楽天の三木谷浩史会長兼社長(左)と日本郵便の持ち株会社・日本郵政の増田寛也社長。
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楽天と日本郵便が、物流分野をはじめとした幅広い分野での戦略的提携に向けて合意した。
すでに両社は物流分野で協業関係にあるが、これをさらに進展させることで「次世代の物流プラットフォーム」を構築することが目標。まずは2021年3月までの最終合意に向けた協議を開始。物流プラットフォームを共同事業化するために新会社の共同設立も検討する。
12月24日に開催したオンライン会見で、楽天の三木谷浩史会長兼社長は、「2社が組むことで、新しい価値を創造できるのではないか」と期待を寄せた。
「5年後には安定的な配送ができなくなる」
楽天は2018年から、商品の保管から配送まで包括的な物流サービスを提供する「ワンデリバリー構想」として、物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」、物流センター 「RFC(Rakuten Fulfillment Center)」など、物流網の構築を進めてきた。送料の無料ラインを3900円に統一する施策では、「9割近い店舗が利用している」(三木谷会長)と言う。
そうした中で、日本郵便とはRFCからの配送、楽天市場出展者向けの特別運賃の提供、不在再配達の削減に向けた取り組みなどで協業してきた。
質疑に応える三木谷浩史氏。
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新たな提携では「物流分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を起こしたい」と三木谷会長。日本郵便との提携関係を深めることで、「次世代の物流プラットフォームを、オープンな形でさまざまな事業者に展開。持続可能な仕組みを作っていきたい」(同)。
一方の日本郵便・日本郵政側が協業を進める背景にあるのは、「5年後には安定的な配送ができなくなるのではないか」(日本郵便社長・衣川和秀氏)という強い危機感だ。
衣川社長によると、物流に関して日本郵便では現在「人手不足が実際に現れているわけではない」。ただ、コロナ禍によってオンラインショッピングの割合が増え、Eコマース(EC)市場が拡大してため、「このペースで増加すると、処理能力が今のままでいいのか、という話は出てくる」(衣川社長)のは確実だとする。
物流に関する社会課題。こうした課題に加え、コロナ禍がEコマースを急激に拡大させている。
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「日本のEコマース比率は7~8%といわれている中、欧米中のように20%台になると、単純に(物流量は)3倍になる」(楽天執行役員コマースカンパニーロジスティクス事業ヴァイスプレジデント小森紀昭氏)。今後予想される人手不足の波にも目を向ければ、物流量増による現場の負担はさらに増す可能性がある。両社は、そうした状況になる前に、提携によって対策を打ち出したい考えだ。
全国2万4000局の郵便局×楽天のデータ活用で何が起こるか
配送における利用者のニーズも多様化している。
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日本郵便は、全国2万4000局の郵便局をはじめとした強力な物流網と、それにともなう膨大な荷物量とデータを保有する。楽天側は、自身が持つ物流網に加え、デジタルを活用したデータ活用のノウハウを備えている。
物流においていかに効率的に配送し、いかにユーザーが受け取りやすくするか。そのために、「情報を早い段階で活用できないか」(衣川社長)というのが課題の1つだとする。
「ドライバーが実際に配達に向かう前」
「最寄りの郵便局に荷物が届く前」
「物流センターに届く前」
「さらには商品が購入される段階」
で、配達のための情報が伝えられれば、それに合わせた準備ができる、と衣川社長は言う。
両社のノウハウ・資産を活用して、荷主、受取、配送の3者が効率よく、利便性の高い配送システムを構築することが目標。
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商品購入時点で置き配、受取日時の設定などが配送側に伝われば、配達計画が事前に決めやすい。
楽天の「需要予測」が配達側に提示されれば、人材配置などもそれに合わせた対応ができる。そうした「上流工程まで遡ってデータ連携できれば、(現在と)同じ体制でもさまざまな処理ができるようになる」(衣川社長)というのが日本郵便側のメリットだ。
「両社の強みを組み合わせるのが、大変いい結果を生み出せると考えている。(楽天は)最高のパートナーではないか。双方の強みを最大限に生かして、事業領域で連携することで新たな価値創造を目指していく」(日本郵政 増田寛也社長)
楽天側にとっても、Eコマースの鍵を握る物流について、「品質、速さ、プライスでより効率的なネットワークを構築する」(三木谷会長)ことが楽天市場の魅力向上に繋がる。ワンデリバリー構想も拡大しているが、過疎地域など郵便局のネットワークがその一翼になることで、物流網の重複を避けた効率化が実現できる。
物流提携の最終合意は「2021年3月までに」
楽天・日本郵便の関係だけでなく、オープン化によって他の配送事業者なども利用できるプラットフォームとしていく。
とはいえ、「物流面での提携の最終合意は2021年3月まで」という目処が示されたが、現時点で、どういった提携内容になるかは決まっていない。
「キャッシュレス決済サービスの連携の可能性について協議、検討する。モバイル分野では、楽天モバイルの事業拡大に資するように、全国の郵便局ネットワークの活用策でも協議・検討したい」と楽天・小森氏。
三木谷会長は、「楽天は銀行もカードもデジタルでやっているので、そういったノウハウを日本郵便でも活用してもらえるのでは」とコメント。楽天モバイルに関しては、郵便局にパンフレットを置くといった簡易なものになるか、より深めた位置づけになるか、現時点で決まったものは何もないようだ。
ここで挙げたもの以外の事業分野でも提携の可能性があるとして、そうした点での協議・検討も進めていく。
(文、撮影・小山安博)
小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。