「地味だが決して真似できない」ワークマンの強さの本質。データ分析や戦略だけでは語れないこと

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ワークマンは従来の作業服だけでなく、若い世代や女性向けの業態を打ち出し注目されている。

(左)Shutterstock、(右)横山耕太郎撮影

快進撃を続けるワークマンの強さの秘密は、多方面で分析されている。

「優れた戦略」「緻密(ちみつ)なデータ分析による商品開発や需要予測」、あるいは「徹底的な標準化や多頻度の配送といった卓越したオペレーション」……。

確かにどれもその通りだが、他社が真似できない“本当の強み”をワークマンは持っていると筆者は考えている。

顧客との関係性に着目し、4つのレベルに分解して考えてみたい。

最終レベルは「顧客とともにニーズを作る」

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ワークマンが2020年10月に女性をメインターゲットにした「#ワークマン女子」の店舗。機能性を高めた低価格な衣服が並ぶ。

撮影:横山耕太郎

CRM(顧客関係管理)という経営手法をご存知だろうか。

これは、十把一からげの“匿名”の顧客を相手にするのではなく、過去の購買履歴や現在の購買行動が、自社との関係から考えたときにどんな段階まで進んでいるか、という視点から顧客との関係性を把握し、最適な打ち手を導き出す経営手法だ。

外資系ITコンサル大手アクセンチュアのロングセラー『CRM 顧客はそこにいる』によると、顧客と企業との関係(Customer Relationship)には4つの段階があるという。

第1段階は「良いものを作って与える」。単一のニーズに対応する。

第2段階は「マーケットをよく見てニーズに合わせて与える」。ニーズの多様化に対応する。

第3段階はさらに一歩進んで、「顧客の側に立って購買を導く」。顧客自身も気がついていないような隠れたニーズや、あいまいなニーズに対応した商品を開発することだ。

第4段階は、「顧客から学び価値をともに作る」。第3段階では、顧客のあいまいなニーズを捉えたが、最終段階では、そうした商品に対する顧客の反応を見て、顧客とともにニーズを作っていく。ニーズの「創発」と言い換えてもいいだろう。

この4つの段階は、需要が供給を上回り作れば売れた時代が終わり、供給が需要を上回り顧客に選ばれる必要性に直面している企業が、消費者のニーズをつかみ具現化する方法をどう進化させるべきかを示していると言えるだろう。

ワークマンの進化を「4段階」で考える

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顧客と企業の関係は4つの段階で考えることができる。

『CRM 顧客はそこにいる』(アクセンチュア・ストラテジーCRMグループ、東洋経済新報社)に基づき作成

さて、ワークマンの進化の過程をこの4つの段階に当てはめて再評価してみよう。

1980年に「職人の店」を看板に掲げ、プロ向けの作業着という単一ニーズに対応(=第1段階)。その後、マーケットを見て、ニーズの多様化への対応を進めてきた(=第2段階)。

決定的な転機と考えられるのは、プライベートブランド(PB)商品を強化し、あいまいな顧客ニーズに対応し始めた(=第3段階)10年前ごろだった(有価証券報告書にPB商品の強化が謳われるのは2012年3月期から)。

新たに開発した屋外作業用の防水・防寒ウェアは、もともと作業現場での着用を想定して作られた商品だったが、まったく予想外の反響があった。バイクのライダーたちから、運転時に着るウェアとして着目され、SNSで評判が広がっていったのだ。

そこでワークマンでは、あらためてライダー向けに特化した一連の商品を開発。これはまさに顧客と企業が相互に作用し、新商品の開発につながった「ニーズの創発」そのものだ(=第4段階)。

こうした成功体験をもとに、2018年には一般客に特化してワークマン飛躍の原動力となった新業態「ワークマンプラス」を世に問うことになる。「顧客から価値を学びともに作る」第4段階の象徴、理想形と言っていい。

データの仮説検証による合理的な品揃えや、店舗オペレーションの徹底した標準化こそが、ワークマン成長の勝因だと指摘する専門家もいる。

確かにそれらの手法は、規模を無駄に大きくせず、なおかつ必要なものを取り揃えて高収益を確保し、成長につなげる上で、極めて重要であることは言うまでもない。

しかし、それらはあくまで数ある「手法」にすぎず、成長の本質はやはり上述した「ニーズの創発プロセス」であると強調しておきたい。

「いきなり第4段階」は可能か?

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ワークマンに2019年9月に開催した「過酷ファッションショー」。雨や寒さにも対応できる点をアピールしている。

撮影:竹下郁子

では、顧客とともにニーズを生み出すゆえに“空振り”の少なそうな第4段階だけに注力するようなビジネスモデルは可能だろうか。端的に言えば、効率的な“美味しいとこ取り”はできるのだろうか。

考えてみればすぐに分かるが、それは不可能だ。

まず、相当規模の既存顧客がいなければデータは得られない。データがなければ仮説検証ができない。つまり、ある程度の顧客基盤がなかったら、第3段階の「顧客の側に立つ」ところまでいかず、したがって多様な商品を効率良く取り揃えることができない。

ワークマンの場合、B2B取引(=法人向けの納入)に手を広げず、顧客を一般消費者にしぼっていることが、「顧客から学び価値をともに作る」第4段階を実現しやすくしているポイントだろう。

また、ものづくりの観点から考えてみると、第1段階の「単一ニーズへの対応」、第2段階の「多様なニーズへの対応」、いずれも技術や設備、経験面での蓄積が必要だ。そうした蓄積がなければ、第3段階の「あいまいな顧客ニーズへの対応」をフットワーク良くこなすことができない。すなわち、さまざまな仕様の製品を安価に安定した品質で作ることはできない。

そんなわけで、第4段階だけに注力した成功への近道はありえない。

趣味用途ではない、「プロ向けの消耗品」というシビアな市場で揉(も)まれて地位を確立したワークマンだからこそ、第3、第4段階の果実まで手にすることができたのだ。

そうやって長いこと苦労して獲得した趣味用途の顧客基盤は、若干ながら財布のヒモが緩い。ワークマンプラスの商品の物量は、プロ向けの消耗品の物量よりも少ないが、おそらく利益率は高いはずだ(残念ながら商品カテゴリー別の利益率は公開されていない)。

後発企業が追いつくのは容易でない

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ワークマン専務取締役の土屋哲雄氏。ワークマンの新業態を成功させた立役者として知られる。2020年10月撮影。

撮影:横山耕太郎

美味しいとこ取りで第4段階だけに注力するビジネスモデルが無理筋だと分かったところで、それでは段階を戻して 「さまざまな仕様の商品を安価に安定した品質で作る」 第2、第3段階から始めて、追いつくことは可能だろうか。

結論から言えば、それもやはり難しい。

ボストンコンサルティンググループが提唱した経験曲線、つまり「累積生産量が倍になるとコストが2割下がる」という経験則によって説明できる。

すなわち、後発企業はたくさん作ってたくさん売り、ワークマンの累積生産量に追いつかなければ、同程度のコストには追いつけない。

それができないなら、ワークマンとの競争に勝つ方法は以下の3つしかない。

1. 高コスト(すなわち赤字)を覚悟して大量販売し、将来のコスト優位を目指す

2. ワークマンよりも上手くコスト低減を行う画期的な方法を考え出す

3. すでにコスト優位を確立している企業を買収する

回りだしている好循環

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ワークマンの売上高。作業用品にを見ると売上は増えているものの、構成比は変わらずに3割弱を保っている。

ワークマンの2010年3月期および2020年3月期、有価証券報告書を基に作成

ワークマンで注目すべきは、第3・4段階で開発された(趣味用途の)カジュアルウェアが売り上げを伸ばすだけでなく、もともと得意としていた作業着の売り上げも引き続き伸ばしていることだ。

すでに触れた、ワークマンの転機となった10年前(2010年3月期)と直近(2020年3月期)の商品別売上高構成比を比較すると、カジュアルウェアの比率は大幅に増加(9.2%から13.0%)している。

一方、既存商品であるワーキングウェアは29.0%から31.5%に、同じく作業用品は27.2%から27.1%に、大きく比率を下げることなく、10年間ほぼ同程度の構成比を維持している。それでいて、売上金額でみれば約3倍にも成長を遂げている。

ニーズの創発プロセスを経て新たな商品を開発し、新たな顧客を取り込んだことは間違いないが、その顧客は新業態の店舗だけでなく、プロ向け中心の既存店を訪れて既存の商品ラインナップを選んで購入していると見ることができる。

垢抜けたカジュアルウェアだけでなく、(従来はプロ向けとして存在していた)本来のワークマンの価値が認知されたと言えるだろう。

第1段階が第4段階を可能にする基礎であることは先に述べたが、よく見ると、第4段階が第1段階に顧客を呼び込むというサイクルまで生まれたわけだ。

ワークマンの累積生産量は(不祥事でもない限り)さらに増加し、それによりコストもさらに低減される。さて、果たしてこの好循環に挑もうとする果敢な競合は現れるだろうか。

「地味だが決して真似できない能力」を収益源に

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「自社の能力に気が付くこと」。そこにワークマン成長のカギがある。

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実は、ここまで述べてきたような視点は、筆者が独自に見出したものではない。

筆者が教える社会人向け大学院のゼミで、ある農業法人の代表の方から話を伺い、あらためて第1段階の重要性に気づかせてもらったことをここで素直に告白しておきたい。

その方は、より高付加価値で高収益を生み出す第3、第4段階の農業とはどのようなものか検討する上で、農協経由で一般市場に供給する“ふつう”の農作物を安価に安定的に作るとこがいかに大事か、その必要性を熱意をもって説いてくれた。

農業でも「さまざまな仕様の作物を、安価に安定した品質で作る能力」がまず必要で、“つまみ食い”は簡単ではないと教えられた。

ただし、第1段階や第2段階から、さらに上の段階へと進んでいくためには、他社とどう差別化するかも求められる。

「地味だが他社が容易に追いつけない自社の能力」に気がつくこと、さらにはそれを新たな収益源にしようと考え、そのように動くこともまた簡単ではない。

自社の能力に気づき、最大限活用する戦略を策定し、実行したことが、ワークマンの最大の勝因と言えるだろう。

地味な役割からの「華麗なる脱皮」に成功したことに、多くの経営者が惹きつけられる。そう思うのは筆者だけではないだろう。

(文・上野善信)


上野善信(うえの・よしのぶ):金沢工業大学虎ノ門大学院教授。新日本製鐵株式会社にて製造系・流通系のシステム導入、i2テクノロジーズ社製ソフトウェアによるSCM導入コンサルティングに従事。アサガミ株式会社(倉庫・物流・印刷業)取締役、PwC PRTM(戦略・SCM・R&Dコンサルティング)ディレクター、キャップジェミニジャパン(ITコンサルティング)代表取締役などを歴任。東京大学工学部卒、UCバークレー工学部大学院・MIT経営大学院修了、東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻修了(博士工学)。

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