撮影:鈴木愛子
幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
あけましておめでとうございます。
皆さんは、どんな気持ちで2021年を迎えられたでしょうか。
例年であれば、気持ちを新たにして今年1年の目標を立てるところが、コロナ禍の先行き、自身の生活や仕事の先行きに不安を抱いていらっしゃる方も多いかもしれませんね。
そこで、新年初となる今回は、転職エージェントとして活動している私が、今、目の当たりにしている世の中の動きをお伝えします。皆さんが今年のビジョン、そしてさらに先のビジョンを描くにあたってのヒントになれば幸いです。
コロナ禍が収まらない中でも、転職市場には活発な動き
2020年11月頃から新型コロナウイルス感染者が急増。ニュースでは連日、ひっ迫する医療現場や観光業・飲食業などの苦境が報じられています。
これを見て、「経済活動の落ち込み」「不況」を感じている方も多いのではないでしょうか。「こんな状況だから、転職市場も冷え込んでいるだろう」と。
しかし実のところ、私の転職エージェント業はコロナ禍以前に増して忙しくなっています。
求人依頼や転職相談が押し寄せている状況なのです。
リモートワークが広がり日程調整がしやすくなったため、カジュアル面談などの機会は増えている。
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過去の「不況期」といえば、リーマン・ショックの後を思い起こす方も多いでしょう。あの時と今では、明らかに状況が異なっています。
心の準備がない中で突然降ってきたリーマン・ショックに、企業は「リストラ」「採用停止」へと動きました。しかしその後景気が回復すると、採用は「売り手市場」へと一転。攻めようにも人材がいない、という悩みを経験したのです。
リーマン・ショック時の教訓もあり、企業はいざという時に備えて財務体質を強化し、内部留保を増やしてきました。そして、人材への投資を安易に止めることはなかったのです。
現在の状況は「経済破綻」とは言えません。フードビジネスも、店舗型は苦境にさらされていますがデリバリー型は順調です。
「巣ごもり消費」「テレワーク環境整備」などのニーズに対応する業種では、むしろ業績を大きく伸ばしています。
新しい生活様式、新しい社会のあり方に向け、攻めていこうとする企業は多数あります。
そのため、人材市場においては、新卒や第二新卒といった「ポテンシャル採用」の縮小、大手企業による余剰人員整理(早期退職推奨など)は起きているものの、皆さんが想像しているよりも活発に動いているのです。
DX推進を担う人材のニーズがさらに高まる
2020年に続き、2021年の転職市場のキーワードはDX(デジタルトランスフォーメーション)。業種問わず、デジタルテクノロジーの活用によって事業や業務の変革を推進する企業が採用に意欲的です。
IT人材はもちろんですが、デジタルの専門知識・経験がなくても、固定観念を打ち破って新たな価値創造ができる発想力や推進力を持つ企画職、あるいは、効率化やコスト削減に向けた課題発見力を持つ管理部門人材などを迎えたいと考えている企業が多数あるのです。
新たな事業モデルの開発に伴い、営業体制の改編や強化も必要。営業系の人材ニーズもあります。
また、適切なタレントマネジメントや採用を行うために、そしてリモートワークをはじめとする働き方改革に伴って人事評価制度の刷新や風土改革を進めるために、戦略的人事を担うCHRO(最高人事責任者)や人事マネジャーを迎える動きも見られます。
採用活動において「オンライン面接」はすでに当たり前のものになっています。1週間に3~4回のオンライン面接を経て、一度も対面することなく採用が決まるケースもあります。
また、オンラインで気軽に対話する「カジュアル面談」も増えており、求職者側にとっても、転職活動のハードルが下がっています。
思いがけないチャンスに出会える可能性がありますので、「今は動くべき時期ではない」という思い込みは捨てて、情報収集をしてみてはいかがでしょうか。
リモートワークが定着へ。ライフスタイルを変える転職事例も
2020年6月にお届けした、この連載の第19回で、在宅勤務になって時間にゆとりができた人々が、自身のキャリアやライフスタイルを見つめ直しているとお伝えしました。
今もその傾向は変わらず、中にはすでに新しいライフスタイルの実現に向けて動いている方もいらっしゃいます。
例えば、リモートワーク中心の勤務形態を前提に、地方都市へ移り住んだり、地方企業へ転職したり、逆に東京に住居拠点を構えながら地方企業に転職する……というケースも生まれています。「ワーケーション」も活発化していると感じます。
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緊急事態宣言を機に、やむを得ずリモートワークに移行した企業も、その効率の良さを実感しました。今後、リモート下でのチームワークやマネジメントのノウハウがさらに確立されていけば、ワクチンが普及してコロナが収束したとしても、リモートワークという働き方は継続していくでしょう。
求人においても、「月1~2回出社すれば、あとはリモートワークでOK。どこに住んでいてもかまわない」という条件のものが増えています。
コロナによる変化は一時的なものではなく、それこそ世の中にインターネットが台頭したくらいのインパクトでパラダイムシフトを起こしたのです。この大きなターニングポイントに遭遇し、自身のキャリアや人生への向き合い方を変えた方が多くいらっしゃいます。
特によく聞こえてくるのは、「いつどうなるか分からない。『安定』なんてないと気づいた。いつかは動く時が来る」という声。
たとえ大手企業に勤務していても、このままここで一生を終えることはない。いつかは転職することを想定し、自身のキャリアを磨かなければならない——そんなマインドセットへ移行した方がたくさん見られます。
「機会があるなら、すぐにでも転職する」という方もいれば、「副業でスキルアップを図る」という方もいます。副業を「副収入を得る」目的ではなく、あえて異業種・異職種での副業を経験することで、将来のキャリアの選択肢を広げようとする人が増えているのです。
働き方の選択肢が増えている今、皆さんも「自分らしい」働き方やキャリアの築き方を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
自分を見つめ直し、目標を定めるために、年初に行いたいこと
自分自身を見つめ直し、今年1年どう過ごすかをイメージするために、私が年初に行っていることをご紹介しましょう。読者の皆さん自身が年初にあたって気持ちを整えるうえで、ぜひ参考にしてみてください。
1. アファメーションカードの書き直し
「脳と心の取り扱い説明書」とも呼ばれるNLP心理学から生まれた「アファメーション」をご存じでしょうか。
なりたい自分になるために、目指す自分の姿を言語化して、自分の脳に刷り込ませるものです。「肯定的な自己暗示」などとも言われます。
私は25年ほど前にセミナーで学んで以来、アファメーションカードに自分が望む未来像を記し、毎年更新しています。
「年末年始の休暇は、自分を見つめ直す良いタイミングです」と森本さん。
撮影:鈴木愛子
2. 「WILL」「CAN」「MUST」の棚卸し
「WILL(やりたいこと)」「できること(CAN)」「やらなければならないこと(MUST)」を整理し直します。
会社に勤務する方であれば、「MUST」は組織の一員として果たすべき役割と定義し、「CAN」=自分が身につけたスキル、「WILL」=やりたいこと、なりたい姿を整理してみてはいかがでしょうか。
3. 「会いたい人リスト」の刷新
「この人に会って話をしたい」と思う人をリストアップして、友人やSNSなどを通じて発信します。
世界中の人間は、「知り合いの知り合い」の関係をたどっていくと、5人の仲介者を経て、6人目でつながるという「6次の隔たり」という考えがあります。これは、アメリカの社会心理学者スタンレー・ミルグラムが、米イェール大学の教授だった1967年に行った「スモールワールド実験」がもとになっています。
そして今では、SNSの普及により、6次から2.5次に縮小されたと言われています。会いたいと願う人に、意外と早くつながれる可能性があると私は信じています。
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4. SNS上の人脈メンテナンス
過去にSNSでつながったけれど、しばらくお会いしていない方の近況をチェック。面白い取り組みを始めているなど、新たな動きの中で興味を持ったら、改めて挨拶メールを送って情報交換をすることもあります。
5. 今年の「漢字一文字」を決める
この1年、行動を起こす時や複数の選択肢から選ぶ際の判断軸として、漢字一文字を決めています。
過去には、次のような漢字を設定しました。
「感」……多忙な中でつい物事を流してしまうこともあるので、「本質」にしっかり目を向ける。
「動」……思っているだけでなく、実際にアクションを起こす。
「素」……頭で考えるより、瞬間瞬間で感じ取ったことを大切にする。
2021年の私の一文字は、「躍」です。コロナで不安が渦巻く世の中だからこそ、2021年はワクワク心躍る気持ちを大事にする1年にしていきたいと思います。
どんな方法でもかまいませんので、皆さんも自分の状況や気持ちを整理・言語化し、今年の目標を定めてみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第43回は、1月18日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。