日本初の有料衛星放送チャンネルとして、1991年4月1日に開局したWOWOWは、2021年に30周年を迎える。これを機に新番組やサービスが発表されているが、中でも注目は2021年1月16日(土)からスタートする「電波少年W ~あなたのテレビの記憶を集めた~い!~」(以下、電波少年W)だ。WOWOWの田中晃・代表取締役 社長執行役員と、番組で総合演出を務める土屋敏男氏に、新番組スタートの経緯や狙い、さらには放送局の今後やWOWOWのビジョンについて聞いた。
“コミュニティー”に軸足を置いた番組を作る
土屋敏男(つちや・としお)。1979年に日本テレビ入社。「天才たけしの元気が出るテレビ」や「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」、「電波少年」シリーズなど、バラエティー番組の演出・プロデュースを担当する。2005年には、動画配信サービス「第2日本テレビ」を立ち上げ。人生のビデオ化を提案する新規事業「LIFE VIDEO」や、3Dスキャン技術を取り入れた舞台「NO BORDER」など、幅広いジャンルで活躍を続けている。
1992~2003年に日本テレビ系列で放映された「電波少年」シリーズは、日本のテレビ史に残る伝説的なバラエティー番組だ。“Tプロデューサー”こと土屋敏男氏が演出とプロデューサーを務め、「アポなしロケ」や「大陸縦断ヒッチハイク」、「懸賞生活」といった数々のヒット企画を生み出し、その後の日本のテレビ番組作りにも多大な影響を与えたと言われている。
その電波少年が、「電波少年W」としてWOWOW で“復活”する。といっても、番組内容はかつてのヒット企画の焼き直しではなく、“ユーザーとのコミュニティから生まれる全く新しいテレビのカタチ”を目指すという。WOWOWの田中晃社長からオファーを受けた土屋氏は、どう感じたのだろうか?
新番組「電波少年W」では、コミュニティサイトを通じて視聴者の記憶に残るテレビ番組を募集。放送局の垣根を越え、当時の番組関係者の証言などから、“テレビの記憶”を掘り起こし収集していく。総合演出の土屋氏に加えて、MCは松本明子氏と松村邦洋氏という当時と同じラインアップであることも、SNSを中心に話題を呼んでいる。
「田中社長から“コミュニティで番組を作る”というテーマを提示されて、すぐに『これは本気でやってみたい』と思いました。というのも、やっぱり近年のテクノロジーやインターネット、特にSNS登場の衝撃が自分の中では大きかった。
昔の電波少年時代も、中高生の声を人づてに聞いて、それを番組作りに活かしていました。ただ、今はネットを通じて視聴者の声を大量かつストレートに聞くことができる。これまでのテレビ番組作りは“1対多”で、コミュニティとは全く違いました。そこに可能性を感じたし、本当にコミュニティに軸足を置いた番組作りというのはまだ誰もやっていないから、そこに挑戦してみたいと思ったんです」(土屋氏)
2015年にWOWOWの代表取締役社長に就任した田中社長は、日本テレビ出身でテレビ制作の現場も熟知している。今回、日本テレビ時代の同期でもある土屋氏にオファーした理由については、こう説明する。
「土屋さんが作る番組をずっと近くで見てきて、彼のことは本当にリスペクトしています。“他の人がやったことは、いくら当たると思っても絶対にやらない”という彼のオリジナリティは、有料放送にも絶対に向いている。今回、電波少年という名前はついていますが、中身はまったくの別物。彼のオリジナリティが最大限に発揮された、新たな番組になると期待しています」(田中社長)
放送局の今後に抱いていた“ある危機感”
田中晃(たなか・あきら):1954年、長野県生まれ。早稲田大学卒業後、1979年に日本テレビ入社。スポーツ中継などを中心に番組制作に携わり、編成部長などを歴任。2005年にスカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現スカパーJSAT)に入社。2015年にWOWOW代表取締役社長に就任。
電波少年Wの番組作りの核に“コミュニティ”を据えている背景には、田中社長が抱えていたある危機感があったという。
「これからのWOWOW、あるいは放送局の未来を考えると、ただ番組を作ってそれを視聴者に観てもらうだけでは、限界がくるという思いがありました。だから、視聴者が番組を観るだけではなく、育てたり応援したり、あるいは壊したりと、より能動的に関わっていくコミュニティを、放送局と視聴者が一緒になって作るべきだと考えたのです」(田中社長)
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SNSが発達した現在では、テレビ番組や配信コンテンツを起点にファン同士が交流するネット上のコミュニティは、すでに多数生まれている。そんな中で、WOWOWがコミュニティを手がける意義とは何なのだろうか。
「もちろん、WOWOWだからこそ実現できることでないと意味がないと思います。たとえば、テニス中継を観ながら一緒に応援したり感想を言い合ったりするコミュニティがあるとします。WOWOWだったら、解説者の伊達公子さんにも参加してもらったり、試合後に有名選手を呼んだりすることもできます。WOWOWが関わっているから面白いものが観られる、お得な体験ができるという価値を提供していきたいですね」(田中社長)
土屋氏は、制作側の視点からWOWOWが作るコミュニティの可能性をこう語る。
「コミュニティをベースにした番組作りでは、視聴者がアイデアを出して、プロである制作者がそれに応えることができる。これは今までのテレビでは考えられなかったことで、視聴者と制作者の両方にとって新しい体験になると思います。その意味で、WOWOWがコミュニケーションまで含めたコンテンツ企業になるというのは可能性を感じるし、自分自身もとてもワクワクしていますね」(土屋氏)
テレビという“オールドメディア”も捨てたものではない
PCやスマホアプリでWOWOWの番組を楽しむことができる動画配信サービス「WOWOWオンデマンド」。放送同時配信、⾒逃し視聴、ライブ配信、ライブラリーなどのサービスを、自宅だけでなく、外出先からでも利用できる。
2021年4月1日に開局30周年を迎えるWOWOWでは、これを記念した企画が2020年末から続々とスタートしている。1月13日にスタートした動画配信サービス「WOWOWオンデマンド」もその一つで、放送と配信の垣根を超える試みとして注目を集めている。
「視聴者はテレビでもスマホでも、面白いコンテンツが観られればよいわけで、特に若い人にとっては、放送か配信かは関係ない時代になっています。今のWOWOWはまだ放送局の形やイメージを残していますが、3年後にはもう放送局ではなくなっているかもしれない。そのぐらいの覚悟で進めていきたいですね」(田中社長)
こう力強く話す田中社長だが、放送業界に長く身を置き、これまで蓄積してきたものの全てを切り捨てるわけではないとも語る。
「日本のテレビ局は本当にすごいんですよ。ほぼ24時間×365日、玉石混淆ではあるものの、新しいコンテンツを作り続けているんですから。だから、テレビが約70年の歴史の中で培ってきたコンテンツ作りの知見や人材という価値は、変わらないと思っています。
私も土屋さんも一貫して“テレビ屋”としてやってきた矜持があるし、テレビ業界の“DNA”はしっかりと後世に伝承していきたい。WOWOWとしては新たな可能性を模索し、挑戦していきますが、それと同時に『テレビという“オールドメディア”もまだまだ捨てたもんじゃないよ』ということは示していきたいですね」(田中社長)