テスラが2020年9月に発表した新型「4680」セル。
Tesla/Youtube
- テスラの新型「4680」車載電池は「最高ランクの」設計だと、米カリフォルニア大学サンディエゴ校のシアリー・マン教授は評価する。
- ただし、マン教授によれば、テスラは単独ではその野心的な目標を達成できないという。全世界で年間10テラワットアワーの生産を実現するには、他のパートナーの力が必要になる。
電気自動車(EV)世界最大手テスラが2020年9月に開催した電池事業に関するイベント「バッテリー・デイ」は、金属学と化学工学の世界で大きな話題になった。
同社が同イベントで発表した、新開発の円筒形電池セル「4680」は、現在使われている「2170」セルよりかなり大きい。
4680セルはまだ試作段階で、商用生産は2022年以降になる模様だが、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)やテスラのエンジニアたちは、すでにこの新たなセルの構造的特徴を活かした新型車両の設計に向けて自信をのぞかせている。
ひと言で言うと、新設計のセルでは、(電池内の)集電体から電気を取り出し、放電と充電を行うための導電部「タブ」が廃止された。また、サイズが大きくなったことで容量と出力が増え、生産速度は上がり、一方でコストが減る。
また、従来の2170セルは、複数のモジュールを組んで電池パックにし、それを車体のフロアに敷き詰める方式を採用していたが、新型の4680セルは車体中央部に電池セルを直接組み込む(=シャシーの一部とする)ことで剛性を高め、同時に部品点数を減らして外装部材などのコストを削減した。
この新たな技術を高く評価するのが、カリフォルニア大学サンディエゴ校でナノ工学・材料科学を専門とするシアリー・マン教授だ。同大サステナブル電力・エネルギーセンターの初代センター長でもある。
テスラの新型「タブレス」設計について、マン教授は「工学的に大きな成果」と評価する。
「タブによる(電気的)接続の脆弱性は以前から大きな問題で、テスラはそれを完全に解決した」
大学の研究者が思いつかない「圧倒的イノベーション」
テスラは上写真のような「タブ」のある脆弱な設計の電池を、「タブレス」にリプレースしようと考えている。
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直径46ミリ・長さ80ミリの「4680」セルは、10年以上同分野の研究を続けてきたマン教授にすら理解できないポイントがいくつもあるという。
「例えば、(正負両極の)基盤シートとセパレーターをロール状に巻いてある構造について、基盤シート上にどんなふうにパターンがデザインされている(からタブを廃止できる)のかわからない。より詳しく解析するのが楽しみだ。
ほかにもさまざまな工夫が凝らされていると思う。物理特性の面から見ても非常に面白い」
すべての電子が小さなタブ(への経路)に集中せず、セル内で電流が分散されるのがポイントで、従来の2170セルより(電気抵抗が減ることで)放熱性能が改善されると、マン教授は指摘する。
さらに、マン教授は4680セルが「わたしの知る限りまったく新しい技術であり、きわめてイノベーティブだ」と絶賛する。
「大学の研究者グループのなかでは、これまでにこうした設計が検討されたことはない。このサイズの電池について議論されることもほとんどない」
「世界にはまだまだ電池が足りない」
渦巻き状の新型「4680」電池セル。
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すでに多くのメディアに報じられているように、テスラが電池開発について掲げた新たな目標は、容量を大きく増やしつつ、コストを半分以下に引き下げることだ。
「バッテリー・デイ」でプレゼンしたテスラのバイスプレジデント、ドリュー・バグリーノ(パワートレイン・エネルギー工学担当)は、この野心的な目標を達成するためには、より性能の高い新型電池セルを生み出すしかないとした上で、2030年までに年間3テラワットの生産体制を整えると意気込んだ。
世界の年間電力消費量がおよそ18テラワットであることを考えれば、テスラの生産目標はとんでもない数字だとすぐにわかる。だが、イーロン・マスクCEOは、すべての移動を電気自動車(EV)に置き換えれば、10テラワット相当になると試算する。
マン教授は「(EV需要が)それくらいの規模になれば、いろんな電池技術の選択肢が出てくる」とし、すでに市場投入されているもの以外にも、世界中で開発が進められている「夢の技術」(マン教授)である、全固体電池の実用化の可能性にも言及した。
マン教授によれば、技術開発が予想通り進んで、例えばテスラが目標とする2〜3テラワットの生産体制を確立し、他社がさらに2〜3ワットを生産できたとしても、10テラワットの大台には届かない。
したがって、米ゼネラル・モーターズ(GM)が自社開発を進めてきたパウチ型電池セル「アルティウム・バッテリー」など、他の新型電池セルにも大きな可能性があるという。
「世界はもっともっと電池を必要としている。新たな電池メーカーが登場するだけでは足りない。官民挙げてその動きを支援していくことが大切だ。エンジニアが増えればいいという話ではなく、社会全体が変わっていく必要があるのだ」
(翻訳・編集:川村力)