ミライノツクリテたちに聞く「28歳の自分に今声をかけるとしたら」。スノーピーク社長の山井梨沙(33)のメッセージとは。
私が28歳の時といえば、スノーピークに入社して2年ほど経って、アパレル事業を立ち上げた頃です。
いいものをつくれたという自信はあったけれど、世の中の反応はまだ見えていなくて、「本当にこれでいいのかな」と疑心暗鬼で模索と改善を繰り返していました。
その頃の自分に何か言ってあげるとしたら、「大丈夫。どこまで進んでも、同じ感じだよ」と安心させたいですね。
私はいつも掲げる目標が高すぎて、どこまで頑張っても到達できない。「アパレル業界を変えたい」とか「世の中を変えたい」とか「失われている野生を人間に取り戻してほしい」とか、時間がいくらあっても足りない目標ばかり追いかけてしまうんです。
何か形にするたびに「いいものができた」と一瞬の満足はできるんだけど、すぐに「全然これじゃ足りなかった」と打ちのめされることも繰り返し。
28歳の頃の私も、初めて立ち上げたブランドがアメリカでも卸先が決まって、それなりに喜ぶべき成果を出していたのに、「アパレル事業を立ち上げるだけじゃ、世界は変わらなかった……」と打ちのめされていました。
「大丈夫。その焦りや不安は、5年後の今も感じているから、じっくりやっていこうよ」と言ってあげたい。
一言加えるとしたら、こうかな。
「自分を信じて続けなさい」
私の経験上、本当に行動が間違っているときには、それ相応の出来事が起きるんです。誰かが「間違っている」と強く引き戻してくれたり、進もうにも進めない出来事が起きたり。
だから、仲間が賛同してくれている限りは、そのまま突き進んでいいと思う。進めるところまで進めばいいんだよって、背中を押したいです。
誰かが用意してくれた道とは違う、道なき道を進むのはラクではないですよね。でも、進んでしまうのなら仕方がない。そうやって、いろんな道が開拓されてきたのだから。
苦しいときにはいつも、身近なアウトドアパーソン、勇敢でお節介な人たちが私を助けてくれました。私もまた、仲間の力になれるアウトドアパーソンでありたいと思っています。
新たな夢は「村づくり」
今、私はまた新たな大きな夢に向かっています。
スノーピークの価値観をもっと深く体験してもらえる「村」をつくりたいと、準備を進めているんです。
村って何ごと?と不思議に思われますよね。詳しくお話しできるのは少し先になりますが、目的はこれまでと同じ。「自然の中で体験できる人間性の回復を提供する」というものです。
いつたどり着けるかわからない、はるか遠くのゴールを見失わないように。私も一心に進んでいきます。
(敬称略・完)
(文・宮本恵理子、撮影・鈴木愛子)
宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。