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「自己啓発の悪循環を断ち切れ」独学の達人・読書猿オススメの年末年始に読むべき1冊

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読書猿さんの取材はオンラインで行われた。写真撮影はしないことが条件。

撮影:横山耕太郎

年末年始を前に、じわじわと売れている本がある。788ページに及ぶ『独学大全』だ。

時間を確保する方法から、勉強のモチベーションを保つ方法、資料の探し方まで、独学に役立つ55の技法を網羅的に紹介している分厚い本で、2020年9月の発売から11万部を売り上げた。

著者の読書猿さんは、2008年から始めたブログで注目され『独学大全』を含めこれまでに3冊を出版。仕事の傍ら独学を続けてきた「独学の達人」として知られる人物だ。

そんな読書猿さんにとって、新型コロナウイルスに翻弄された2020年はどう映ったのだろうか。

不確実な時代だからこそ、2021年に読むべき本とはどんな本かなのか。オンラインでインタビューした。

読書猿:2008年から始めたブログ「読書猿classic」で注目され、これまでに『アイデア大全』『問題解決大全』(共にフォレスト出版)を出版した。昼間は「いち組織人」として働いているため、年齢などは一切公開していない。大学時代は哲学を学び、その後は会社勤めをする傍ら、独学を続けてきたという。ブログでは古代ギリシアの哲学文献から最新の論文まで、独自の視点で分類・紹介している。

社会の「分かりにくさ」こそ重要

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読書猿さんは「分かりやすさ」は危険をはらんでいると話す。

撮影:今村拓馬

コロナ不安を解決するために読むべき本などありません。『これで社会の流れが読める』、『キャリアアップにつながる』といって売られている本は、基本的に不安に駆られた人たちの足元を見て、読者を『養分』にしようとしている。

そうした本を読んでも不安はかえって大きくなり、また次の不安を掻き立てる本に手を出すことになる。悪循環です」

読書猿さんは、「自己啓発の悪循環に対するワクチンとなる書物」こそ読んでほしいという。

読書猿さんが勧めるのは、筒井淳也著『社会を知るためには』 (ちくまプリマー新書)

SNSでの短文でのコミュニケーションが増え、またコロナによる不確実性が増している現在、社会はどんどん分かりやすさを求める傾向が強まっている。

「この本は分かりにくいことから逃げていない。むしろ分かりにくさこそ、社会の実相であり、社会を理解する鍵だというんです。社会常識のない大人向けの分かりやすい本はたくさんありますが、それは分かりやすい一面しか書いていない。

世の中の説明で一番わかり易いのは陰謀論でしょう。誰々が悪い、と言っておけばいい。理解するための負荷が低いし、不満のはけ口にもなる」

ただ、こうした「分かりやすさ」には、危険が隠れている。

誰かのたくらみで、社会をコントロールすることはできない。社会はもっと複雑で、個人の行為から政府がやる政策まで、必ず意図しない結果をいくつも招くもの。なぜ社会が分かりにくいかが分かれば、生き方の戦略も建てられるのではないかと思います」

学ぶべきは数学。「短時間で学べるものは参入障壁が低い」

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読書猿さんは「長い時間をかけて学ぶことが有効だ」と力説する。

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新型コロナの影響でオンラインでの学習が注目されたり、将来への不安の高まりもありスキルアップの重要性が叫ばれたりと、改めて学びへの関心は高まっている。

読書猿さんが考える、「学ぶべき分野」とは何か?

読書猿さんは「簡単に身に着けることは難しく、長い時間をかけないと身につかないことを学んだ方がいい」と指摘する。

読書猿さんがおすすめするのが、数学だ。

「まずライバルがあまりいない。英会話学校は数あれど、数学の学校とか塾はずっと少ない。数学を身に付けることで開ける世界は広大です。ほぼすべての科学とテクノロジーについて、消費者側から提供者側へと抜け出せる道が開ける」

数学の良さは他にもあるという。

「文学とか哲学とか、社会科学と違い、我々の日常の悩みに直結しない。心の傷に触らないので、精神衛生上もよいと思います」と冗談めかす。

読書猿さん自身も、数式処理ソフト(プログラミング言語のPythonとSympyというライブラリ)を使って、数学の勉強をしているという。

「数学を学ぶ場合、これまではノートに書き写して、自分の手で数式の展開をやってました。今はコンピュータに入力して、数式の展開を数式処理ソフトにやってもらう。写し間違うと、とんでもない結果が出て、うっかり者の自分でもさすがに気付く(笑)。

プログラミングもそうですが、どこで間違っているのかをすぐに試しながら勉強できる。人類史上、これほど学ぶ環境が整っている時代はない

読書猿さんは、数学だけにこだわらず「時間がかけて学ぶこと」の大切さを指摘する。

「短期間で習得できる知識やスキルは、それだけ参入障壁が低い。社会のことを学ぶのでも、すぐに読める『ニュースがわかる』みたいな本を読むのか、研究論文レベルの情報を探して、背景となる歴史から学ぶのかで、大きな差が生まれる

時間をかけて勉強し、論文を読めるレベルの素地を作ることこそが、武器になるという。

勉強時間確保のコツは「時間を固定すること」

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「まずはコーヒーを飲む時間などから決めると始めやすい」と読書猿さんは話す。

撮影:今村拓馬

とはいえ、忙しい日々に追われる社会人にとって、勉強時間を確保するのは簡単ではない。

「時間は誰にも1日24時間。生きるために必要な時間もあるので、決してできることは多くない。その中で学ぶ時間を確保するためには、まずは1日の時間配分を可視化すること

読書猿さんがオススメする勉強時間の確保の方法はシンプルだ。

「トラッキング・アプリなどを利用するといいですが、アプリを使わなくても1週間カレンダーを塗りつぶすなどして、時間を可視化すること」

その上で、勉強時間は1日の中で、動かせない予定の前後に設定すると確保しやすい。

「例えば出勤時間が一定なら、出勤時間の前の30分を学習時間として固定する。あと何時に、どの席に座るとか、細かく決めることで儀礼化すると習慣として定着しやすい。例えばこの時間に必ずコーヒーを飲むといった“決まりごと”を決めるといい

2分間でも時間を確保せよ

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時間を細かく区切ることがポイントだという。

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コロナ禍でテレワークになり、仕事とプライベートの時間が区別しにくいという人もいる。

「テレワークとなると自分で時間を決められるので、逆にむずかしい。時間の自由があればあるほど、『この時間にはこの椅子に座って本を読む』など時間と行動を固定しないと、ぐらぐらする

例えば、宗教儀礼が細部まで作り込んであるのは理由があるんです。細かく決めれば決めるほど、その儀礼から逸脱することに激しい抵抗感を覚えるようになる。儀礼化できてしまえば、歯磨きと同じで、やらないことが気持ち悪くなります」

まとまった時間ではなくても、たった2分間でも、学びの時間にすることがモチベーションにつながるという。

「『ほとんど時間が取れない、にもかかわらず今日も学び続けた』という自信になるんです。この『にもかかわらず』という感覚が独学にはついて回る。時間やお金がたっぷりあるなら、独学じゃなくても学びようはあるでしょう。厳しい条件の中で、みんな『お金がないにもかかわらず』、『時間がないにもかかわらず』学びたいからこそ独学する。

たった2分でもあっても学ぶことができれば、『今日も何もできあなかった』と思って一日を終えるのとは雲泥の差。こうして細々とでも独学を続けられたということが、自信となり、次の学習へのモチベーションになる

読書猿さんは、どんな「~にもかかわらず」独学を続けてきたのだろうか?

「私の場合は、『本を読むが苦手にもかかわらず』でしょうか。読書猿と言う名前も、読書が苦手だから付けた名前です。本が読めないという地点からスタートして、今では読書論まで語っています。苦手だからこそ続けられたと思っています」

2021年こそ、継続して勉強を続けられるように、まずは時間の使い方を見直すことから始めてみたい。

(文・横山耕太郎

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