにあるのでしょうか?

ユーグレナ副社長・永田暁彦氏(以下永田氏):まず、コンソーシアム(SPC)※としては、ユーグレナが強みとする微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)をはじめとする独自素材や、サステナビリティなどESG/SDGsに主軸をおいた独自ブランディング、デジタルマーケティングのノウハウをキューサイに提供することで、互いの企業価値を高めることができると思っています。

また、ユーグレナはベンチャー企業です。55年の歴史を持ち、同じヘルスケア通販事業で業界屈指の売り上げ規模を誇るキューサイは、上場以来、目標としてきた尊敬する先輩企業にあたります

キューサイが強みとするTVCMやコールセンターのノウハウや商品開発体制は、ユーグレナとして学ぶ点が非常に多いはずです。今後のユーグレナの事業運営の改善・拡大に役立つと思っています。

※アドバンテッジパートナーズのサービスであるファンド(APファンド)、ユーグレナ、東京センチュリーなどとともに設立した、キューサイの株式取得のための特別目的会社。

——今回の買収は、中長期的な展望として、バイオ燃料事業をはじめとした先進投資分野への投資資金確保のためのものという意味合いが強いのでしょうか?

永田氏:ユーグレナグループとして、ヘルスケア事業の成長で得たキャッシュによって、バイオ燃料事業をはじめとする先端投資領域とソーシャル領域に投資を行っています。逆に、先端投資領域とソーシャル領域におけるブランド価値をヘルスケア事業に波及させる関係にあります。

今回の買収によって、ユーグレナとして、キューサイの強みを吸収し事業連携を進めることでユーグレナのヘルスケア事業を強化することや、シナジーを創出することを実現しようと考えています。

シナジー効果による売り上げ目標などの具体的な数値や、結果が出てくるタイミングについては、現時点で予想が困難なので、コメントは差し控えさせていただきます。

——発表資料には、「キューサイを『ウェルエイジング支援カンパニー』へと進化させる」とありました。具体的にキューサイはどう変化していくのでしょうか。将来的にキューサイブランドへのユーグレナ(ミドリムシ)の展開もありますか?

永田氏:(共同で株式取得をする)APや東京センチュリーのノウハウによって、商品ラインアップの拡充やブランディングを強化するとともに、ユーグレナはデジタルマーケティングのナレッジ提供を中心にキューサイに協力をしていく予定です。

その上で、キューサイの顧客基盤をシニア層(65歳以上)からプレシニア層(40代後半〜65歳)へ拡大することを目指しています。

具体的な事業戦略については、現時点での回答は差し控えさせていただきます。

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ユーグレナの主力商品「からだにユーグレナ」。ミドリムシの栄養素としての可能性を引き出した商品だ。

撮影:今村拓馬

——ユーグレナの主力商品「からだにユーグレナ」とキューサイの青汁製品は、いわば競合です。2021年末の子会社後、キューサイブランドはどうなっていくのでしょうか。

永田氏:キューサイとユーグレナは同じ健康食品・化粧品通販を主力事業として展開しているという点で外見的には競合関係にありますが、健康食品・化粧品の通販業界は寡占市場ですので、競合による直接的な影響は限定的だと認識しています。

ユーグレナグループにおいても、過去のM&A先をはじめとしてユーグレナ以外のブランドが連結売上高のうち一定の割合を占めています。キューサイのブランドも引き続き維持することを想定しています。

——連結子会社後、ユーグレナの倍近い事業規模の会社を子会社としてマネジメントしていくことになると思うのですが、マネジメントを大きく変えた際に、キューサイのこれまでの利益を維持できるのでしょうか?

永田氏:投資経験が豊富で経営改善を得意とするアドバンテッジパートナーズが経営改善をしばらくの間リードすることを想定しています。アドバンテッジパートナーズが有する経営改善・PMIのノウハウが積極的に展開されれば、収益拡大を実現することが可能であると考えています。

——ユーグレナは「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げています。連結子会社となったキューサイでも、同様の取り組みを推進していくことになると思うのですが、そのコストがキューサイの利益率を圧迫することにつながることはありませんか?

永田氏:資材の切り替えに伴うコスト増等、確かに短期的には利益率に対して影響すると考えられます。ですが、サステナブルな取り組みはお客様からの支持の拡大につながり、中長期的にはプラスだと考えています。

イメージカット

老舗企業のキューサイとバイオベンチャーであるユーグレナ。企業カルチャーの融合は可能なのだろうか。

撮影:今村拓馬

——企業文化として、コカコーラ傘下から売却される老舗企業と、スタートアップ企業であるユーグレナの間には、カルチャーに大きな差があるのではないでしょうか。

永田氏:キューサイの神戸聡代表取締役社長も、キューサイが 「健康食品・化粧品の通販企業」から「ウェルエイジング支援カンパニー」を目指すことに認識の違いはありません。

また、ユーグレナに連結化した後も、当面はアドバンテッジパートナーズのリードの元、東京センチュリーとも連携してキューサイの企業価値向上に取り組む方針になっています。

出資後、すぐにキューサイがユーグレナの傘下に入り、ユーグレナのカルチャーに順応する必要があるわけでもありません。ですので、時間をかけてキューサイ社員とユーグレナとの間でコミュニケーションを取っていきたいと考えています。

ユーグレナは2012 年の東証マザーズ上場以降、キューサイの徹底した品質管理、お客様との強固な信頼関係、商品開発力に見習うべき点を多く感じるとともに、常に理想の姿として目指してきました。

一方、ユーグレナはグループ会社に若年層向けのデジタルマーケティングを得意とする会社も有しているので、キューサイの顧客層に対して補完性があると言えます。

事業連携を強化することで、若年層からシニア層までを網羅的にカバーし、お客様のサステナブルな健康を実現するヘルスケア企業グループを実現できると考えています。

(文・三ツ村崇志

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