2021年“デジタル庁”発足に向け「医療はど真ん中」と語る真意【小林史明議員インタビュー】

小林史明氏

衆議院議員・自民党のデジタル社会推進本部 事務総長の小林史明氏。

撮影:小林優多郎

2020年、新型コロナウイルスの影響で日本の生産性の低さ、とりわけ社会システム全体のデジタル化の未発達さが浮き彫りになった。

そうした問題の解決に向けて、2020年12月25日、デジタル庁の基本方針が閣議決定された。発足は2021年9月を予定。勧告権などの「強力な総合調整権限」(デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(案)より)を持つ司令塔の役割を果たす、とされる。

閣議決定の3日前の2020年12月22日に菅義偉首相に提出された自民党の中間提言では、国民、企業・個人事業主、政府・地方公共団体などの立場ごとにデジタル庁が推進していく内容が明確になった。

「レガシー」という言葉の象徴のような行政が、デジタル庁によってどう変わるのか。

NTTドコモ出身でITに詳しい国会議員として知られる、自民党のデジタル社会推進本部 事務総長の小林史明氏に話を聞いた。

(取材日:2020年12月吉日)

コロナで変わったDXの機運、日本のDXが進まなかったワケ

第2次提言提出

デジタル庁立ち上げに関する第2次提言が、2020年12月22日に菅義偉内閣総理大臣に提出された。

出典:衆議院議員小林史明事務所

—— ここへ来て、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)が急展開しようとしているようにも思います。改めてなぜ、今まで日本はデジタル化が進まなかった、進められなかったのでしょうか。

小林氏:いくつかの要因がある。

1つは、デジタルというものを本当に理解する人を増やしてこなかった。よくわからないなという人を置いてきぼりにしてきた。

その結果、例えば自治体のオープンデータがPDFでアップされてしまう……ということも起きていた。

目的が共有されないまま、手段だけが走っていた。結果的に目的も達せられない、ということが起きていた。そこを解消していくことが必要。

※編集注:オープンデータはただ公開するだけでは意味をなさない。例えば、PDFで情報公開しても、それがデータとして読み込みづらいため、実際にはほぼ活用されないということが起こる。コンピューターが読める形で公開することが重要だ。

2つ目は分からない人を生み出し続ける仕組みや環境があった。

政策をメインで考える国家公務員や地方公務員のみなさんが、テクノロジーを業務で活用できない状況があった。ここをさらに分けると2つの要因がある。

1つは、制度の見直しが技術の進展に追いついていなかった。ついこの間までZIPファイルをメールの添付で送ることがあった。これは現在のセキュリティーの感覚では合わない。

いま、地方自治体も国も、クラウド型のSaaS系サービスを入れようとすると、セキュリティー基準上、導入できない、もしくはかなりの障壁があるという事態となっている。

ZIPファイルのメール添付

パスワード付きZIPファイルのメール送信など、時代遅れのセキュリティーも横行していた(写真はイメージです)。

撮影:小林優多郎

地方については、システムをバラバラに調達していった結果、データが連結されず使えないところもあった。いわゆる三層分離といって、マイナンバー系の業務、住民票系の業務、インターネットにつなげる必要がある業務を全てPCを分けないといけない。

そうすると、「政策をつくる人間がまったくデジタルに触れられない」わけで、どうやってデジタルを使って行政を効率化しようかという考えに至らなくなってしまっていた。

3つ目は今回の流れにつながっていくことだが、その問題が国民の共有の課題認識になっていなかった。

8年前、私がこの世界に入って最初にした質問は「地方自治体の行政システムがバラバラになっていることで行政のデジタル化ができない、これを解消すべきではないか」だ。そういう問題意識は国会議員の中でも正直私しかいなかったと思う。

特別定額給付金

「特別定額給付金」で国民の意識は大きく変わった。

撮影:小林優多郎

—— コロナ禍を経て生まれた国民のムードの変化は大きな要素です。

小林氏:何より10万円の給付金で「なぜこんなに時間がかかるんだ」という声があがって、それから行政のデジタル化が遅れているという認識が広まった。

私がこれまで規制改革、政策実現に関わってきて、「政策実現の扉」はあると概念的に理解している。いかに正しい政策であってもこの「扉」が開いていないと、政策が入っていかない。扉が開く3つのステップがあると理解している。

1つ目は、国民共通の課題認識になるということ。

2つ目は、具体的かつ社会実装可能な解決策が提示できるかどうか。

その上で、(3つ目は)意志決定者、総理か大臣かが意志決定をする。

そういう意味で、1つ目がコロナによって大きくステップアップしたのが大きい。

デジタル庁において「医療はど真ん中」

病院

医療の現場にもデジタル庁は大きく関係する。

撮影:竹井俊晴

—— 12月に、結果的に誤報でしたが「新型コロナ感染の10代女性死亡」という厚労省発表が話題になりました。原因は電話の聞き取りミスと報道されています。行政のDXが進めば、こうしたミスは減るはず。デジタル庁の領域には、医療分野のデジタル浸透も重要課題になるのでしょうか。

小林氏:デジタル庁が対象にするサービス・お客様として、他省庁、地方自治体、医療・教育・防災などの準公共分野も入ってくる。医療というのはど真ん中として入ってくる。

今回の(医療をめぐるDXの)問題はいくつかある。そもそも医療機関の稼働状況、どんな患者さんが日々入ってきて、保健所でどういう対応をされているか、一連の動きがデータで連結して見える環境ではない。

なぜなら、医療機関は私立もあれば公立もあって、県立もあれば市立もある。保健所は市もしくは区が見ている状態。システムがそれぞれバラバラ(なのが現実)だ。

(こうした状況を)デジタル庁が責任を持って、現場と担当省庁と連動しながら共通システムを作っていくように転換していく。毎日リアルタイムのデータを見ながら政策や対策を打てるようになる。

誰かが言わないと「やめた方がいいこと」はなくならない

小林氏

医療の現場にデジタル庁が介入することで大きく2つのインセンティブがあると話す小林氏。

撮影:小林優多郎

—— 公立の病院でシステムを統一化するのは比較的できそうですが、私立も含めると高いハードルがあるのでは?

小林氏:彼ら(医療従事者)自身も、自分たちの病院がどうなっているか知って欲しいと思っている。その調査が自治体とか厚生労働省から毎日くる。そういった報告業務がラクになる、というのが1番のインセンティブだと思う。

もう1つは、新たに民間側が(システムを)開発するとコストがかかる。これは国が責任をもってやりますということで、費用のインセンティブもある。

どの組織でも「何かをやめて良いよ」ということから始めないとうまくいかない。DXするとなって、追加で仕事が増えるということを最初はしない。減らすことから始める。

役所もそうだ。こんなの絶対やめた方が良いのにと思っていることも誰かが言わないと、やめられない。

—— トップダウンで決められれば、改革の動きは速くなると?

小林氏:今の役所だけではなく、日本の組織全体でもっとDXが早く進んだら良かったのにという反省がある。

今までは(報告の伝達経路に多くの)人が入ってしまっていた。バケツリレーで本来の生情報がどんどんそぎ落とされていく。良いアイデアが上がってこないことが往々にしてある。(DXが進めば)それが「生(の声)」であがってくる。途中の人がそぎ落としていたことがあがってくる。

デジタル庁は役所改革のファーストペンギン

国会議事堂

デジタル庁は霞ヶ関の各省庁にも影響を及ぼす。

撮影:今村拓馬

小林氏が語るデジタル庁による改革の実現は、言葉で言うほど簡単ものではない。

例えば、その実現には大規模なシステム開発に慣れたエンジニア的知見を持つ人物、プロジェクトを推進するリーダーも必要だ。そうした一流人材を確保するためには、適切な給与や評価制度が欠かせない。

これに対し、小林氏は「専門の人事部をつくるのが第一」と話す。


—— デジタル庁に向けた提言では、人事制度や民間採用の方針も非常にアグレッシブな発信をしている。期待も高い一方、相当な困難があるのでは。成功に導くための「秘策」は?

小林氏:専門の人事部をつくるのが第1。霞が関の状況は、基本的には新卒一括(採用)で中途がほとんどいない。流動性が低い。さらに抜擢(ばってき)も、しているところもあるが少ない。結果、「年功序列」になっている。

なぜそうなるのか。

官僚のみなさんの仕事の概要(ジョブデスクリプション)が、実はキレイに整理されていない。整理されていないが故に評価もあいまいになる。そうすると抜てきは難しい。

かつ、内容が明確ではないので、中途で採用するにしてもどういう専門性が求められているか、分かりづらい。これでさらに流動性が下がる。

今回は(デジタル庁発足は2021年)9月1日からの目途。まず民間採用するなら「人事のスペシャリスト」を採用して、人事制度全般をつくっていく。人事制度ができあがれば、評価制度もでてくると考えている。

小林氏

デジタル庁を官民問わず日本のDXのファーストペンギンにしたいと話す小林氏。

撮影:小林優多郎

—— 民間登用で本当に一線級の人材を採用するなら、給与水準も課題。ほかの省庁と給与のテーブルも変わってくる?

小林氏:全然違うと思う。いままでの局長がいて、参事官がいるといったポストはあるわけだが、それとは別にCTOやCDOがいて、プロジェクトがそれぞれ立ち上がる。それぞれにプロジェクトリーダーやエンジニアがいてといった風になる。それぞれで誰が偉い、参事官でないとプロジェクトリーダーになれない、ということではない。

今までの序列とは別の、違う人事のランクができて、給与のテーブルもできていく。新卒もやってくる。国家公務員の枠の中にデジタルの枠もつくっていく。これも大きなチャレンジだが、デジタル庁をまずはファーストペンギン(現状を変革する最初の挑戦者)にして、霞が関全体の人事制度の見直しにつなげていきたい。

——「人事のプロ」を入れて組織改革を進める、という方針は理解できる。ただ、大企業でも苦労しているが、その「人事のプロ」は、言わば「超改革派」の人物。自由に動き、実績をあげるには、後ろ盾になる人が必要なのでは。

小林氏:とても大事な議論になる。(人それぞれに)得意不得意がある。どんどん制度をつくっていく人と、後ろ盾をしてくれる人も必要。その(後ろ盾の)1つの役割は党側にある。

行政府に対して、もっとも意見をいうのは立法府。党側から必要であると言い続けること、これが1番の後押しになる。(提出した)提言にも明確に、今までの霞が関の人事制度とは違う物にしなければならないと書いてある。

もう1つは、行政府の中でも、上司に当たる人間がしっかりそこを守り「こいつに任せているから」と、明確に権限移譲をしていると示すこと。平井卓也デジタル改革担当大臣、総理がそこ(デジタル庁のDX推進)に対してコミットするとメッセージを出すことが大事だ。

甘利氏と小林氏

甘利明氏(左)と小林史明氏(右)。2020年11月撮影。

撮影:小林優多郎

私は党側で事務総長をしているが、(議員)三期目でこんなに大きな組織の事務総長をするのは本来はありえない。これは、甘利明議員(デジタル社会推進本部座長)が「小林に任せているから」と言ってくれているおかげで、あらゆる調整が非常にスムーズに進んでいる。

得意な人に任せると言っていただけていたのは大きい。官民問わず、マネージメントの手法として大事だと思う。

小林史明:1983年、広島県福山市出身。政治家以前はNTTドコモに勤務。法人営業、人事採用担当を務めた。上智大学理工学部化学科卒業。2012年、第46回衆議院議員総選挙にて初当選。自由民主党行革本部事務局長、青年局長など歴任。現在は、自由民主党デジタル社会推進本部 事務総長を務める(2020年12月時点)。


(聞き手・伊藤有、文/構成/撮影・小林優多郎

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