2020年にもっとも話題を集めた女性バラエティタレントのひとり、SHELLY。若い世代から大きな共感を集める、その秘密とは —— 。
撮影:伊藤圭
自身の離婚にまつわるエピソードを飾らずに話し、家庭円満アピールや良妻賢母が王道だった従来のママタレント像を覆すキャラクターが2020年、反響を呼んだタレントのSHELLY(36)。
ここ数年、力を入れている性教育では、2020年12月にYouTubeチャンネル「SHELLYのお風呂場」もスタートし、こちらもさっそく話題を集めている。
離婚、性教育、ジェンダーギャップなどについて赤裸々に語るSHELLYはなぜ今、多くの人の共感を呼んでいるのか?2021年に目指すこととともに、その理由を本人に直撃した。
離婚の反響は「全く予想していなかった」
「大丈夫、離婚したって全然楽しいから!ってみんなに言ってます(笑)」
「まさか、2020年が離婚一色になるなんて(笑)!そもそも発表を2019年の11月にしたのも、年末までバラエティでたくさんイジってもらって、年明けからはさっぱり普通の生活に戻ってやっていこう、というつもりだったのに」
自分の離婚がここまで話題になったのは、予想していたことですか?と尋ねると、SHELLYはそう笑い飛ばす。
別れを切り出したのは夫から、夫婦カウンセリングに一緒に通った、離婚しても週に一度は子どもは夫の家で過ごす……。元夫との離婚の経緯やその後の生活を開けっぴろげに語るその姿は「令和のシングルマザー像」として脚光を浴び「SHELLY離婚」なる言葉すら生んだ。
「ポジティブなイメージを持たれたい、と思っていたわけではなくて、聞かれたことに淡々と答えていただけなんです。そうしたら『ダウンタウンなう』で坂上(忍)さんに『離婚についてここまでガチで話した人は初めて』と驚かれて」
SHELLYの離婚トークが大きな共感を生んだのには、理由がある。
一つは、元夫の欠点などを笑いのネタにしないこと。そしてもう一つは「離婚した人は負け組」という“お約束”に乗らないこと。
例えば、バラエティのこんな1シーン。結婚間際の幸せそうなカップルのVTRが流れると、バッとSHELLYにカメラが向けられる。暗に求められているのは自虐的なコメントだ。
そこで、あえてその期待に応えない。空気が読めないと思われようと「『素敵!おめでとうございます!』と絶対に喜ぶようにしています」(SHELLY)。
「離婚しちゃって、スイマセン!って笑いを取るのはすごく簡単。バラエティにはそういうセオリーがすでにできあがっているから。でも、私は離婚を失敗だと思っていないし、他人の恋愛の素敵なエピソードは、離婚前も後も変わらず好き。そこでテレビでだけ、ステレオタイプな“離婚キャラ”を演じるのはおかしくないですか?」
この5年で「あ!ハーフが取れた」
「なんでハーフということで区別されるんだろう、というモヤモヤはずっとありました」
1984年、神奈川県・横浜市でSHELLYは生まれた。在日米軍人として働く父の影響で幼少期はアメリカンスクールに通い、男勝りな野球少女だったという。小学校4年生の時、父が退役したタイミングで日本の公立の小学校へ転校する。
そこでSHELLYが直面したのは、2つの「周囲と違うこと」 —— すなわち、「ハーフ」であることと「女の子」であることだった。
「ガイジン!」
中高時代はそう呼ばれることを恐れ、英語のクラスでは先生から当てられないように俯いていた。常に満点を取っていた英語のテストも、ひた隠しにしていたという。
「ガイジンは『私はみんなと一緒ではない』ことを知らしめる言葉。みんながいじめようとするポイントは分かっていたから、それには絶対応えないぞと」(SHELLY)
そうした目に見えない“区別”は、14歳で芸能界に入った後も続いた。バラエティ番組でも演じなければならないのは「ハーフタレント」としてのキャラクターだった。
「“ハーフ枠”での生き残り方は二択なんです。ウエンツ瑛士さんみたいに『僕、この顔で英語しゃべれません!』か、『マクダーナァーズ(あえてマクドナルドを発音よく話す)』みたいに、ペラペラ路線で笑いを取るか。英語を話せることは隠したかったけれど、噓をつくわけにはいかないし……
だからうまいこと、アメリカではどうなの?と振られたら『日本で育っているので分かりません!』『中身は日本人です!』と返したりして、笑いを取っていました」
そんな葛藤が薄れてきたのが、ここ数年のことだ。
「ハーフタレントと言われなくなったのがここ5年ぐらい。最近はメディアでも『タレントのSHELLY』と書いてもらえるから、あ!ハーフが取れた、って。それがすごく嬉しいんです」
フット後藤から「本番で言えばええやろ!」
「例えオンエアでカットされる前提でも(性差別については)言わずにいられないんです」
ハーフとは別のもう一つの葛藤 —— それは「女の子であること」つまり性差別にまつわるものだ。
「ハーフに関しては、正直ほとんど発言はしていなくて。それよりもフェミニズムについて発信するのは、女性であることの実害がありすぎるから。元々、正義感が強くて、不平等なことがあると黙っていられない性格。それが最近、世の中にバレてきたというのはありますね(笑)」
バラエティ番組で、容姿や性的指向についてあげつらう「いじり」にも、テレビに出演し始めた当初から違和感を覚えていた。
「最初からいじりネタに関しては苦笑いだったんですよ。ただある時から『苦笑いも、いじりに加担しているのと同じなんだ』と気が付いて、苦笑いもやめました」
それでも、場の空気を壊すのではないか、どこまで言っていいのか……。そう悩んでいたSHELLYの背中を押したのが、お笑いコンビ・フットボールアワーの後藤輝基だった。
「お前、そんな尻込みしてないで、本番で言えばええやろ!引かれるかどうかなんて気にすんなや。それも含めて笑いにすればええんや」
SHELLYのフェミニズムに関する記事を読んだ後藤が、楽屋でそう声をかけたのだ。
「それ、めちゃめちゃハードル高いじゃないですか(笑)。『そんな簡単に言えるか!』と思ったんですけど……。ただ後藤さんにそう言ってもらえて、そうか、チャレンジしないと一生壁は打ち破れないんだ、と思うようになったんです」
バラエティが大好き、だからこそ
「バラエティが大好きだからこそ、その時代に合ったものであってほしいんです」
離婚を経験し、シングルマザーの子育てについてコメントを求められる機会が増えたことも大きかった。シングルマザーの5割を超える貧困率の高さの根底には、女性差別の問題が潜んでいると、SHELLYは声を強める。
「私がこれだけポジティブに離婚について話せるのは、お金があるから。これから結婚する女性たちには、絶対にシングルでも育てられるだけの経済力を身に着けて、と言いたいし、そのために必要なのがジェンダー・性教育なんです」
この2年ほどで、バラエティの現場も変わってきたという。今までオンエアでカットされていたSHELLYの発言が、放送されるようになってきたのだ。
例えば「お前、コッチ系なの?」といういじりに「まあ、別におかしいことじゃないんですけどね」と口を挟む。女性ゲストが「料理できないのかよ!」とツッコまれると「女性が料理できるのは当たり前、というのも変なんですけどね」と、逆にツッコんでみる。
「バラエティって、みんなが感じている“違和感”を突っつくことで笑いが起きるんです。ジェンダーや容姿に対するいじりは、みんなが何となく『おかしいよね』と感じていたこと。いざ突っついてみると、まず女性が笑うようになった。そうすると、男性も笑わざるを得なくなる」
「大前提として、私はバラエティが大好き。だからこそ若い子たちに、バラエティってやっぱり面白い!って思ってもらいたい。今の若い子たちは『お前、太ったな』なんていじりを見たくないんですよ。それに早く気づいて!って、小石を投げ続けている感じです」
YouTubeの性教育チャンネルは「特効薬」
「学校や大人が(性について)教えてくれない。なら私が教えます、と」
バラエティではそれでも「攻めすぎない、大勝負をしない」と決めているSHELLYだが、性教育にはライフワークとして取り組んでいる。
2020年12月には、YouTubeチャンネル「SHELLYのお風呂場」をスタート。10代から20代の女性を主要なターゲットに、セックスについての知識や身体の仕組み、そしてジェンダーギャップに関する問題提起など、性について幅広く取り扱うつもりだという。
「教育が悪い、社会が悪いと言っていてもなにも始まらない。まずは特効薬として、YouTubeを始めてみるしかないなと。望まない妊娠を一件でも防げたり、性病の可能性を少しでも減らせたら、それだけでやる意味がある。全員じゃなくていい、届くべき人に届いてくれればいいんです」
2021年の目標は?と尋ねると「YouTubeを長く続けたい」と即答する。
「私の出費が今はめちゃくちゃ多いので(笑)。サステナブルに性教育をしていくために、自分の仕事としてきちんと成立させなくてはいけないなと」
チャンネルで対談してみたい人や、憧れの人は……と問うと、フェミニズムの分野で知れた名前が次々に飛び出した。
「海外だと(歌手、ラッパーの)Lizzo(リゾ)。あとは姉から教えられてフォローしている(歌手の)ジャミーラ・ジャミル。日本では、社会学者の千田有紀さん、脳科学者の中野信子さん、そして小島慶子さん。タレントでは、さっしー(指原莉乃)もすごく賢いんですよ。みんな気づかないけれど、彼女もずっと、小石を投げ続けている」
時に笑いも交えながら、社会問題についてズバズバと臆さず語るSHELLYの言葉は、どこまでもまっすぐだ。
最後に、芸能界のタブーに切り込むことに恐れはないのですか?と聞いてみると、にっこりと笑いながら、こう答えてくれた。
「芸能界で生きていけたら最高だけど、私は働くことが好きだから、最悪、芸能界を干されたとしてもそれ以外の仕事で生きていける自信があるんです。それより言わない方が私にとってはつらいし、やっぱり、言わずにはいられないかな」
(取材・文、西山里緒、撮影・伊藤圭、取材協力・丹治倫太郎)